オンライン資格確認等システムの円滑導入に向け、システムベンダー等は「納得感のある適切な見積もり」提示を―社保審・医療保険部会
2021.2.18.(木)
今年(2021年)3月下旬からオンライン資格確認等システムが本格稼働するが、医療機関等での準備が十分に進んでいない。その背景には「システムベンダー等の見積もりが不明瞭で、医療機関等が納得できてない」という問題がある。適切かつ納得感のある見積もり提示が求められる―。
「医療保険の訪問看護」レセプトについても、2023年1月請求分(2022年12月診療分)からオンライン請求を原則とする―。
2月12日に開催された社会保障審議会・医療保険部会で、こういった議論が行われました。
オンライン資格確認等システムの導入、「不明瞭な見積もり」がハードルの1つ
今年(2021年)3月下旬から「オンライン資格確認等システム」が稼働します。
公的医療保険制度(健康保険制度)は、病気やケガといった保険事故に備えて加入者(被保険者)が保険料を納め、事故に遭遇した際に、保険から給付(年齢や所得に応じて医療費の7-9割を給付、さらに高額療養費制度などによる手厚い給付も行われる)が行われる仕組みです。
医療保険に加入していない人にはこうした給付が行われない(全額自己負担となる)ことから、医療機関等の窓口では「患者がどの医療保険に加入しているのか」を被保険者証(保険証)で確認します(資格確認)。しかし現在、この資格確認は、事実上「レセプト請求の中で行う」こととなるため、医療機関窓口で「この患者は、被保険者証本人に記載されている本人なのか」「提示された被保険者証は有効か」を確実に確認することができません。
このため、例えば「A社で働いていたサラリーマンが、退職後にも在職中の被保険者証(保険証)を返還せずに使用して診療を受ける」という事例が少なからず生じています(1か月当たり30万―40万件)。これは「自分が加入していない医療保険等に費用を負担させる」こととなり、許されません(退職後は、別の医療保険(新たな勤め先の健康保険や、自営業や無職の場合には国民健康保険)に加入し、その医療保険を利用しなければならない)。
そこで、医療機関等を受診した際に、窓口で「当該患者が医療保険に適切に加入しているか」を確認することを目指し、オンライン資格確認等システムが導入されます。医療機関等の窓口で「患者がどの医療保険に加入しているのか」を瞬時に確認するもので、資格確認は例えば次のような流れで行われます。
▼患者が、健康保険被保険者証機能を持つ「マイナンバーカード」を医療機関等窓口でカードリーダーにかざす
↓
▼医療機関等のパソコン端末から、オンラインで社会保険診療報酬支払基金(支払基金)・国民健康保険中央会(国保中央会)のデータに「当該患者がどの医療保険(健康保険組合や国民健康保険など)に加入しているのか」を照会する
オンライン資格確認等システムが完全に稼働するためには、(1)すべての医療機関等においてカードリーダーシステムなどの環境整備を行う(2)すべての国民が健康保険被保険者証機能を持つマイナンバーカードを保有する―ことなどが必要となります。
しかし、(1)のカードリーダー申し込み状況を見ると「医療機関等全体の28.5%」にとどまり、(2)のマイナンバーカードの健康保険被保険者証利用申し込みは「マイナンバーカード保有者の7.8%」にとどまっています。現状では「3月下旬のスタート時点で、全国の医療機関等でオンライン資格確認等システムを利用できる」とは言い難く、佐野雅宏委員(健康保険組合連合会副会長)は「被保険者・被扶養者に対して『医療機関等受診の際には、既存の被保険者証(保険証)利用が確実である』と情報提供せざるを得ない。そこは国にも理解してもらいたい」と指摘しました。保険証を持たず、その代わりとしてマイナンバーカードを持って医療機関等を受診した際に「当院ではオンライン資格確認等システムにまだ対応していません。保険証がなければ保険診療は受けられません。今回は、かかった医療費の全額を自己負担してください」となることも考えられ、現場が混乱することを佐野委員は危惧しているのです。もちろん、この場合でも健康保険組合や協会けんぽなどに事後に申請することで、7-9割の医療費償還を受けることができますが、手続きの煩雑さは否めません。
