新たな血液がん治療薬「イエスカルタ」、サイトカイン放出症候群等の副作用に対応可能な施設でのみ使用可―厚労省
2021.4.22.(木)
血液がんの新たな治療薬「イエスカルタ点滴静注」(成分名:アキシカブタゲン シロルユーセル)が4月21日に保険適用されました。
再発・難治性の▼びまん性大細胞型B細胞リンパ腫▼原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫▼形質転換濾胞性リンパ腫▼高悪性度B細胞リンパ腫—の患者に対し、「患者自身のT細胞(リンパ球の一種)を採取し、遺伝子組み換えを行った上で増殖させる」→「患者に体内に戻し、T細胞によりがん細胞を死滅させる」というCAR-T細胞療法に用いるものです。
キムリア点滴情注の類似薬として、患者1人当たり「3264万7761円」の超高額な薬価が設定されており(キムリアと同額)、医療保険財政への影響が大きなことから「最適使用推進ガイドライン」が策定され、これに沿った使用が求められます(厚労省のサイトはこちら)(関連記事はこちら)。
非常に奏効率の高い画期的な医薬品(再生医療等製品)ですが、▼製造にあたって白血球のアフェレーシス(分離)が必要である▼投与に際して重篤な有害事象が認められる可能性が高い(サイトカイン放出など)―ことから、例えば次のような厳格な要件を満たした施設でのみ使用が許されます。
▽日本造血・免疫細胞療法学会が定める「移植施設認定基準」の全ての項目を満たす診療科などを持ち、A301【特定集中治療室管理料】の「1 特定集中治療室管理料1」から「4 特定集中治療室管理料4」のいずれかを届け出ていること
▽アフェレーシス機器使用を熟知した医療スタッフ(医師、看護師または臨床工学技士)が配置され、アフェレーシス中は少なくとも1名の医療スタッフ(医師、看護師または臨床工学技士)による常時監視体制・医師への連絡体制が整っていること
▽▼医師免許取得後6年以上の臨床経験を有し、うち3年以上は血液悪性腫瘍の研修を行っている▼造血細胞移植に関する内科研修による診療実績が通算1年以上で、必要な経験と学識技術を習得している▼同種造血細胞移植の診療実績が5例以上—をすべて満たし、本剤の使用に当たっての講習を修了した医師を複数配置していること
▽重篤な不具合・副作用が発生した際に、24時間診療体制の下、自施設または連携施設において、発現した副作用に応じて入院管理・必要な検査の結果が当日中に得られ、直ちに対応可能な体制が整っていること。特に、サイトカイン放出症候群(CRS)の緊急時に備え「トシリズマブ(遺伝子組換え)」を速やかに使用できるように準備しておくこと
また、投与対象となる患者は、再発または難治性の▼DLBCL(びまん性大細胞型B細胞リンパ腫)▼PMBCL(原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫)▼TFL(形質転換濾胞性リンパ腫)▼HGBCL(高悪性度B細胞リンパ腫)—で、次のいずれも満たす患者に限定されます。
▽CD19抗原を標的としたキメラ抗原受容体発現T細胞輸注療法(上述したCAR-T療法)の治療歴がない
▽自家造血幹細胞移植に適応がある患者であって、初発の患者では化学療法を2ライン以上、再発の患者では再発後に化学療法を1ライン以上施行したが奏効が得られなかった、もしくは自家造血幹細胞移植後に再発した場合、または自家造血幹細胞移植に適応がない
次の患者では有効性が確認されておらず、本剤の投与対象とはなりません。
▼リツキシマブ(遺伝子組換え)(リツキサン点滴静注ほか)・アントラサイクリン系抗悪性腫瘍剤(ドキシルなど)を含む化学療法歴のない患者
▼中枢神経系(CNS)にリンパ腫病変が認められる患者
▼同種造血幹細胞移植の治療歴のある患者
▼慢性リンパ性白血病のリヒター形質転換の既往歴のある患者
▼過去3年以内に他の悪性疾患(悪性黒色腫以外の皮膚悪性腫瘍、上皮内がん(子宮頸部、膀胱、乳房のがんなど)、濾胞性リンパ腫を除く)の既往歴のある患者
▼自家造血幹細胞移植に適応がない再発の患者で、化学療法歴が1ラインのみの場合
