災害時などにDMAT等がより円滑に活動するための方策、災害拠点病院の浸水対策向上などを検討—救急・災害ワーキング
2022.7.11.(月)
災害時はもちろん、新興感染症が流行した場合などに災害派遣医療チーム(DMAT)がより円滑に活動できるよう「法令上の位置付け」の明確化などを行うべきか—。
我が国で毎年のように生じている「豪雨」災害の被害を軽減するため、災害拠点病院等に対して「電気設備などの高所移設」や「止水板等の設置」による浸水対策の実施などを求めてはどうか―。
災害時等における「医療コンテナ」の活用方策をどう考えていくべきか—。
7月8日に開催された「救急・災害医療提供体制等に関するワーキンググループ」(第8次医療計画等に関する検討会の下部組織、以下「救急・災害ワーキング」)で、こういった議論が行われました。まだ議論の途中であり、明確な方向は見えてきていません。今後も方向を探っていくことになるでしょう。
DMATが災害時や感染症蔓延時などに「より円滑に活動できる」ような方策を検討
Gem Medで報じているとおり「2024年度からの新たな医療計画(第8次医療計画)」に向けた議論が進んでいます(都道府県が作成する医療計画のベースとなる厚生労働法の指針論議)。
医療計画の中には、いわゆる5疾病(がん、脳卒中、心筋梗塞等の心血管疾患、糖尿病、精神疾患)・6事業(救急、災害、へき地、周産期、小児、新興感染症)について、「どの医療機関が拠点的な役割を果たすべきか」「どういった項目(例えば生存率)を事業評価の指標に据えるべきか」なども記載することになります。
救急・災害ワーキングでは5事業のうち「救急医療提供体制」と「災害医療提供体制」に関し、第8次医療計画でどのような事項の記載を都道府県に求めるべきかを検討しています(関連記事はこちらとこちら)。
7月8日の会合では「災害医療提供体制」を議題とし、次のような論点について議論を行いました。
(1)DMAT・DPAT(災害派遣精神医療チーム)
(2)災害時に拠点となる病院
(3)浸水対策
(4)医療コンテナ
まず(1)のうちDMATについては「より円滑な活動」を可能とするように、法令上の位置付けなどを明確化してはどうか、との論点が厚生労働省から示されました。
DMATは、大災害時などに「地域で必要となる医療提供体制を支援し、傷病者の生命を守る」ことを目的として、専門的な研修・訓練を受けた医療チーム(医師1名:看護師2名:業務調整員1名が基本構成)です。都道府県知事とDMAT指定医療機関(要請があった場合に自院のスタッフでチームを編成し医療提供支援等にあたる)との間であらかじめ「協定」を結び、▼災害等の場合に都道府県知事の要請に基づいて医療提供支援等を行う▼災害にあった他県の要請や厚生労働大臣の派遣要請に基づいて、「他県の医療提供」を広域支援する—などの役割を果たします。
今般の新型コロナウイルス感染症流行時にも「医療提供支援」要請が強かったことなどを受け、コロナをはじめとする新興感染症にも対応できるような活動要領の見直しが行われています(2022.2月改正)。
さらに、自治体や医療現場などからは「より円滑な活動に向け、DMATを法令(例えば医療法など)に明確に位置づけてほしい」との声が出ています。DMATチームの医師・看護師・業務調整員は「DMAT指定医療機関の職員」ですが、災害等の現場では都道府県の指揮命令下で業務を行います。このため「身分と業務が異なる点をどう考えるべきか」「被災などした際の補償をどう考えるべきか」という問題が生じてしまうのです。この点、坂本哲也構成員(日本救急医学会代表理事)などは「派遣要請に応じている間は、一時的に当該都道府県の公務員と扱うなどの法的対応を行うべき」と提案しています。
ただし「柔軟な活動を活動とするために、位置付けは現状のままで良いのではないか」との意見もあり、今後「円滑な活動のためには、どういった位置付けが好ましいか」などをさらに探っていくことになります。
