市場規模が数千億円に上るような医薬品の登場を見据え、新たな価格調整ルールを検討すべきか―中医協・薬価専門部会
2021.11.9.(火)
2022年度の薬価制度改革に向けて、例えば「新規の後発品薬価設定ルールの在り方」「超高額医薬品が登場することを見据えた新たな価格調整ルール」などを検討していく必要がある―。
11月5日に開催された中央社会保険医療協議会の薬価専門部会で、こういった議論が行われました。
超高額医薬品の登場を見据えた、新たな価格調整ルールを検討すべきか
2022年度には、診療報酬改定に合わせて▼薬価制度▼材料価格制度▼費用対効果評価制度―の改革も行われ、それぞれ専門部会で改革論議が進められています。薬価については5月12日に業界からの意見聴取、8月4日に薬価算定組織(薬価算定ルールに沿って、個別新薬の薬価を検討する中医協の下部組織)からの意見聴取が行われました。これらを踏まえて10月20日には▼薬価基準収載後の効能効果追加に係る評価▼原価計算方式における透明性確保▼市場拡大再算定を受けた薬剤の類似品目の取り扱い―などを論点にした議論が行われています。
さらに11月5日には、厚生労働省保険局医療課の紀平哲也薬剤管理官から新たに次のような論点が提示されました。
(1)新規後発品の薬価をどう設定するか
(2)調整幅を見直すべきか
(3)超高額医薬品にどう対応するか
(4)診療報酬がない年の薬価改定(中間年改定)をどう考えるか
まず(1)について見てみましょう。新規後発品の薬価は現在、次のように設定するルールが設けられています。
▼通常は先発品(新薬創出適応外薬解消等促進加算の累積額控除後)の50%
▼銘柄数が10品目を超える内用薬では同じく40%
▼バイオ後続品では同じく70%
これまでの改定でパーセンテージが引き下げられてきていますが、(4)のように中間年改定が実施されている中では「新規収載された後発品の薬価が、従前に比べて短期間で引き下げられる」事態が生じています。このため、さらなるパーセンテージの引き下げなどが行われれば、「後発品の供給不安に拍車をかけてしまわないか」という懸念も出てきます。
この点、中医協では▼後発品薬価のベースとなる先発品(長期収載品)の薬価がどの程度下がってきており、従前に比べて状況がどう変化しているかを見て考えていく必要がある(城守国斗委員:日本医師会常任理事)▼現下の後発品供給不安が生じている中で、大きな見直しをすべきではない(有澤賢二委員:日本薬剤師会常務理事)—といった意見が出ています。現時点では「現行ルールを維持する」のか、「さらなる引き下げを検討する」のかについて方向が定まったとは言えない状況です。
また(2)の調整幅とは、市場実勢価格を踏まえた新たな薬価を設定する際に、「流通経費」などを考慮するものです。
医療機関・薬局と医薬品卸との間では、医薬品の価格は市場取り引きルールで設定され、ほとんどのケースでは「薬価よりも低い価格」で医療機関等が購入しています(市場実勢価格)。薬価改定の際には、この市場実勢価格の平均値をベースに「新たな薬価」(改定後薬価)を設定しますが、例えば「過疎地などでは運送等で、通常よりも多くコストが生じる」点を考慮する必要があります(この点を考慮しなければ過疎地等への販売において卸サイドがコスト割れをしてしまう)。この点の考慮を「調整幅」で行っており、現在は2%に設定されています(ただし2021年度の中間年改定では、コロナ感染症を踏まえた特例的な対応として2.8%に設定)。
この点、支払側委員などは「調整幅は2000年度改定から据え置かれており、見直し(引き下げ)を検討すべきではないか」と主張しているのです。11月5日の会合でも、支払側委員からは▼調整幅の概念からゼロベースで議論すべきではないか」(安藤伸樹委員:全国健康保険協会理事長)▼流通経費の分布を見て議論すべきではないか(松本真人委員:健康保険組合連合会理事)—といった考えが示されました。
しかし、診療側からは「コロナ感染症の影響で流通経費・在庫管理経費も上がっており、調整幅を現時点で動かすことは難しい」(城守委員)などの慎重意見が相次いでいます。
(3)は、医学・医療の進展により、今後「既存ルールでの対応が困難な高額医薬品」が登場することを見据え、薬価設定ルールを考慮しておくべきではないかという論点です。
優れた医薬品には相応の「高額な薬価」を設定することが、企業側の開発意欲向上のために必要です。しかし高額な薬剤は医療保険財政にダメージを与えてしまうことも事実で、バランスの確保が重要となります。
現在、高額な薬剤の薬価を抑える仕組みとして▼外国平均価格調整(原価計算方式において、外国価格平均との乖離が大きな場合に薬価を調整する)▼市場拡大再算定(当初予測よりも市場規模が大きくなった場合に薬価を調整する▼費用対効果評価(薬価収載後にQOLの視点で薬価を調整する)—が、また適正使用を促す仕組みとして「最適使用推進ガイドライン」(対象患者、施設等を絞る)が設けられています。これらにより薬剤費の膨張ペースは相当程度抑えられている(2018年度時点で、これらの仕組みがない場合に比べて2.67兆円圧縮されている)ことも分かっています。
しかし、さらなる医学・医療の発展で、これらの仕組みで対応しきれない医薬品、例えば「市場規模が数千億円を超えるような医薬品」の登場が想定されます。この場合にも上記の仕組みを組み合わせて薬剤費の膨張を抑えることになりますが、「新たな仕組みを考える必要はないのか」という点も重要論点となります。
この点、▼現行ルールの機動性をさらに高めていくべき(城守委員)▼厚労省で新ルールの具体案を作成してもらい、それをベースに検討してはどうか(有澤委員)—といった意見が出ています。
ただし、高額で市場規模が大きな医薬品とは、すなわち「極めて優れた医薬品」のことです。その薬価を抑えることは、上述したとおり「メーカーサイドのモチベーションを下げてしまう」ことにつながりかねません。その点にも十分に配慮したルール設定が必要であることに留意しなければなりません。
他方(4)は、2023年度に実施される中間年改定のルールをどう考えるかというものです。2021年度に行われた中間年改定は、コロナ感染症が流行する中で行われ「1回限りの特別ルールとして行う」こととなりました。
今後、▼対象品目をどう考えるか(医療保険財政を重視すれば広範な品目を対象にすることになる)▼見直しルールをどう考えるか―などを検討していくことになります。後者の見直しルールについて、2021年度には「実勢価格改定と連動するルール」のみが適用され、例えば「新薬創出等加算の累積額控除」などは行われませんでしたが、支払側は「控除を行うべきであった」と強く主張しています。
2022年度の次期改定後のテーマですが、今から「中間年改定の基礎ルールを検討しておく」ことで、時間をかけた議論が行えることになりそうです。
なお、同日は医薬品業界からの意見聴取も行われており、中医協委員から業界サイドに向けて「後発品に関する信頼回復に業界を挙げて取り組んでほしい」と強い要請が行われています。
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