また、下記に該当する場合は本剤の投与が禁忌・禁止とされており、投与を行うことが認められません。
▼一度解凍した本品を再凍結した場合
▼本品の成分に対する過敏症の既往歴がある場合
▼原材料として用いた非動員末梢血単核球が、患者本人以外のものである場合
さらに、次の患者では、本剤の安全性が確立されていないために投与対象となりません
▼ECOG Performance Statusが「2-4」の患者
▼制御不能または静脈注射による抗菌剤投与が必要な感染症を有している患者
また、上述にように有害事象発生の可能性もあるため、投与に当たっては次のような点に留意が必要です。
▽ショック、アナフィラキシーを含むinfusion reactionが現れることがある。infusion reactionを軽減するため、投与の約1時間前に抗ヒスタミン剤、解熱鎮痛剤の前投与を行う。生命を脅かす緊急時を除き、副腎皮質ステロイド剤は使用しない。アナフィラキシー等の投与に伴う重度の事象が発現した場合に備え、救急措置の準備をしておく
▽サイトカイン放出症候群(CRS)が現れることがあるので、投与にあたっては血液検査を行うほか、徴候・症状(発熱、低血圧、頻脈、低酸素症、悪寒、不整脈、心不全、腎不全、毛細血管漏出症候群、血球貪食性リンパ組織球症等)の観察を十分に行う。異常が認められた場合は、最新のCRS管理アルゴリズム・CRSに対する最新の情報に従い、適切な処置(トシリズマブ(遺伝子組換え)または副腎皮質ステロイドの投与等)を行う。試験では「本剤投与開始からCRSの初回発現まで」の期間の中央値は、2.0日(範囲は試験により1-12日または1―11日)であった
▽神経系事象が現れることがあるので、徴候・症状(脳症、振戦、錯乱状態、失語症、傾眠、激越、記憶障害、構語障害、幻覚、精神状態変化等)の観察を十分に行い、異常が認められた場合は、最新の神経系事象管理アルゴリズム等に従い適切な処置を行う
▽感染症が現れることがある。ヘルペス脳炎(HHV-6脳炎含む)・進行性多巣性白質脳症(PML)が報告されており、神経症状が現れた場合は鑑別のための適切な検査(脳脊髄液検査やMRIによる画像診断等)を行う。本剤投与前に活動性の感染症が認められた場合は、感染症の治療を優先し、患者の状態が安定した後に本剤を投与する
▽低ガンマグロブリン血症が現れることがある。異常が認められた場合は、適切な処置(免疫グロブリン補充療法を定期的に行う等)を行うとともに、感染症の徴候等に対する観察を十分に行う。本剤投与後数週間以上にわたり▼白血球減少▼好中球減少▼血小板減少▼貧血—などの血球減少が報告されているので、定期的に血液検査を行い、患者の状態を十分に観察する
▽B型肝炎・C型肝炎ウイルスキャリアの患者また既往感染者において、肝炎ウイルスが再活性化される可能性がある。HIV感染者においてはウイルスが増加する可能性がある。白血球アフェレーシス(分離)を実施する前に肝炎ウイルス感染、HIV感染の有無を確認する。肝炎ウイルスキャリアの患者または既往感染者に本剤を投与する場合は、肝機能検査値や肝炎ウイルスマーカーのモニタリングを行うなど、肝炎ウイルスの再活性化や増加による悪化の徴候又は症状に注意する
▽腫瘍崩壊症候群が現れることがあるので、血清中電解質濃度の測定・腎機能検査を行うなど観察を十分に行う
▽意識変容、意識低下、協調運動障害等が現れることがあるので、本剤投与後の患者には「自動車の運転等危険を伴う機械の操作に従事させない」よう注意する
また、厚労省は4月20日に通知「アキシカブタゲン シロルユーセル製剤に係る最適使用推進ガイドラインの策定に伴う留意事項について」を示し、本剤を保険診療の中で投与する場合には、上述したガイドラインを遵守するとともに、自施設が▼日本造血・免疫細胞療法学会が定める移植施設認定基準の全ての項目を満たす診療科(認定カテゴリー1)を有する施設▼認定カテゴリー1 に準ずる診療科(認定基準のうち、移植コーディネーターの配置に係る基準以外を満たす診療科)を有する施設—のいずれかであるかをレセプトの摘要欄に記載することを求めています。
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