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2018年度国民医療費は43兆3848億円、高齢者の調剤医療費減で伸び率は低い水準に抑えられる―厚労省

2020.12.1.(火)

2018年度の国民医療費は、前年度に比べて3239億円・0.8%増加し43兆3949億円となった―。

近年では、2016年度(特殊要因でマイナス)を除いて低い水準の伸び率であり、その背景には「2018年度診療報酬改定、薬価制度抜本改革に伴って、高齢者における調剤医療費の適正化がなされている」点がある―。

都道府県別に1人当たり医療費を見ると、最高の高知県は最低の神奈川県の1.51倍となっており、ベッド数の適正化などを柱とする対策を講じる必要性が強く感じられる―。

厚生労働省が11月30日に公表した2018年度の「国民医療費の概況」からこうした状況が明らかになりました(厚労省のサイトはこちら)(2018年度の概算医療費(国民医療費の98%程度を迅速に集計)に関する記事はこちら)。

2018年度の調剤医療費適正化により、とりわけ高齢者の調剤医療費が大きなマイナスに

国民医療費は「1年度内に保険診療の対象となり得る傷病の治療に要した費用」を推計したもので、保険診療の対象とならない▼評価療養(先進医療における保険外の先進医療技術など)▼選定療養(差額ベッドなど)▼生殖補助医療(不妊治療など)▼正常な妊娠・分娩に要する費用▼健康診断・予防接種―などの費用は含まれていません。

2018年度の国民医療費は43兆3949億円で、前年度に比べて3239億円・0.8%の増加となりました。2016年度には「前年度(2015年度)にハーボニー等の高額なC型肝炎治療薬が登場し、医療費が大きく伸びた」ことの反動でマイナスとなりましたが、それを除けば、最近は2-3%程度の伸び率となっていることから、2018年度には「低い伸び率」に収まっています。この背景には、2018年度診療報酬改定、薬価制度抜本改革における「調剤医療費の適正化」(薬価等の1.65%のマイナス改定、門前薬局の調剤基本料適正化など)、とりわけ「高齢者における調剤医療費の適正化」があります。

国民医療費等の推移(その1)(2018年度国民医療費1 201130)

国民医療費等の推移(その2)(2018年度国民医療費2 201130)



人口1人当たりの国民医療費(国民医療費÷我が国の人口)は34万3200円で、前年度に比べて3300円・1.0%増加しました。こちらも2016年度を除いて、かなり低い水準です。



また、GDP(国内総生産)に対する国民医療費の比率は7.91%で、前年度に比べて0.04ポイント上昇、NI(国民所得)に対する比率は10.73%で、同じく0.01ポイントの低下となっています。



医療費が増加する要因には、「医療技術の高度化」や「人口の高齢化」などがあります。前者の「医療技術の高度化」については、最近では脊髄性筋萎縮症の治療薬「ゾルゲンスマ点滴静注」(1億6707万円)の保険適用(2020年5月)白血病等治療薬「キムリア」(3350万円)の保険適用(2019ねん5月)などの超高額薬剤の登場が相次いでおり、国民医療費にどのような影響が及ぼしているのか、今後の統計データに注目が集まります。

なお、2020年初頭から全国で猛威を振るう新型コロナウイルスの影響により、2020年度の医療費は「大きく減少する」可能性が高くなっています。医療費減少には、▼衛生面の向上(手洗い励行やマスク着用など)、他人との接触機会の減少による「感染症の減少」▼外出の減少等に伴う「外傷の減少」▼受療行動の適正化(不要な医療機関受診を控えるなど)―などが複合的に関係していると考えられ、2年後の2022年秋に示される「2020年度国民医療費」の詳細な分析に注目する必要があります。

医療費負担、能力のある人が応分に負担するように「公平性の確保」が重要

次に、「医療費を、誰がいくらくらい負担しているのか」(財源別国民医療費)を見てみましょう。

まず国がおよそ4分の1(25.3%、前年度から増減なし)を負担しています。また地方自治体が8分の1(12.9%、同0.2ポイント減)を負担しています。もちろん、これらの原資は我々国民が納めた「税金」です。

また事業主が2割(21.2%、同0.1ポイント減)、被保険者(国民)が3割弱(28.2%、同0.1ポイント減)を負担しています。これらは保険料であり、税金とは厳密には異なりますが、いずれにしろ国民全体で納めたものであることに変わりはありません。

