光熱水費高騰などで病院経営は危機的な状況、本来のあるべき姿として「入院基本料の引き上げ」を要請—日病・相澤会長
2023.3.17.(金)
光熱水費の高騰などで医業利益率は「大きなマイナス」となっており、現在は「新型コロナウイルス感染症に対応するための病床確保料」などでやっと経営ができている状況だ—。
地域医療を守るためには、安定した病院経営が必要となり、このために本来のあるべき姿として【入院基本料の引き上げ】を行ってほしい—。
日本病院会の相澤孝夫会長は3月14日、加藤勝信厚生労働大臣にこうした内容の「入院基本料の引き上げに関する要望書」を手渡しました(日病のサイトはこちら(要望書)とこちら(大臣との懇談))。
急性期病院の医業利益率、2020年度にはマイナス6.92%にまで悪化
長引くウクライナ情勢などの影響で「光熱水費」の高騰が続いています。入院医療を提供する病院では、このコスト増が非常に大きくなっています。「傷病と闘う患者」の治療の場である医療機関においては、「節電」などにも限界があります。また光熱水費以外にも「給食を含む委託費の上昇」「諸物価の上昇」が相次いでいます。
全国の急性期病院(医業・介護収益に占める介護収益の割合が2%未満)における経営状況をみると(厚生労働省の実施した医療経済実態調査より)によれば、2020年度における1施設当たりの医業利益率(ここでは「医業・介護利益÷医業・介護収益」)は過去最低を更新し「マイナス6.92%」となりました。2008年度の「マイナス4.37%」、16年度の「マイナス4.20%」を大きく上回る厳しい状況が明らかになっています。
また日本病院会の会員全病院における「100床」当たりの医業利益率を見ると、新型コロナウイルス感染症が蔓延し、またウクライナ情勢などで光熱水費が高騰している2020年度には「マイナス8.7%」、21年度には「マイナス6.9%」と、やはり非常に厳しい状況があきらかになっています。
こうした中でも、保険医療機関では「コスト増を料金に反映させる」(=値上げ)ことはできません。保険医療機関では、収益の大部分が公定価格である診療報酬であるため、民間企業のように「コスト増を企業努力で吸収しきれなくなったため、商品の価格に転嫁する(=値上げ)」ような対応は行えないのです。したがって、一般企業等に比べてコスト増の影響度合いが極めて深刻となります(関連記事はこちら)。
こうした厳しい状況の中で、現在の「コロナ対策の一環である病床確保料」などが病院経営を支えていますが、これらがなければ、上述のように「病院経営は大赤字」になります。
事態を放置すれば「病院の閉鎖→地域医療の崩壊」が現実のものとなってしまいます。
そこで相澤会長は、加藤厚労相に対し「『安定的な病院経営』による『安定的な医療提供体制』を確保するためには【入院基本料の引き上げ】が必要である」ことを強く訴えました。
ところで、現在の急性期一般入院料1のもととなる「7対1入院基本料」は2006年度の診療報酬で創設されました。現行点数は、創設時に比べて「95点、6%の引き上げ」が行われています。しかし相澤会長は「国家公務員初任給、消費者物価指数の引き上げ状況と比べて著しく見劣りする。現状の入院基本料は物価変動に適正に対応しているとは言えない」と指摘したうえで、「入院患者の療養環境確保、改善のための一時的な補助」だけでなく「本来あるべき姿として、入院基本料の引き上げを行ってほしい」と強く要望しています。
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