要介護度が高くなるほど「脳血管疾患による要介護者」増加、男女とも高血圧症による通院増える―2019年国民生活基礎調査
2020.7.29.(水)
高齢者の一人暮らし世帯、高齢者夫婦のみの世帯が増加し、「老老介護」が増加(全体のほぼ3分の1)している状況が伺える―。
また介護の原因としては、要介護度が高くなるほど「脳血管疾患(脳卒中)」のシェアが高まっている。高血圧症による通院率が男女ともに高まっており、生活習慣の改善等が「要介護状態の防止、重度化防止」等に向けて極めて重要と考えられる―。
厚生労働省が7月17日に公表した2019年の「国民生活基礎調査の概況」から、このような状況が明らかになりました(厚労省のサイトはこちら)(前年調査の記事はこちら、2016年の前回大規模調査の記事はこちら)。
世帯規模の減少続き、単独・夫婦のみの高齢者世帯の増加が続く
厚労省は毎年、▼保健▼医療▼福祉▼年金▼所得―などの国民生活に関する基礎的事項を調べ、「国民生活基礎調査」として公表しています。3年に1度、大規模な調査が、中間年には簡易的な調査が行われており、昨年(2019年)には大規模調査が実施されました。
まず昨年(2019年)6月6日時点における全国の世帯総数は5178万5000世帯で、前年に比べて79万4000世帯・1.6%の増加。平均世帯人員は2.39人で、前年に比べて0.05人減少しています。「世帯数の増加」に伴って「平均世帯人員の減少」が生じていることがグラフから再確認できます。
また「65歳以上の高齢者のいる世帯」は2558万4000世帯で、前年に比べて65万7000世帯・2.6%増加しました(全世帯の増加率1.6%よりも1.0ポイント大きい)。全世帯に占める割合は49.4%で、前年に比べて1.0ポイント増加しています。
「65歳以上の高齢者のいる世帯」の内訳を見てみると、最も多いのは「夫婦のみの世帯」で32.3%(前年から増減なし)、次いで「単独世帯」28.8%(同1.4ポイント増)、「親と未婚の子のみの世帯」20.0%(同0.7ポイント減)、「三世代世帯」9.4%(同0.6ポイント減)という状況です。6割超(61.1%)が「夫婦のみ」「単独」世帯で、また「65歳以上の者のみの世帯」が全体の58.1%(前年に比べて1.8ポイント増)となっており、後述するように「要介護状態となった場合」の支援策の整備を充実することが重要でしょう。
また、65歳以上の人は3763万1000人で、前年に比べて75万人・2.0%増加しています。
家族形態を見ると、「夫婦のみの世帯」(40.4%、前年に比べて0.6ポイント増加)が最も多く、「子と同居」(35.9%、同1.3ポイント減)、「単独世帯」(19.6%、同1.1ポイント増)と続いています。2016年調査から「夫婦のみの世帯」が最多となり(それ以前は「子と同居」が最多だった)、その傾向が続いています。また、「単独世帯の増加率」が高い(1986年からの増加率を見ると、単独世帯:1.94倍、夫婦のみ世帯:1.84倍、子と同居:0.6倍)点にも注意する必要があるでしょう。
さらに、高齢者世帯(「65歳以上の者のみ」あるいは「65歳以上の者に18歳未満の未婚者が加わる」)の状況を見ると、2019年には1487万8000世帯(前年に比べて81万5000世帯・5.8%増)で、全世帯の28.7%を占めています(同1.1ポイント増加)。
その内訳は、▼夫婦のみの世帯:46.6%(同0.7ポイント減)▼女性の単独世帯:32.2%(同0.5ポイント減)▼男性の単独世帯:17.3%(同1.5ポイント増)―となっています。男性の単独世帯が増加しており、食事管理や社会との繋がり確保に向けた支援の重要さが増していきそうです。
老老介護が増加、重くなるほど「脳血管疾患」に由来する要介護者が増える
次に「介護の状況」を眺めてみましょう。
在宅の要介護者・要支援者のいる世帯は、「核家族世帯」が40.4%で最も多く(3年前の調査(2016年調査)と比べて2.4ポイント増加)、「単独世帯」が28.3%(同0.7ポイント減)、「三世代世帯」が12.8%(同2.1ポイント減)と続いています。
また要介護度の状況を世帯構造別に見ると、▼単独世帯では比較的要介護度が低い(要介護者のいる世帯:要支援者のいる世帯=55.7:41.4)▼核家族世帯(同67.3:29.5)・三世代世帯(同76.5:21.3)では要介護度が高い—状況に大きな変化はありません。要介護度が高くなっても在宅生活を継続するためには、どうしても「家族による介護」が重要な要素となってくることが分かります。
