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2021年度、市町村国保で1.37倍、後期高齢者で1.50倍の「1人当たり医療費格差」、ベッド数・在院日数の適正化進めよ—厚労省

2023.7.4.(火)

2021年度の1人当たり医療費(電算処理分)を見ると、市町村国保では最高の佐賀県と最低の茨城県との間に1.37倍の、後期高齢者医療では同じく最高の福岡県と最低の岩手県との間に1.50倍の格差がある—。

厚生労働省は6月30日に2021年度の「医療費の地域差分析」(電算処理分)を公表し、こういった状況を明らかにしました(厚労省のサイトはこちら)。

地域差の原因を探ると、医療費の高い地域では「高い頻度で、長期間入院している」ことが再確認できました。「ベッド数が過剰などために、不要な入院延伸がなされていないか」などを確認し、各地域で、医療費の地域差是正に努めることが重要です。

市町村国保、1人当たり医療費トップは佐賀県、最も低い茨城県の1.37倍

昨年度(2022年度)から、いわゆる団塊世代が75歳以上の後期高齢者となりはじめ、2025年度には全員が75歳以上となることから、今後、急速に医療費が増加していきます。その後、2040年度にかけて高齢者「数」は大きく変わらないものの、支え手となる現役世代人口が急速に減少していきます。「少なくなる一方の支え手」で「増加し続ける高齢者」を支えなければならないことから、公的医療保険制度の基盤は極めて脆くなっていきます。

こうした状況の中では、「医療費の伸びを我々国民の負担できる水準に抑える」(医療費適正化)ことが必要不可欠です。医療費適正化に向けては、「1人当たり医療費の地域格差を是正していく」ことが重要方策の1つとなりす(関連記事はこちら(骨太方針2021))。

このためには、まず「医療費の地域差がどの程度あり、その要因はどこにあるのか」を明らかにする必要があります。ただし、医療費は「地域の人口構成に大きな影響を受け」ます。高齢者が多い地域では必然的に医療費が高くなり、人口数で除した1人当たり医療費も高くなりますが、これを「遺憾である」と考えることはできません。述べるまでもありませんが「高齢化=悪」ではないからです。

そこで「1人当たり医療費の地域差」を分析するにあたっては、「地域ごとの年齢構成(高齢者割合など)の差」を補正・調整することが重要です(年齢構成を揃える形で補正する)。本稿では主に、補正・調整を行った「1人当たり年齢調整後医療費」を、市町村国保(74歳まで)と後期高齢者医療制度(75歳以上)に分けて見ていきます。なお、今回は「電算処理分」のみを集計対象としています。

まず市町村国保の「1人当たり年齢調整後医療費」を見てみると、2021年度は全国平均で38万300円。都道府県別に見ると、最高は佐賀県の46万1579円(全国平均の1.214倍)。次いで▼鹿児島県:45万6302円(同1.20倍)▼大分県:44万1912円(同1.162倍)—と続きます。

逆に最も低いのは茨城県 33万5129円(全国平均の0.881倍)で、▼埼玉県:34万9452円(同0.919倍)▼愛知県:35万1001円(同0.923倍)―と続きます。

最高の高知県と最低の新潟都の間には12万6450円・1.37倍の開きがあります。

市町村国保の1人当たり医療費1(2021年度医療費地域差分析1 230630)

後期高齢者の1人当たり医療費2(2021年度医療費地域差分析2 230630)



医療費の地域差を、日本地図を色分けした医療費マップで見てみると、依然として「西日本で高く、東日本で低い」(西高東低)傾向が継続していることを確認できます。

市町村国保医療費マップ(2021年度医療費地域差分析3 230630)

「過剰病床を埋めるための不適切な入院延伸」を解消し、入院医療費の地域差是正を

では、こうした1人当たり医療費の「地域差」はなぜ生じるのでしょう。この原因を探るには、医療費を次の3要素に分解することが有用です。

(要素1)1日当たり医療費
いわば「単価」
→単価の高低の評価は容易ではありませんが、例えば「不必要な検査をしていないか」「後発医薬品の使用は進んでいるか」などを考えるヒントになります

(要素2)1件当たり日数
一連の治療について、入院ではどれだけの日数がかかり、外来では何回(=日数)医療機関にかかるのか
→例えば、同じ疾病、同じ重症度の患者間で入院日数が大きく異なれば、「退院支援がうまく機能しているのか」などを考えるヒントになります

