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GemMed塾 看護モニタリング

退院・退所等から3か月程度、1日2時間の濃厚リハビリを提供する「強化型訪問リハビリ」を医療・介護保険双方に設けよ—日慢協・橋本会長

2024.7.19.(金)

退院・退所等から3か月程度、1日2時間程度の濃厚なリハビリテーションを提供する【強化型訪問リハビリ】を医療保険・介護保険の双方に位置付け、機能改善・生活様式の再構築を可能とする環境を整備するべきである—。

また、言語聴覚士が高次脳機能障害患者に「オンラインでリハビリ提供を行う」ことも保険適用すべきである—。

日本慢性期医療協会が7月18日に定例記者会見を開き、橋本康子会長がこうした提言を行いました。

7月18日の定例記者会見に臨んだ、日本慢性期医療協会の橋本康子会長

現在の訪問リハビリは「通院困難者への代替的リハビリ」にとどまっており、強化が必要

2022年度から団塊世代が75歳以上の後期高齢者となりはじめ、2025年度には全員が後期高齢者となります。また、2025年度以降、高齢者人口そのものは大きく増加しませんが、医療・介護ニーズが極めて高くなる「85歳以上の高齢者」の割合が非常になっていきます。

後期高齢者は、傷病の罹患率が高く、1治療当たりの日数が非常に長いことが分かっています(このため1人当たり医療費が高くなる)。

一方、高齢者を支える現役世代は2025年度から急速に減少していくため、医療・介護従事者の確保が極めて重要な政策課題となります。

こうした状況の中で橋本会長は、従前より「寝たきり防止」に、これまで以上に力を入れるべきであると強調しました。医療・介護人材の確保は極めて重要ですが、困難な点も多い(他産業も人材不足となり、人材の奪い合いとなる)のが実際です。そこで橋本会長は「1%、つまり100人に1人、寝たきりを防止できれば、現在の介護職員数で将来の医療・介護ニーズを賄うことができる計算となる。『100人に2人、3人』と寝たきり防止人数を増やしていけば、減少していく現役世代人口でも、将来の医療・介護ニーズを十分に賄うことができ、将来に光が見えてくる」と訴えているのです。

寝たきり高齢者を1%減らせば、今の介護提供体制でも対応可能である(日慢協1 230720)



この寝たきり防止に向けて、6月26日の社員総会では「療養病棟を、経腸栄養患者・肺炎患者・脱水患者など6つの状病態・疾患に適切に対応(治療し、自宅等復帰を促す)するとともに、慢性期患者の救急対応などを行う機能を持つ【慢性期治療病棟】に進化させる」ことを提案

さらに7月18日の定例記者会見では「強化型訪問リハビリテーションの保険導入」を提言しました。

現在の医療保険・介護保険制度にも「訪問リハビリ」は位置付けられています。しかし橋本会長は、現在の訪問リハビリ(医療・介護双方)には▼「通院できない者」への代替的なリハビリという位置づけにとどまっている(目的の問題点)▼十分なリハビリ提供が行えず(1週間に60分程度が大多数)、機能回復・維持に十分なものとなっていない(プロセスの問題点)▼リハビリの効果評価が「通所介護への移行」という形にとどまり、十分になされていない(アウトカムの問題点)—という問題があると指摘。

意地悪な言い方をすれば「通院困難な要介護高齢者を、通所介護(デイサービス)に通えるようにする」ものにとどまっているとも考えられます。もちろん「通院困難→デイサービスに通える」との機能改善は重要なものですが、橋本会長は、さらなる機能改善を求め、次のような改善・強化を図った「強化型訪問リハビリテーションの保険導入」が必要であると提言しています。

(1)目的を「通院困難者への代替的リハビリ提供」に限定せず、本人・家族の意向も踏まえて▼機能改善▼在宅⽣活の再構築—とする
→傷病罹患前後では生活様式なども異なる(例えば自立歩行から杖歩行となった場合、生活の様式は当然変わってくるため、「自立歩行を前提とする生活様式」から「杖歩行による生活様式」に組み替えなければならない)