主な介護者を見てみると、「要介護者と同居の者」が54.4%(3年前の調査(2016年調査)と比べて4.3ポイント減)と最も多く、「別居の家族など」13.6%(同1.4ポイント増)、「事業者」12.1%(同0.9ポイント減)と続きます。介護事業者の利用が減少し、家族介護依存度が高まっている点が気にかかり、詳細な分析等が待たれます。
なお「同居の者」の内訳は、「配偶者」が23.8%(同1.4ポイント減)ともっとも多く、「子」20.7%(同1.1ポイント減)、「子の配偶者」7.5%(同2.2ポイント減)という状況です。
「どのような年齢の要介護者等」を「どのような年齢の同居介護者」がケアしているのかを見ると、次のような状況です。
▽要介護者等が40-64歳:介護者は60-69歳が最多(29.5%)
▽要介護者等が65-69歳:介護者は60-69歳が最多(59.3%)
▽要介護者等が70-79歳:介護者は70-79歳が最多(56.0%)
▽要介護者等が80-89歳:介護者は50-59歳が最多(31.6%)
▽要介護者等が90歳以上:介護者は60-69歳が最多(58.2%)
要介護者等が60代・70代の場合には「配偶者による介護」が多く、要介護者等が80歳を超えると、配偶者(とくに夫)が死亡してしまうケースが増え、「子や子の配偶者による介護」へとシフトしていく状況が伺えます。
なお、75歳以上の要介護者などを75歳以上の配偶者が介護する「老老介護」の割合は33.1%(3年前の調査(2016年調査)と比べて2.9ポイント増)となり、家族介護のほぼ3分の1を占めています。2022年度からは、いわゆる団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となりはじめ、2025年度には全員が75歳以上に到達します。老老介護は今後ますます増えていくと考えられます。
さらに家族介護者による介護時間を要介護度別に見ると、要介護5では半数超(56.7%)の介護者が「ほとんど終日」となっています。
要介護度が重くなっても住み慣れた在宅生活を継続できるよう「地域包括ケアシステム」の構築をさらに急ぐ必要があります。ただし、ベースとなる「介護人材確保」が難しい中では代替策(ICTやロボット等の活用、専門職でないボランティア等の活用など)、重度化防止などにさらに力を入れる必要があるでしょう(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
なお介護の原因を見てみると、要支援者では「関節疾患」や「脳血管疾患(脳卒中)」が、要介護者では「認知症」や「脳血管疾患(脳卒中)」が多くなっています。とりわけ「脳血管疾患(脳卒中)」は要介護度が高くなるほど、原因のシェアが高まっており、▼予防(生活習慣の改善や高血圧症の治療など)▼早期発見・早期治療―の重要性を確認できます。
男女とも高血圧による通院が最多で、かつ3年前に比べて増加
健康状況に目を移すと、人口1000人当たり通院者(通院者率)は404.0(3年前の調査(2016年調査)と比べて13.8ポイント増)で、男性388.1(同15.6ポイント増)、女性418.8(同12.2ポイント増)となりました。年齢階級別に見ると、10歳代、40歳代、50歳代における通院者率の増加が目立ちます。
傷病別に見ると、男性では「高血圧症」が129.7(同9.7ポイント増)ともっとも高く、次いで「糖尿病」62.8(同4.7ポイント増)、「歯の病気」49.2(同1.8ポイント増)と続きます。一方、女性でも「高血圧症」が122.7(同6.6ポイント増)でもっとも高く、「脂質異常症(高コレステロール血症)」62.5(同6.2ポイント増)、「眼の病気」60.9(同1.4ポイント増)と続きます。
最後に所得の状況を眺めてみると、2018年の1世帯当たり平均所得金額は、「全世帯」では552万3000円(前年から0.1%増)で、「高齢者世帯」では312万6000円(同6.7%減)、「児童のいる世帯」では745万9000円(同0.3%増)となりました。高齢者世帯での所得減が気になります。
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