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患者データの全国医療機関・薬局での共有、機微性の高さ踏まえた慎重な制度設計・運用を—社保審・医療保険部会

2021.1.18.(月)

全国の医療機関や薬局、さらに患者自身が「個々人(患者にとっては自分自身)の▼薬剤▼手術・移植▼透析―などの情報を確認可能とする仕組み」(EHR:Electric Health Record)が2022年夏から運用される。こうした取り組みは非常に重要で積極的に進めるべきだが、極めて機微性の高い情報であり、その共有方法や共有内容については慎重に考える必要がある—。

1月13日に開催された社会保障審議会・医療保険部会で、委員からこう言った意見が出されました。遠藤久夫部会長(学習院大学経済学部教授)は、「健康・医療・介護情報利活用検討会」にこうした意見が出ていることを伝え、制度設計に生かしてほしいと、厚生労働省の担当者に要請しています。

1月13日に開催された「第139回 社会保障審議会 医療保険部会」

患者の過去の手術歴などを「一律」に共有してよいのか?との問題意識も

我が国では、公的医療保険制度・公的介護保険制度が整備されているために「質(精度)が高く、膨大な量の健康・医療・介護データ」が存在します(例えばレセプトデータ)。これらのデータを有機的に結合し、分析することで、健康・医療・介護サービスの質を高めるとともに、かつ効率的な提供も可能になると考えられ、厚生労働省を中心に「データヘルス改革」が進められています。

この点、加藤勝信前厚生労働大臣は(1)EHR(全国の医療機関で、患者個々人の▼薬剤▼手術・移植▼透析―などの情報を確認できる仕組み)を構築し、2022年夏から運用する(2)(2)電子処方箋を2020年夏から運用する(3)PHR(国民1人1人が、自分自身の薬剤・健診情報を確認できる仕組み)について2021年に法整備を行い、2022年度早期から運用を開始する―方針を明確化。「健康・医療・介護情報利活用検討会」(以下、検討会)を中心に制度の詳細について議論を重ね、昨年(2020年)末に具体的方針が取りまとめられました。

このうちEHRは、全国の医療機関や薬局、患者自身が「個々人(患者にとっては自分自身)の▼薬剤▼手術・移植▼透析―などの情報を確認可能とする仕組み」です。例えば、意識不明の状態で救急搬送された患者、認知症高齢者などの治療を行う際、医療機関がEHR情報から「当該患者の過去の薬剤投与歴や手術歴」などを正確に確認することができれば、適切かつ安全な医療を、効果的・効率的・迅速に提供することが可能となります。

EHRの仕組み概要(医療保険部会1 210113)



今年(2021年)3月から稼働するオンライン資格確認等システムのインフラを活用することから、現時点では「レセプト」情報が確認・共有のベースとなります。薬剤情報については今年(2021年)10月から、その他の情報は来年度(2022年度)から確認可能となる見込みです。

制度設計に当たっては、(1)確認可能な情報をどの範囲とするか(2)患者がどうやって情報共有をコントロールするか(3)救急搬送時の情報確認をどう考えるか―という3つの大きな論点がありました。

このうち(1)の「情報の範囲」については、まず少なすぎれば利活用する価値がなくなります。一方で、情報が多すぎても「医療現場ではかえって使いにくくなる」という点を踏まえて、次のように固められました。例えば、一刻を争う救急現場では「必要な情報が瞬時に把握できる」ことが重要であり、そうした情報に絞って共有することが重要と考えられたのです。

▼薬剤情報
▼医療機関名
▼診療年月日
▼手術(移植・輸血含む)
▼放射線治療
▼画像診断(「画像診断・病理診断を行った」という事実が共有される)
▼病理診断
▼処置のうち透析
▼特定の傷病に対する長期・継続的な療養管理が確認できる医学管理等・在宅療養指導管理料

患者が確認できる情報の範囲案(医療険部会2 210113)

医療機関等で確認できる情報範囲案(医療保険部会3 210113)



