コロナ補助金なければ7割の病院が赤字、2024年度診療報酬改定で「入院基本料の大幅引き上げ」が必要―日病・全日病・医法協
2023.4.11.(火)
2021年度と22年度の病院経営状況を見ると、「医業だけでは病院経営が成り立たない」(7割超が医業赤字)、「補助金がなければほとんどの病院が赤字経営となる」(7割程度が経常赤字)という異常な事態である—。
病院経営を苦しめる大きな要因の1つに「光熱水費の高騰」があり、21年度から22年度にかけて「4割超の増加」となっている—。
日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会の3団体が4月7日に公表した「医療機関経営状況調査」結果から、こうした状況が明らかになりました(日病のサイトはこちら)。
3病院団体では、診療報酬に構造的な問題がある、このままでは病院経営は成り立たず地域住民の健康・生命を守れなくなってしまうため、2024年度の次期診療報酬改定では「入院基本料の大幅引き上げが必要」と強く訴えています。
目次
コロナ補助金等がなければ7割の病院が「経常赤字」、診療報酬に構造的問題あり
来年度(2024年度)には診療報酬・介護報酬の同時改定が控えており、今後、中央社会保険医療協議会や社会保障審議会・介護給付費分科会で改定論議が進められていきます。日病・全日病・医法協の3病院団体では、次期改定に向けて「病院の厳しい経営状況を勘案した論議」が行われるよう、▼2021年度(21年12月、22年1月、同2月)▼2022年度(22年12月、23年1月、同2月)—の病院収支状況を緊急に調査。その結果概要が今般明らかにされたものです。4月5日時点で「690病院」から回答が得られています(うち有効回答は630病院)。
まず病院の経営状況が2021年度から22年度にかけてどう推移したのかの全体像を見ると、次のように「悪化している」「コロナ関連等の補助金がなければ病院経営は危機的な状況にある」ことが分かりました。
▽医業収支が赤字となった病院の割合は、21年度の73.5%から、22年度には77.0%に増加した(医業だけでみると21・22年度には7割超、つまりほとんどの病院が赤字である)
▽経常収支(新型コロナウイルス感染症関連補助金・物価高騰関連補助金を含む)が赤字となった病院の割合は、21年度の43.3%から、22年度には51.6%に増加した(22年度はコロナ補助金を含めても過半数の病院が赤字経営となった)
▽コロナ補助金・物価高騰補助金を除くと、経常収支が赤字である病院の割合は、21年度の67.2%から、22年度には72.2%に増加した(補助金がなければ21年度・22年度ともに7割の病院が赤字である)
また「病院の規模」の影響を除外するために「100床あたり」の状況を見ると、やはり次のように「経営状況が悪化している」「「コロナ関連等の補助金がなければ病院経営は成り立たない」ことが分かります。
【100床あたり医業利益】
▽2021年度:マイナス5494万7000円 → 22年度:マイナス6177万9000円(683万2000円の減少)
【100床あたり経常利益(コロナ補助金等含む)】
▽2021年度:プラス2634万9000円 → 22年度:マイナス1127万円(3761万9000円の減少)
【100床あたりの、コロナ補助金などを除く経常利益】
▽2021年度:マイナス4192万6000円 → 22年度:マイナス4886万円(693万4000円の減少)
3病院団体では、▼医業だけでは病院経営が成り立たない(2021・22年度ともに7割超が医業赤字)▼補助金がなければ殆どの病院が赤字経営となる(コロナ関連補助金などを除けば21・22年度ともに7割程度が経常赤字)—状況は「異常」であり、「現在の診療報酬に構造的な問題がある」と指摘。
安定的な医療提供体制を確保するために「大幅な入院基本料の引き上げが必要」と強く訴えています。
医業収益(収入)の増加を上回って医業費用(コスト)が増加し、病院経営が悪化
ところで、コロナ関連の補助金は2022年度にも設けられているので、経営悪化(利益減)の要因は「医業収益(収入)が減少した」または「医業費用(コスト)が増加した」ことにありそうです。そこで100床当たりの医業収益・費用を2021年度・22年度で比較してみると次のような状況が分かりました。
【100床あたりの医業収益(収入)】
▽2021年度:6億5453万1000円 → 22年度:6億7796万9000円(2343万8000円・3.6%の増加)
【100床あたりの医業費用(コスト)】
▽2021年度:7億947万8000円 → 22年度:7億3974万8000円(3027万円・4.3%の減少)
2021年度から22年度にかけて「医業収益」(収入)が増加したが、それを上回って「医業費用」(コスト)が増加したために、経営状況が悪化していることが、ここから確認できます。
光熱水費が21年度から22年度にかけて「4割超」も増加
では、「医業費用」(コスト)の中で、どのような部分が増加しているのでしょう?今般の調査では、「光熱水費」が44.5%増、ガス料気は50%増、電気料金に至っては約60%増となっていることが分かりました(100床当たり)。また、給与費・材料費も若干増加しています。
【100床当たり光熱水費】
▽2021年度(21年12月+22年1月+22年2月):1247万3000円
・うち電気料金:696万8000円
・うちガス料金:282万円
↓
▽2022年度(22年12月+23年1月+23年2月):1802万7000円(前年度比44.5%増)
・うち電気料金:1114万5000円(同59.9%増)
・うちガス料金:422万9000円(同50.0%増)
こうしたコスト増について、一般企業であれば「価格に上乗せする」などの対応が可能ですが、保険医療機関ではそうした対応は行えません。医療の「価格」は、公定価格である社会保険診療報酬として「一律」に決定されており、個々の医療機関の判断で上げ下げすることは許されないのです。このため日本病院会や日本病院団体協議会などは「光熱水費の急騰に対応するための手当て」を加藤勝信厚生労働大臣に宛てて強く要請してきています(関連記事はこちらとこちら)。
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