2014年度の総介護費用は9兆5783億円、施設から地域密着へのシフト進む―厚労省・介護保険事業状況報告
2016.6.20.(月)
2014年に要介護・支援認定を受けた人は606万人で、サービスの受給者累計は居宅介護・支援サービスで4492万人、地域密着型(介護予防)サービスで462万人、施設サービスで1078万人となり、利用者の自己負担や高額介護サービス費などを含めた総介護費は9兆5783億円となった―。
このような状況が、厚生労働省が13日に公表した2014年度の「介護保険事業状況報告(年報)」から明らかになりました(厚労省のサイトはこちら、2013年度の状況はこちら)。
介護費用は、制度創設時(2000年度)に比べて2.55倍に増加しています。
目次
介護費は前年度比4.4%増、医療費の1.8%に比べて伸び率の大きさ目立つ
社会保障費の増加が我が国の財政を圧迫していると指摘されて久しくなりますが、中でも介護費の伸びは著しく、2015年度には介護報酬のマイナス改定が行われたほか(関連記事はこちらとこちらとこちら)、現在は社会保障審議会・介護保険部会で制度見直しに向けた議論が続けられています(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちら)。
まず2014年度の介護費用について見てみると、介護費用は9兆2445億円(前年度に比べて4.4%増)、うち利用者自己負担を除いた給付費は8兆3786億円(同4.5%増)となりました。また、高額介護サービス費(自己負担が一定額を超えた場合には、超過分が保険給付される)などを含めた総介護費は9兆5783億円(4.4%)となっています。
2014年度には医療費(国民医療費の98%に相当する概算医療費)の対前年度伸び率が1.8%なので、介護費の伸びの大きさが伺えます。
また介護保険制度がスタートした2000年度には、介護費は3兆6273億円でしたので、14年で2.55倍に増加している計算です。
介護保険給付費を少し細かくみると、居宅介護(予防)サービスが4兆5765億円(前年度比5.5%増)、地域密着型介護(予防)サービスが9515億円(同9.9%増)、施設介護サービスが2兆8506億円(同1.3%増)という状況。
後述するように、「施設から居宅・地域密着へのシフト」が進んでいることが、伸び率の差になっていると言えます。ただし、地域によって「居宅・地域密着・施設」の割合にはバラつきがあります。全国平均では「居宅54.6%:地域密着11.4%:施設34.0%」という構成ですが、施設の割合が多い地域(富山県42.5%、高知県41.9%、茨城県40.7%)や、地域密着の割合が少ない県(東京都6.8%、沖縄県7.4%、埼玉県7.7%)などがあります。
我が国の経済と財政を立て直すための方針である「経済財政運営と改革の基本方針(骨太方針)2016」では、介護費の地域差縮小方針を掲げており(関連記事はこちらとこちら)、今後、サービス提供体制などを含めた「見える化」がさらに促進される見込みです(関連記事はこちらとこちら)。
要介護認定率、最低は埼玉の14.1%、最高は和歌山の22.1%で大きな格差
介護費が増加する要因には、大きく(1)利用者の増加(2)1人当たりの費用の増加―の2つがあります。
(1)の利用者数は、「高齢者数」と「要介護認定の状況」に分解して考えることができます。前者の「高齢者数」増加を抑えることはできませんので、後者の「要介護認定」の状況を見てみましょう。
介護保険サービスを受けるには、市町村で要介護状態であると判定されなければいけません(要介護・支援認定)。認定者の数は、2014年度末には606万人(前年度に比べて3.8%増)で、要介護度別の構成比は、▽要介護5:9.9%(同0.5ポイント減)▽要介護4:12.0%(同0.1ポイント減)▽要介護3:13.0%(同0.1ポイント減)▽要介護2:17.5%(同0.1ポイント減)▽要介護1:19.3%(同0.3ポイント増)▽要支援2:13.8%(同0.1ポイント増)▽要支援1:14.4%増(同0.4ポイント増)―となり、若干、軽度の方向にシフトしています。第1号被保険者(65歳以上、2014年度末時点で3302万人)のうち要介護・支援と判定された人(592万人)の割合は17.9%となっています。
ところで、制度開始時の2000年度には256万人が要介護・要支援と認定されており、第1号被保険者に占める割合(認定率)は11.0%でした。これが2014年度には17.9%に上昇している格好です。
認定率の向上は「制度が浸透している」と考えることができますが、都道府県別に見ると認定率にはバラつきがあり、最低は埼玉県の14.1%に対し、最高は和歌山県の22.1%という状況です。また、認定率には「西高東低」の傾向があります。この要因をきちんと分析していくことも重要な課題となります。
1人当たり介護費、前年度に比べて居宅2.4%増、地域密着6.7%増、施設1.8%減
介護費用を増加させるもう1つのポイントが「1人当たり費用の増加」です。2014年度の「1人当たり介護給付費」は25万3700円で、前年度に比べて3300円・1.3%の増加となりました。内訳を見ると、▽居宅サービス13万8600円(前年度比2.4%増)▽地域密着型サービス2万8800円(同6.7%増)▽施設サービス8万6300円(同1.8%減)―となりました。
ここで注目できるのが、施設サービスの1人当たり費用が減少し、地域密着型サービスの増加が著しい点です。厚労省は、介護費の高騰を抑え、かつ「利用者のQOLの維持」を目指して、要介護度が高くなってもできるかぎり施設に入所せず、住み慣れた地域で生活できるようなサービス提供体制の構築を目指しています。最近では「地域包括ケアシステム」の構築が急がれていますが、その萌芽が2006年の介護保険制度改正で創設された「地域密着型サービス」と言えます。
「施設サービスの1人当たり費用が減少し、地域密着型サービスが増加している」ことから、こうした方向に向けて着実に進んでいる状況が伺えます。
サービス受給者、居宅4.7%増、地域密着9.0%増、施設0.6%増
では、実際にサービスを利用している人はどれほどなのでしょう。
2014年度の累計の受給者数を見ると、居宅介護(予防)サービスでは4492万人(前年度に比べて4.7%増)、地域密着型(予防)サービスでは462万人(同9.0%増)、施設サービスでは1078万人(同0.6%増)となりました。
やはり「施設から地域密着へのシフト」が進んでいることがわかります。
また2015年度からは、施設のうち指定介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)の新規入所者が「原則要介護3以上」に限定されるなど、今後も「施設から地域密着へのシフト」が促進されます。
2025年にはいわゆる団塊の世代(1947-51年の第1次ベビーブームに生まれた方)がすべて75歳以上の後期高齢者となるため、今後10年ほどの間に、介護や慢性期医療のニーズが急速に増加すると見込まれています。今後、介護費や介護保険サービスの構成がどう変化していくのか、地域差はどこまで縮小するのか、社会保障審議会の介護保険部会や介護給付費分科会の議論に注目が集まります。
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