(要素3)受診率
どれだけの頻度で医療機関にかかるのか
→例えば「頻回受診、重複受診がないか」などを考えるヒントになります



市町村国保医療費の地域差において「入院」「入院外」「歯科」それぞれの影響度合いを見ると、「入院」の影響が大きいことが分かります。そこで入院医療を上述の3要素に分解して「地域差には、どの要素が影響しているのか」(寄与度)を見てみましょう。

市町村国保の入院・入院外等医療費分析(2021年度医療費地域差分析4 230630)



入院医療費の高い地域(佐賀県、鹿児島県、大分県など)では、▼「受診率」と「1件当たり日数」が医療費を高める方向に寄与している▼「1日当たり医療費」は医療費を低くする方向に寄与している―傾向があることが分かります(従前と同じ傾向)。一方、入院医療費の小さな地域(愛知県、茨城県、埼玉県など)では、「『受診率』が医療費を低くする方向に寄与している」ことが分かります(やはり従前と同じ傾向)。

市町村国保入院医療費の3要素分析(2021年度医療費地域差分析5 230630)



これらを総合すると、▼1人当たり医療費の高い地域では、高い頻度で入院し、かつ濃度の薄い医療を長期間受けている▼1人当たり医療費の低い地域では、入院の頻度が低く、かつ高濃度の医療を短期間受けている―ことが推定されます。

つまり医療費の地域差を解消するためには、▼不適切な入院(例えば入院の必要性がない患者を入院させる社会的入院など)が生じていないか▼不適切な在院日数の延伸(例えば病床稼働率を維持するために、退院可能な患者を退院させないなど)が生じていないか—を十分に確認する必要があります。とくに1人当たり医療費の高い地域では、この点の確認・是正が極めて重要です。

さらに、こうした「頻度の高い、期間の長い入院」の背景には「病床数」が大きく関係している点にも留意が必要です(関連記事はこちら、医療費の地域差と病床数との間には、極めて大きな相関がある)。端的に「空き病床を埋めるために、不適切に入院期間を延伸し、結果、医療費が増加してしまう」可能性が考えられるのです。さらに不適切な入院期間の延伸は「院内感染リスクの上昇」「ADL低下リスクの上昇(つまり寝たきりの誘発)」「患者のQOL低下」などの悪影響も招きます。まず「地域の医療ニーズにマッチする病床数になっているか、過剰な病床数整備がなされていないか」を地域ごとに確認し、適正な数に是正していくことが求められるでしょう。

後期高齢者、1人当たり医療費トップ福岡県、最も低い岩手県の1.50倍

次に後期高齢者医療の「1人当たり年齢調整後医療費」を見てみると、2021年度は全国平均で91万819円でした。都道府県別に見ると、最高は福岡県の109万6386円(全国平均の1.204倍)。次いで▼高知県:109万3139円(同1.20倍)▼鹿児島県:107万1324円(同1.176倍)―と続いています。

逆に最も低いのは岩手県の73万2048円(全国平均の0.804倍)で、▼新潟県:73万2787円(同0.805倍)▼青森県:76万2347円(同0.837倍)―と続きます。

最高の高知県と最低の新潟県の間には36万4338円・1.50倍の開きがあります。

後期高齢者の1人当たり医療費1(2021年度医療費地域差分析6 230630)

後期高齢者の1人当たり医療費2(2021年度医療費地域差分析7 230630)



後期高齢者の入院医療費について、市町村国保医療費と同様に▼1日当たり医療費▼1件当たり日数▼受診率—の3要素に分解した寄与度を見てみると、入院医療と同様に▼「1日当たり医療費」と「1件当たり日数」は、医療費の高い地域では「医療費を低くする」方向に、医療費の低い地域では「医療費を高める」方向に寄与している▼「受診率」は、医療費の高い地域では「医療費を高める」方向に、医療費の低い地域では「医療費を低くする」方向に寄与している―ことが分かります。

後期高齢者入院医療費の3要素分析(2021年度医療費地域差分析10 230630)

後期高齢者医療費マップ(2021年度医療費地域差分析8 230630)

後期高齢者の入院・入院外等医療費分析(2021年度医療費地域差分析9 230630)



やはり、1人当たり医療費の高い地域では、高い頻度で入院し、かつ濃度の薄い医療を長期間受けていると推定され、「不適切な社会的入院」や「不適切な在院日数の延伸」がないかを見ていく必要があります。

冒頭に述べたように、高齢化がますます進行する中では、後期高齢者医療費の適正化(ここでは1人当たり医療費の地域差縮小)に努める必要性が極めて大きく、「病院の病床が介護施設代わりに使用されていないか」などを厳しい目で確認し、必要な是正を行っていくことが極めて重要です。



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