また、DMATやDPAT以外の医療支援チーム(JMAT(日本医師会災害医療チーム)、AMAT(全日本病院災害時医療支援活動班)、災害支援ナース)などについて「各都道府県の災害医療計画への記載明確化などを行い、DMATと同様に円滑に活動できるようにすべき」との声が、猪口正孝構成員(全日本病院協会常任理事)や溝端康光構成員(日本臨床救急医学会代表理事)らから強く出されています。猪口構成員は「災害時における都道府県の調整本部を地元DMAT医師が担う場合などには、AMATなどのチームが計画的な医療提供支援に組み入れられないことがある。災害時などにはDMAT以外にも多様な医療支援チームが参加することを想定した計画・訓練が必須である」と強調しています。多くの志の高い医療者が支援に駆けつけても、いわゆる「縦割りの弊害」が出てしまうケースが多いようです。平時から「多様な主体による連携」を意識しておくことが非常に重要でしょう。
なおDPATについては「新興感染症対応」に向けた活動要領改正などが論点として浮上しているほか、野木渡構成員(日本精神科病院協会副会長)から「DPAT参加病院への診療報酬上の手当てなどを考えるべきではないか」との指摘が出ています。
急性期入院医療に関する包括支払い方式「DPC」では、機能評価係数IIの「地域医療係数・指数」の中で「DMAT指定」が評価されています(DMAT指定医療機関は係数が高くなり、病院の収益が上がる仕組みとなっている)。野木構成員は「DPAT指定医療機関についても、診療報酬上の評価を考えるべき」と提案しており、今後、必要に応じて中央社会保険医療協議会などで検討される可能性があります(精神病棟はDPC対応でない(DPCは一般病棟を対象とした包括支払い方式)ため、何らかの別の仕掛けを考える必要がある点に留意)。
洪水が想定される地域の災害拠点病院、25%で浸水対策がとられていない
また(3)は、災害拠点病院(761か所)のうち、38%が「洪水浸水想定区域に所在」しており、うち25%は「浸水対策が実施されていない」状況を重く見た論点です。
我が国では、毎年のように豪雨被害が生じており、浸水対策をしていない災害拠点病院は「浸水災害時に拠点機能を果たせない」可能性もあります。このため「電気設備などの高所移設」や「止水板等の設置による浸水対策」などの実施が求められますが、「そのコストをどう考えるか」「浸水対策としてそれで十分なのか」などの課題もあります。
この点について猪口構成員は「専門家による『●●の状況にある病院では、◆◆のような対策が必要』といった目安を提示してほしい。個々の病院や建設会社などでは十分な対策の検討が困難である」と述べ、国による支援の強化を求めています。災害などの理由をとわず「事業継続が困難になった場合でも、事業継続を可能とする計画」(BCP)作成においては、国が「個別病院の状況を踏まえた作成支援」をすでに行っており、浸水対策でもそうした支援の検討が求められそうです。
また(4)の「医療コンテナ」は様々な場面で活用されており「今後も活用を推進していくべき」との意見が多数出ていますが、「日常の診療提供体制(病院やクリニック)に比べればやはり設備等の整備が落ちる。その点をどう改善していくかも重要な視点ではないか」(溝端構成員)との指摘が出ています。
さらに(2)では、災害拠点精神科病院について26道府県で「1か所も設定されていない」ことを踏まえ、「2022・23年度中に少なくとも1か所は全都道府県で指定する」ことを求めてはどうかと厚生労働省から提案がありましたが、「新型コロナウイルス感染症対応でいっぱいいっぱいである点にも配慮が必要である」などの意見も出ています。どのように整備促進を支援していくべきか、さらに議論が必要な状況です。
厚生労働省は、災害医療提供体制に関する論点として「これら4項目を中心に据える」考えを明らかにしています。2024年度からの第8次医療計画に向けて、この4項目についてさらに議論を深めることになります。
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