このように医療費のほとんどは「国民全員が納めたお金」で賄われていることをから、「適正に使わなければならない」ことを再確認できます。

一方、患者自身も1割強(11.8%、同0.2ポイント増)を負担しています(医療機関や薬局などでの窓口負担)。

患者負担(窓口負担)は年齢・所得に応じて「1-3割」に設定されていますが、暦月1か月の自己負担が一定額(所得に応じて設定、例えば70歳未満で標準報酬月額が28-50万円の場合には『8万100円+(医療費-26万7000円)×1%』が上限)を超える場合には、超過分が高額療養費として医療保険から給付されるため、患者全体で見た場合の実際の自己負担(実効負担率)は1割強に抑えられているのです。

財源別の国民医療費、「国民全体で医療費を負担しあっている」状況を再確認できる(2018年度国民医療費4 201130)



この点、現役世代と高齢者世代(75歳以上)との負担バランスを公平なものとするために、現在、「一定以上の所得のある後期高齢者については、窓口負担を2割にしてはどうか」という議論が進んでいることはGem Medでお伝えしているとおりです(関連記事はこちらこちら)。



また制度区分別に国民医療費のシェアを見てみると、▼被用者保険(健保組合や協会けんぽなど)が23.8%(前年度から0.4ポイント増)▼国民健康保険が21.0%(同0.7ポイント減)▼後期高齢者医療(75歳以上)が34.7%(同0.4ポイント増)―などとなっています。高齢化の進展に伴って後期高齢者医療全体の医療費やシェアは増加していきますが、後述するように1人当たりでみると「伸び率は現役世代よりも低い」ことが分かります。

制度区分別国民医療費(2018年度国民医療費3 201130)

調剤医療費、2018年度改定の影響・効果などにより「前年度からマイナス」に

次に診療種類別に国民医療費のシェアを見てみると、▼医科が72.2%(前年度から0.6ポイント増、うち入院が38.1%で同0.5ポイント増、入院外が34.0%で同0.1ポイント増)▼歯科が6.8%(同0.1ポイント増)▼調剤が17.4%(同0.7ポイント減)▼訪問看護が0.5%(同増減なし)―などとなっています。

診療種類別に見ると、調剤医療費が大きく減少し、訪問看護の医療費が大きく増加している(2018年度国民医療費5 201130)

診療種類別の国民医療費(2018年度国民医療費6 201130)



調剤医療費については、前述のとおり2018年度改定、薬価制度抜本改革での適正化(薬価等の1.65%のマイナス改定、門前薬局の調剤基本料適正化など)が影響していると考えられます。

また、訪問看護は、医療費に占めるシェアは小さいですが、医療費の伸び率を見ると前年度比332億円・16.4%増となっており、事業所(訪問看護ステーション)の整備や利用者の増加などが継続して進んでいることが再確認できます。

65歳以上の高齢者で、調剤医療費の伸びが大きくマイナスに

次に、年齢階級別に1人当たり国民医療費を見てみましょう。

65歳未満では18万8300円で、前年度に比べて1300円・0.7%増加しているのに対し、65歳以上では73万8700円で、同じく400円・0.1%の増加にとどまっています。高齢になれば必然的に傷病にかかりやすくなるため、医療費そのものを見ると65歳以上の高齢者は65歳未満に比べて高くなっています(3.92倍)。しかし、伸び率は65歳以上高齢者で小さく抑えられており、70歳以上ではマイナス0.9%、75歳以上ではマイナス0.3%と「適正化」が進んでいることが分かります。

健康の維持や、早期受診の機会を阻害しない範囲で、1人当たり医療費の増加を可能な限り抑えていくことが、医療保険制度の持続可能性を高める王道と言えます。例えば後発品の使用促進、重複投薬・重複受診の廃止、在院期間の短縮、不要な軽微症状による医療機関受診の適正化などを総合的に進めていくことが重要です。



また、診療種類別・年齢階級別の1人当たり医療費は次のようになっています。高齢者において医療費の伸びが抑制されているのは、主に「調剤医療費の伸びを抑えている」ことが要因であると分かります。

【医科】
▽65歳未満:12万8100円(前年度から1500円・1.2%増)
▽65歳以上:55万3300円(同5800円・1.1%増)
→高齢者が若人の4.32倍(同増減なし)

【歯科】
▽65歳未満:1万9500円(同400円・2.1%増)
▽65歳以上:3万3400円(同700円・2.1%増)
→高齢者が若人の1.71倍(同0.05ポイント縮小)

【調剤】
▽65歳未満:3万5100円(同500円・1.4%減)
▽65歳以上:12万3200円(同6300円・4.9%減)
→高齢者が若人の3.51倍(同0.12ポイント縮小)

調剤医療費、とりわけ高齢者の調剤医療費がマイナスになっている点が注目される(2018年度国民医療費7 201130)



