不妊治療、安全性・有効性を確認し「できるだけ早期」に保険適用—社保審・医療保険部会(2)
2020.10.16.(金)
不妊治療について、安全性・有効性、患者・国民のニーズなどを確認したうえで、できるだけ早期に保険適用を行う—。
10月14日に開催された社会保障審議会・医療保険部会では、こういった議論も行われました。保険適用そのものへの異論は出ておらず、今後、「どういった治療法を保険の対象とするのか」など具体的な検討を中央社会保険医療協議会でも並行して進めることになります。
まず不妊治療の実態について調査を実施し
「不妊治療」の保険適用論議が盛んになってきています。従前より▼男性の精管閉塞▼女性の卵管癒着やホルモン異常—などについては、個別の治療法が保険適用されてきています。
他方、▼機能性不全▼保険治療が奏功しないケース—については、保険適用がなされていないものの、▼体外受精▼顕微授精▼顕微鏡下精巣内精子回収法(MD-TESE)―といった夫婦間の不妊治療については、公費での助成がなされています(特定不妊治療)。
また、第三者からの精子・卵子提供や代理懐胎(いわゆる代理母)については、倫理面や親子関係(代理母が出産した場合、その子は子宮を貸した側の子供なのか、卵子提供者の子供なのか)など、さまざまな問題があり、これまでに、その取扱いをどう位置付けるのかという点も含めて我が国では一定の結論は出ていません。
この点、菅義偉内閣総理大臣、安倍晋三前首相は「不妊治療の保険適用」を強力に進める方針を打ち出しており、医療保険部会で具体的な議論がスタートしたものです。
委員からは「保険適用は好ましくない」との意見は出ていません。「少子化対策に資する」「不妊治療に励む夫婦の経済的負担を軽くすることは好ましい」など歓迎の声が相次いでいます。
もっとも、不妊治療にはさまざまな技術があり、どこまでを保険適用とするのかは今後、専門家の意見、患者サイドの意見を踏まえて検討していくことが必要です。保険適用の範囲が広すぎれば「安全性が確立されていない、また効果の低い治療」が跋扈することになりかねず、逆に狭すぎれば「実子を切望する夫婦のニーズに応えられない」事態に陥ってしまいます。
このため厚労省は「不妊治療の実態」に関する調査をまず実施。これを踏まえて「どういった技術が存在するのか」「どういったニーズが実際にあるのか」「どのような治療法が行われているのか」を明確にし、それを土台に具体的な制度設計論議を行う方針が示されました。医療保険部会委員もこれに賛同しています。
調査では、▼全国の不妊治療実施医療機関における不妊治療(⼈⼯授精、体外受精、顕微授精、男性不妊治療等、以下同)の実施件数、治療周期あたりの妊娠出産率など(10月第3週から調査開始)▼ 全国の不妊治療実施医療機関における不妊治療にかかる費⽤(10月第3週から調査開始)▼一般国民を対象とした妊娠に対する意識や不妊治療の経験、不妊治療にかかった費⽤など(11月から調査開始予定)—を主に調べます。報告書は2021年3月にまとめられる予定ですが、「調査結果の速報値は適宜報告される」見通しです。具体的な保険適用論議は、主に中医協で行われますが、調査結果報告スケジュールによっては「2022年度の来年度診療報酬改定に向けた議論」の中で検討テーマにあがってくる可能性もあるでしょう。厚労省保険局医療課医療技術評価推進室の岡田就将室長は「安全性・有効性の確認された不妊治療技術について、できるだけ早期の保険適用を目指す」考えを明確に述べています。委員の多くも「安全性、有効性の確認が最優先である」という点を強調しています。
上述のように、公費補助が行われる「特定不妊治療」のほかに、第三者からの精子・卵子提供など、さまざまな技術がありますが、現時点でどういった技術が保険適用されるのか(特定不妊治療に限るのか、その一部なのか、あるいは第三者の精子・卵子提供も含めるのか)は決まって今円。
なお、医療保険部会委員からは、不妊治療の保険適用を議論する際に、次のような点を留意すべきとの指摘も出ています。
▽不妊治療技術は進歩を続けており、それに対応できるような仕組みを中医協で検討する必要がある(松原謙二委員:日本医師会副会長)
▽不妊治療を望まない夫婦もおり、「偏見の目」で見られないように留意すべきである(池端幸彦委員:日本慢性期医療協会副会長・福井県医師会長、樋口恵子委員:高齢社会をよくする女性の会理事長)
後者については、「不妊は保険でみるべき傷病なのか」という問題にも関連する事項と言えそうです。健康保険法では、療養の給付の対象を「疾病または負傷」としていますが、その範囲は必ずしも明確ではありません。なお、WHO等では「不妊」について広く疾病の範囲に含めています。
この点について、厚労省保険局保険課の姫野泰啓課長は、「どの範囲の疾病を保険事故とするかは変化してきている」(例えば大正時代には「労働能力に関係のない疾病」は対象外であったが、昭和16年にそうした制限を廃止)ことを紹介しています。「不妊」を公的医療保険で見るべき疾病と扱うことそのものについて法令上のハードルは低そうです。
また、不妊治療に用いる薬剤等の中には「薬事承認を受けていない」ものも少なくありません。この技術をそのまま保険適用した場合「混合診療になりかねない」という問題も出てきます。混合診療が認められていない背景の一つに、「安全性・有効性が担保されていない」ことがあげられます。「安全性・有効性の確保」に鑑みれば、「薬事承認を受けていない」医薬品等を使う不妊治療技術は「保険適用されない」と考えるべきでしょう。ただし、この原則を貫ければ、「保険適用される不妊治療技術が極めて限定されてしまう」ことにもなりかねません。調査結果を待ち、専門家の意見なども踏まえながら、「どの範囲の技術を保険適用するのか」を中医協を中心に検討していくことになります。
この点、標準的な技術を保険適用し、それ以外の部分(例えば未承認薬など)を保険外併用療養として「併用可能とする」ことも考えられそうです。ただし、石上千博委員(日本労働組合総連合会副事務局長)は「保険外併用療養を使用した場合、患者負担が大きくなる(保険外の部分は原則として「全額自己負担」となる)」ことから、慎重な検討が必要と指摘しています。
なお、田村憲久厚生労働大臣は「不妊治療の保険適用がなされるまでの間、公費の拡充(特定不妊治療)を行う」考えも示しています。この点について前葉泰幸委員(全国市長会相談役・社会文教委員、三重県津市長)は「多くの市町村では上乗せの不妊治療補助を行っている。国費拡充が行われた際には『ナショナルスタンダード』を考慮していく必要性も出てくることから、市町村による上乗せをどう考えるのかを整理する必要がある」と問題提起しています。今後、来年度(2021年度)の予算編成に向けた論点の1つとなりそうです。
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