訪問リハビリは、「通院困難者をデイサービスに通えるようにする」ことにとどまらず、機能改善・生活様式の再構築を目指すものとすべき(日慢協会見1 240718)



(2)十分な量のリハビリ提供により機能改善等が可能となる点を踏まえ、医療保険の疾患別リハビリ料並みのリハビリ提供(1日2時間程度)を短期集中で可能とする
→患者の疾患・状態により短期集中リハビリの期間は変わってくるが、対象期間は1-3か月程度が想定される

十分な量の訪問リハビリ提供で、機能改善が見込める(日慢協会見2 240718)



(3)強化型訪問リハビリの効果を、例えば「BI(Barthel Index)の改善度合い」などで評価する
→この評価により、リハビリの質が担保され、また経済的評価の指標ともある

強化型訪問リハビリの保険導入を提言(日慢協会見3 240718)



例えば、回復期リハビリ病棟に入院中は「最大1日9単位(=3時間)の疾患別リハビリ」が提供され、患者の機能強化・改善等が図られます。しかし、退院後に通院ができずに医療保険・介護保険の訪問リハビリを受けることになった場合には、上述のように十分な量のリハビリが受けられず「機能改善が必ずしも十分に図られない」ケースが出ていると考えられます。

そこで、「より多くのリハビリ提供を行うことで、さらなる機能改善が期待できる者」に対し、上記(1)—(3)の改善をした「強化型訪問リハビリ」を提供することで、「さらなる機能改善→寝たきりの防止」が実現できるのではないか、と考えられるのです。



ここで気になるのが、「強化型訪問リハビリ」の対象者、つまり「より多くのリハビリ提供を行うことで、さらなる機能改善が期待できる者」をどう考えるかです。

現在の訪問リハビリ効果を見ると、要介護度により若干の違いはありますが、約半数の者が「機能維持」にとどまっています。橋本会長は「おそらく、より多くのリハビリ提供を行えば、これらの者のほとんどすべてについて、さらなる機能改善が図られると予想される。しかし、『強化型リハビリの提供』に見合うだけの機能改善がどこまで図られるかは、単純に予測はできない」と述べ、個別患者の状態を見ながら、医師とリハビリ専門職が協働して、丁寧に「より多くのリハビリ提供を行うことで、さらなる機能改善が期待できる者」を抽出していく必要があるとの考えを述べました。

「強化型訪問リハビリ」の保険導入が実現すれば、その分、投下リハビリ量が増加し、医療費・介護費も増加することになります。この投下コストに見合うだけの「機能改善等」が見込める者が「強化型訪問リハビリ」の対象者となりうる、と考えることもできます。

現在の訪問リハビリでは、要介護度にもよるが半数程度の利用者が「機能維持」(緑部分)にとどまっている(日慢協会見4 240718)



なお、介護保険の訪問リハビリには、すでに【短期集中個別リハビリテーション実施加算】が設けられています。退院・退所日、要介護認定日から3か月の間、「1週間に概ね2日以上、1日に20分以上、リハビリを実施する」場合に「1日あたり200円」が加算されるものです。橋本会長の提唱する「強化型訪問リハビリ」は、「訪問リハビリを抜本的に強化する」ものであり、加算の範疇に収まるものではなさそうです。



さらに橋本会長は、「オンラインリハビリの保険適用」も提案しました。例えば、高次脳機能障害患者の機能回復には「年単位」のリハビリが必要となりますが、言語聴覚士(ST)は不足しており、十分なリハビリ提供が困難です。そこで「STがビデオ通話システムなどを活用して、患者にオンラインでリハビリを提供する」ことにより、この問題を解決する一助になると考えられます。橋本会長の経営する千里リハビリテーション病院(大阪府)では、実際にオンラインによる言語聴覚療法を実施し、高次脳機能障害患者の機能回復に大きな効果を上げていることも紹介されています。

ST(言語聴覚士)によりオンラインリハビリの保険適用も提言(日慢協会見5 240718)



2026年度の次期診療報酬改定、2027年度の次期介護報酬改定に向けて、日慢協は今後も様々な提言を行っていく考えです。



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