医療費の適正化を考える際には、やはり実額が大きく、人数も増加していく「高齢者」の医療費の伸びをいかに抑えていくかが重要となります。

医療費は、「人口」と「1人当たり医療費」に分解できますずが、高齢化に伴って「高齢者人口」は当然、増えていくため、前者を抑えることはできません。

一方、後者の「高齢者の1人当たり医療費」については、上述のとおり▼在院日数の短縮▼後発医薬品の使用促進▼頻回受診・重複受診の適正化―などによって一定程度、抑えていくが可能です。

さらに1人当たり医療費は、▼受診率(どれだけの頻度で医療機関にかかるか)▼1件当たり日数(在院日数や外来受診回数)▼1日当たり医療費―に分解することができます。この点、高齢者では主に「1件当たり日数が長い」ことが分かっており、つまり、高齢者の1人当たり医療費が高い原因は、主に「外来受診回数が多く、入院日数も長い」ところにあるのです。

今般の結果をより詳細に分析し、「高齢者医療費の伸びを、適切な形で、どのように適正化していくべきか」をさらに詰めて考えていくことが重要でしょう。

若人では新生物、高齢者では循環器系疾患で医療費のシェアが大きい傾向は変わらず

次に、傷病分類別に国民医療費のシェアを見てみましょう。

最も大きなシェアを占めているのは依然として「循環器系」ですが、19.3%となり、前年度から0.3ポイントの減となりました。

次いで、▼新生物:14.4%(前年度から0.2ポイント増)▼筋骨格系及び結合組織:8.0%(同0.1ポイント増)▼損傷、中毒及びその他の外因の影響:7.8%(同0.1ポイント増)▼呼吸器系:7.4%(同増減なし)―などと続きます。新生物、つまり「がんの医療費」が大きく伸びていることが分かります。

また、傷病による医療費のシェアを年齢別に見ると、次のような状況です。

▽65歳未満:「新生物」のシェアが最も高く(13.3%、前年度から増減なし)、次いで「循環器系」10.7%(同0.2ポイント減)、「呼吸器系」10.2%(同0.1ポイント減)、「精神及び行動の障害」8.9%(同0.1ポイント減)、「損傷、中毒及びその他の外因の影響」7.4%(同増減なし)と続く

▽65歳以上:「循環器系」のシェアが最も高く(24.4%、前年度から0.6ポイント減)、次いで「新生物」15.1%(同0.4ポイント増)、「筋骨格系及び結合組織」8.8%(同0.1ポイント増)、「損傷、中毒及びその他の外因の影響」8.2%(同増減なし)、「腎尿路生殖器系」7.2%(同増減なし)と続く

年齢階級別の医療費を見ると、65歳以上と65歳未満とで様相が異なっている(2018年度国民医療費8 201130)



傾向はこれまでと大きく変わっておらず、高齢者医療費の4分の1を占める「循環器系」疾患、および増加傾向にある「新生物」をターゲットにした医療費適正化対策が重要であると再認識できます。もっとも「医療費の適正化を優先して、国民の健康を損ねる」ようなことがあってはならないのは、ここで述べるまでもありません。

1人当たり医療費、最高は高知の45万2500円、最低は神奈川の30万100円

最後に、都道府県別に医療費を見てみましょう。ここでは人口規模の格差を除去するために「1人当たり医療費」を見てみます。

最も高いのは高知県で45万2500円(前年度に比べて3300円・0.7%増)、次いで徳島県の43万3800円(同2万5200円・6.2%増)、鹿児島県の42万3100円(同2400円・2.2%増)と続きます。徳島県で「1人当たり医療費が6.2%も増加している」背景が気になります。今後の分析等を待つ必要があるでしょう。

逆に最も低いのは千葉県で30万800円(前年度に比べて1100円・0.4%減)、次いで埼玉県の30万2700円(同2900円・0.9%減)、神奈川県の30万6000円(同6500円・2.2%増)と続きます。

1人当たり医療費を都道府県別に見ると西高東低の傾向を再確認できる(2018年度国民医療費9 201130)



古くから「医療費には西高東低の傾向がある」ことが知られています。今般、1人当たり医療費の高い県で「増加」し、1人当たり医療費の低い県で「減少」していることから、この傾向に拍車がかかったと考えられます。

最高の高知県と最低の千葉県との間には15万2400円・1.51倍の格差があります。この背景には「ベッド数の差」がある(病床稼働率を高めるために在院日数が長くなっており、医療費が高くなる)と指摘されており、介護保険の施設や居住系サービスなども含めた「病床数の適正化」を真剣に検討していかなければなりません。



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