大きな議論となったのは「傷病名」です。治療方針を立てるなどの際には、当該患者の傷病名共有が極めて重要であることは、ここで述べるまでもありません。しかし、傷病によっては「患者に伝えられていない」ケースもあり、「すべての傷病名を共有してよいか」が重要論点となったのです。

この点、例えば「精神疾患」や「がん」などの傷病名が、患者に告知される前に共有されてしまえば、その後の治療に悪影響が出ることを重視し、▼患者への告知を前提とする▼レセプト上で告知状況を確認できる方法を十分に議論し、あらためて提供の仕組みを検討・実装する―こととなりました。

ただし医療機関等では、上述の「特定の傷病に対する長期・継続的な療養管理が確認できる医学管理等・在宅療養指導管理料」情報などから傷病名を推測し、治療に役立てることが期待されます。



また(2)は、患者が自分のあずかり知らぬところで「自身の重要な情報が共有される」ことを避ける必要があるという論点です。

患者自身が、医療機関等を受診する都度に、「この医療機関等では自身の過去の治療歴情報等を確認してもらってよい」「この医療機関等にはそうした情報を知られたくないので、確認を許可しない」と決定できる仕組みが設けられます。

今年(2021年)3月からはマイナンバーカードの被保険者証(保険証)利用が可能になる予定で、医療機関等の窓口に設置されたカードリーダーにマイナンバーカードをかざして資格確認(自分が公的医療保険に加入していることを証明する)しる際に「当院で、過去の治療歴などの確認を許しますか?」とのメッセージが現れ、「はい」「いいえ」を患者自身が選択するイメージです。



このように、自身の情報の共有可否は患者自身がコントロールしますが、例えば意識不明で救急搬送された際に「患者自身の同意がないために患者情報を共有できない」となったのではEHR創設の意味がなくなってしまいます。こうした場面でこそ、EHRの真価が発揮されるからです。

そこで検討会では、▼救急医療に携わる有資格者等に専用IDを発行し、「救急専用端末」でのみ情報照会可能とする(患者情報にアクセスできる人物を限定する)▼閲覧者を画面表示する等の利用状況のモニタリングを行う(患者が事後に「誰が自分の情報にアクセスしたか」を確認できるようにする)―方針を固めました。「安易な患者情報へのアクセス」を防止するものです。

意識不明で救急搬送された場合などの取り扱い(医療保険部会4 210113)



こうした仕組みが1月13日の医療保険部会に報告され、委員は「データヘルス改革は非常に重要であり、積極的に推進すべき」という見解で一致しました。

もっとも、共有する情報は上述のように非常に機微に飛んでおり、具体的な運用方法等を詰めるにあたり慎重に検討すべき部分も少なくない、との意見も出ています。

例えば松原謙二委員(日本医師会副会長)は、「診療情報共有の可否を患者自身が決定できるが、『共有を認めない』と患者が判断した場合、当該医療機関等の医師と患者との間の信頼関係にひびが入ってしまう」「信頼関係が崩れることを恐れ、患者が情報共有を認めれば、知られたくない『過去のがん手術や精神疾患治療歴など』も共有されてしまう」と指摘し、情報共有の範囲を「一律に考えて良いのだろうか」との問題意識を表明しています。

また池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長、福井県医師会長)も、医療現場においては、医師と患者・家族との間で、言わば阿吽の呼吸により「病名をしばらく伏せる、和らげて伝える」などの工夫を行っていることを強調。病名を情報共有するかどうかは、上述のように▼患者への告知を前提とする▼レセプト上で告知状況を確認できる方法を十分に議論し、あらためて提供の仕組みを検討・実装する―こととなっているものの、「正確な傷病名を知り、また背景を理解するためには、医療機関間で診療情報提供書によるやり取りをベースに考えるべきではないか」との考えを示しています。

遠藤部会長もこうした意見・問題意識に強く共感し、「こうした懸念が出ていることを検討会等に伝達し、制度の詳細を固めていく際に十分に参考にしてほしい」と厚労省担当者に要請しています。



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