要介護高齢者の急性期入院が増えており、医療機関へ「要介護認定調査」や「ケアプラン」の情報共有を進めよ—介護情報利活用ワーキング
2023.4.7.(金)
医療現場での「介護情報」共有、介護情報での「医療情報」共有が極めて重要である—。
急性期入院医療でも「要介護高齢者」が数多く入院しており、例えば「要介護認定調査票」や「ケアプラン」などの情報を医療現場にも共有することで、より質の高い医療提供が可能となるとともに、円滑な退院・転院にもつながると期待できる—。
4月5日に開催された健康・医療・介護情報利活用検討会「介護情報利活用ワーキンググループ」(以下、ワーキング)で、こうした議論が行われました。
介護サービス提供では「日常生活により深く入り込む」ため、情報連携には十分な配慮を
医療分野と同様に、介護分野についても「利用者の同意の下、過去の介護情報を介護事業者間で共有し、質の高い介護サービスを提供する」ことが重視されています。これまでのワーキングで「本人が閲覧したり、介護事業所間、市区町村等で共有することが有用である」「記録方法や様式がすでに一定程度、標準化されている」ものとして、例えば(1)要介護認定情報(2)請求・給付情報(レセプト)(3)LIFEデータ(4)ケアプラン—からまず共有を進めてはどうかという考えが固まりつつあります(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちら)。
そうした中で「介護情報を医療現場で利活用する」「医療情報を介護現場で利活用する」ことも重視されています。例えば「要介護高齢者が急性期病棟に入院する」場面では、日頃受けている介護サービス情報・居住環境情報を把握しておかなければ円滑な退院が適いません。また介護サービス提供・ケアプラン作成にあたっては、当該要介護者の医療ニーズを十分に把握することが極めて重要なことは述べるまでもありません(すでに「主治医意見書」が要介護認定の1要素に組み込まれている)。
4月5日のワーキングでは、この「医療・介護間での情報連携」のうち「介護事業所や自治体から医療機関へ共有すべき利用者の介護情報」を議題としました(次回会合で「医療機関から介護事業所や自治体へ共有すべき医療情報」を議論する予定)。
この点、医療・介護間での情報連携推進に向けて、▼熊本県においては、脳卒中や大腿骨頸部骨折の患者について「医療・介護を含めた地域連携パス」を用いて医療・介護双方の現場で様々な情報を連携することで、より質の高い治療・サービス提供を可能としている(野尻晋一構成員:全国デイ・ケア協会理事)▼利用者・患者の価値観、生活上のこだわり、生活習慣、役割や生きがいとしていること、家族との関係などの「ナラティブデータ」こそが、質の高い医療・介護提供に向けて「共有すべき」情報と言えるが、標準化などが難しく、そこ検討していく必要がある(能本守康構成員:日本介護支援専門員協会常任理事)▼急性期医療の段階からICF(刻足生活機能分類:心身機能・身体構造、活動、参加、健康状態など)情報を活用することが極めて重要ではないか(荒井秀典主査:国立長寿医療研究センター理事長)▼本人の意思を確認できない際には、家族・専門職が普段の状況などから「意思を推測」ことが必要になる。このため介護施設などで提供していたリハビリ、認知ケア、生活状況などの情報を共有することが重要になる(江澤和彦構成員:日本医師会常任理事)▼急性期病棟の高齢入院患者では、脳血管疾患患者の2割、循環器疾患・整形外科疾患の5割が要介護状態である。DPCの様式1では「介護保険利用の有無」情報記載を求めているが、データを分析すると正確に記載されていないことが分かっている。要介護認定調査票などのデータ共有が必要と考える。例えば病棟での看護必要度B項目と、平時のADL状況を比較することで「いつ在宅復帰できそうか」などの判断が適切に行える(松田晋哉構成員:産業医科大学医学部公衆衛生学教授)—などの意見が出されました。
今後、研究班を立ち上げ、構成員の意見も踏まえて「どのような情報を医療・介護間で連携していくか」「どのように連携していくか」「どのように効果的に利活用していくか」などを研究・検討していきます。
その際重要になるのが「情報の安全管理」です。医療・介護情報には、極めて機微性の高いものが含まれるため「情報の管理、共有などは適正な環境の下で行われる」必要があります。こうした情報連携は、今後「紙」ではなく「電子データ」で行われ、対象施設・事業所が非常に広範になるため、安全管理の必要性・重要性がますます高まっていきます。山本隆一構成員(医療情報システム開発センター理事長)は「多くの介護事業所で情報共有をする仕組みを構築した際、1つの事業所の脆弱性が、すべての事業所に悪影響を及ぼしてしまうことなどに留意しなければならない」点を強調しています。
この点、▼個人情報の適切な管理を行う際の指針となる「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」▼医療情報を適切に管理・利活用する際の指針となる「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」▼自治体において個人情報を適切に管理する際の指針となる「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(行政機関等編)」」—が整備されていますが、「介護情報に特化した指針」は設けられていません。
このため江澤構成員は「介護版の情報管理指針を定めるべき」と指摘。また、島田裕之構成員(国立長寿医療研究センター老年学・社会科学研究センターセンター長は「ガイドライン等を整備するにとどまらず、スタッフ1人1人がその内容をきちんと理解し、実践できるような工夫が必要である」と、齋藤訓子構成員(日本看護協会副会長)は「小規模な介護事業所が情報管理を適切に行えるような支援を検討すべき」とコメントしています。
この点も、今後の重要検討・研究課題の1つになります。
なお、介護情報に関しては「共有を慎重に考えなければならない」ものも少なくありません。例えば、「独居の要介護高齢者が急性期疾患治療を終え、自宅復帰が可能になるまで回復した。しかし1人暮らしは不安で、地域の在宅介護サービス・生活支援サービスが十分ではない。家族との同居を検討する」ことになった場合、「家族関係が良好か否か」などの情報が必要となります。その際、「家族関係」について、どの範囲で共有すべきかは、「情報共有の範囲を狭めすぎれば十分なサービスにつなげられない」「情報共有の範囲を広げすぎれば利用者との信頼関係が壊れる可能性がある」という極めて難しい論点となります。おそらく一律なルールは決められず、最終的には「現場での判断」になると思われますが、その際にも基本的なルールは定めておく必要がありそうです。
このほかにも、利用者が信頼関係のあるヘルパーに「あなただから、あなたにだけ言います」と伝えた情報について、「どこまで共有してよいのか」という難しい問題も出てきます。情報の内容にもよりますが、上記と同様に「情報共有しなければ適切なサービスに支障が出る可能性がある」一方で、「安易に情報共有すれば信頼関係が壊れてしまう」ことにもなります。
医療に比べて、介護サービス提供にあたっては「より深く利用者・家族の日常生活に入り込む」ことが少なくなく、こうした場面に数多くでくわすことになります。「介護特有の情報共有の難しさ」を十分に踏まえて研究・検討を進めることが必要です。
関連して、能本構成員は「例えば喫煙習慣のある要介護高齢者において、医師は『禁煙』を厳命するであろうが、ヘルパーなどは利用者から『タバコが体に悪いのはわかるが、これだけが楽しみである』との話を聞くこともあろう。その際、利用者の意向も踏まえ、例えば『食後の1本のみ許容する』などの選択肢もありえるのではいか」との考えを提示しました。介護サービス提供においては「科学的な正解」のほかに、「本人や家族の意向(黙示・明示)を踏まえた選択肢」があることもしっかり認識する必要がありそうです。
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