この点、医療機関等サイドの準備が思うように進んでいない背景には、▼国による周知が不十分である▼医療機関等が様子見をしている▼システムベンダー等の見積もりが不明瞭である▼新型コロナウイルス感染症の影響が出ている―ことなどがあります。
このうち、現時点で特に問題視されているのが「システムベンダー等の見積もり」についてです。厚生労働省保険局医療介護連携政策課の山下護課長は「実際に、あるクリニックに某ベンダーから示された見積もりを見たが、そこには▼機器等費用:77万9400円▼設定作業費用:20万円―合計97万9400円とあり、ここから『37万9400円の値引き』とあった。設定費用に20万円もかかる一方で、40万円近い値引きが行われるとは、どういうことなのか、クリニック側も理解できないでいる」状況を紹介。併せて各ベンダー等に対して「適切な納得される見積もり」を提示してもらうよう要請していることも強調しました。例えば、設定作業費用が20万円である場合、当該費用が「高い」と値引きを求めることはしませんが、「当該作業に何人のスタッフが必要で、時給はどの程度で、何時間かかるのか」などの根拠を示してもらう必要がある、と山下医療介護連携政策課長は説明しています。
病院代表として参画する池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長、福井県医師会長)は、「病院ではシステムも大がかりとなるため見積もり金額も高くなるが、各ベンダーで見積もり額に非常に大きな差があり、納得できるものではない」と強調しました。
なお、オンライン資格確認等システムの導入に係る「標準的な費用」については国から補助が行われます。医療機関等のシステムは千差万別であり、オンライン資格確認等システムの導入にあたっても一定のカスタマイズ等が必要となり、それが費用の高さに結びついている部分もあると考えられます。医療機関等とシステムベンダー等との間で十分な話し合いも必要と考えられます。
なお、3月下旬の本格稼働に向けて、3月上旬に500医療機関等を対象にした「プレ運用」(本番環境での試行)が行われます。これを睨んで現在、各医療保険者・支払基金・国保連・国(厚労省)において「被保険者等データのクリーニング」が行われています。例えば、「本来であれば存在しないはずの『複数の医療保険に加入する人』が、実際には存在している」などの問題があり、関係者が1つ1つデータクリーニングを行っているのです。
運用後も、こうした問題が生じる可能性がある(資格の得喪情報が適切に共有されない場合など)ため、山下医療介護連携政策課長は「加入者・事業主・保険者間の情報連携・共有をしっかりと行ってもらうことが重要である」とコメントしています。
医療保険の訪問看護、2023年1月請求(2022年12月診療)分からオンライン請求へ
また、2月12日の医療保険部会では、「医療保険の訪問看護」レセプトについて、2023年1月請求分(2022年12月診療分)からオンライン請求とするスケジュールが確認されました。
「医療保険の訪問看護」については、現在、「紙」でのレセプト請求となっていますが、▼今年度(2021年度)に訪問看護ステーションやシステムベンダーなどへの周知を行う▼来年度(2022年度)の診療報酬改定を踏まえて運用に向けた準備等を進める▼2023年1月請求分(2022年12月診療分)から電子請求を原則とする―というスケジュール感で進められます。
この点について秋山智弥委員(日本看護協会副会長)は、レセプトの電子化推進に向けて▼訪問看護ステーションへの財政支援▼オンライン請求とセットでの「オンライン資格確認等システム」導入―を要望。さらに、訪問看護では「看護師1人1人が患者宅を訪問する」という形態に鑑みて、「例えば1人1人に資格確認用端末を配布する」などの現実的な対応を行ってほしいと求めました(事業所に1台、カードリーダー端末があっても機能しない)。
また関連して安藤伸樹委員(全国健康保険協会理事長)は、クリニック・歯科クリニックについて「期限を定めて紙レセプト請求、電子媒体請求を廃止し、すべてオンライン請求とすべき」と要請しています。現在、クリニックの3割、歯科クリニックの8割は「紙」「電子媒体」での請求となっており、審査コストにも跳ね返っている(保険者の負担が大きくなっている)状況です。今後の「データ連結、利活用の推進」にも関連する重要な検討テーマの1つと言えるでしょう。
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