2022薬価改定、新規後発品の価格設定ルール・原価計算方式の在り方・イノベーション評価などが重要論点―中医協・薬価専門部会
2021.4.21.(水)
2022年度に予定される「薬価改定」においては、▼新規後発品の薬価算定ルール▼基礎的医薬品の薬価▼診療報酬がない年(いわゆる中間年)の薬価改定の在り方▼原価計算方式における「原価開示」を進める方法▼イノベーションの適切な評価—などを論点に据え、今後、業界ヒアリングなども行いながら議論していく―。
4月21日に開催された中央社会保険医療協議会の薬価専門部会において、こうした方向が固められました。委員や薬価算定組織(中医協の下部組織)からも、今後、新たな論点が提示されると見られ、それらも含めて議論が進められていきます(関連記事は こちら)。
支払側は「2021年度薬価改定」は中間年改定の前例にすべきでないと指摘
2022年度には、診療報酬改定とセットで実施される、いわゆる「通常の薬価改定」が行われます。4月21日の中医協では、▼検討課題▼進め方—を整理したキックオフ議論を行いました。
「国民皆保険制度の維持とイノベーションの評価を両立させる」ことを目指す薬価制度抜本改革を継続していくことはもちろん、2018年度の通常薬価改定・2019年度の消費税対応改定・2020年度の通常薬価改定・2021年度の中間年改定と「薬価の引き下げ」が連続して行われている中で「製薬メーカーや卸業者、医療機関等の経営」にも配慮が必要となります。さらに、現下の新型コロナウイルス感染症が流行する中では「国内メーカーでのワクチン開発・製造」にも期待が集まりますが、思うように進んでいません。我が国の薬価制度が、ワクチン開発の遅れに関係しているのか、いないのかを含めた検討も必要でしょう。こうした点を総合的に考慮して「2022年度の薬価制度改革」を検討していくことになります。
まず検討課題について、厚生労働省保険局医療課の紀平哲也薬剤管理官は次のようなテーマを例示し、「関係業界や薬価算定組織からの意見聴取も行いつつ、検討 項目を整理した上で、議論を深める」考えを提示しました。
(1)2020年度・2021年度の薬価改定の骨子に記載されている事項(いわば「宿題」事項、関連記事はこちら)
▽新規後発品の薬価算定
▽基礎的医薬品の薬価改定
▽診療報酬改定がない年の薬価改定の在り方
(2)これまでに問題提起された事項等
▽原価計算方式の在り方(開示を高める方法)
▽イノベーションの適切な評価
▽改革工程表2020の記載事項(例えば、▼新薬創出・適応外薬解消等促進加算の対象品目を比較薬とする場合の薬価算定の見直し▼長期収載品の段階的な価格引下げまでの期間の在り方など)
(3)その他(関係業界、薬価算定組織からの提起事項)
こうした提案内容に異論は出ていません。今後、業界ヒアリング等を経て、薬価制度改革論議が年末にかけて煮詰められていきます。
なお、支払側の安藤伸樹委員(全国健康保険協会理事長)と幸野庄司委員(健康保険組合連合会理事)から、例えば次のような「細部の論点」に関する意見も出ています。診療側委員は「キックオフ会合ゆえに個別論点にはあえて言及しなかった」わけですが、今後、議論を進める中では「支払側委員への反論」を含めた意見が診療側委員からも出てきます(調整幅については松本吉郎委員(日本医師会常任理事)が「支払側と反対に、むしろ引き上げを検討すべき」と反論している)。
▽新規後発品の薬価算定について
▼現在の「0.5または0.4掛け」(通常の新規後発品は先発品薬価の0.5掛け、10品目以上ある内用薬の倍には0.4掛けに設定する)ルールの妥当性などを検証すべき(幸野委員)
▽診療報酬改定がない年(いわゆる中間年)の薬価改定の在り方について(関連記事は こちら)
▼2021年度の中間年改定は「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた例外的なもの」であり、これを前例とはせずに、2023年度以降は「国民負担軽減」の観点を重視した改めての議論が必要である(安藤委員)
▼通常改定と中間年改定とを分ける必要はなく、「新薬創出等加算の累積控除」などの政策改定も毎年度実施すべきでる(幸野委員)
▽原価計算方式の在り方について
▼超高額な再生医療等製品における償還価格設定ルールの在り方や費用対効果評価との考え方とも絡めて検討すべき。薬価専門部会の下にワーキンググループを設置して改革素案を議論してはどうか(安藤委員)
▼営業利益率が一般製造業に比べ、また新型コロナウイルス感染症が流行する中では高すぎる(現在「上場企業上位30社平均」の14.8%に設定されている)ので見直すべきである(幸野委員)
▽イノベーションの適切な評価
▼新薬創出等加算における企業要件では「絶対評価から相対評価への見直し」を行うべきである(幸野委員)
▽改革工程表2020の記載事項について
▼類似薬効比較方式において、類似薬が新薬創出等加算の対象品目である場合、最終的には「加算部分をはがして新薬の薬価設定を行う」べきである(2020年度改定では、「保険適用後3回の薬価改定までに効能効果追加等で新薬創出等加算の対象とならなかった品目(類似薬効比較方式(I)で比較品目が加算対象であったもの)では、保険適用時点で比較薬の累積加算分を控除する」仕組みが設けられた)(幸野委員)
▼特許が切れた長期収載品について、より速やかに「薬価の段階的引き下げ」などを適用すべき(現在は後発品登場から10年経過して初めて段階的引き下げが発動される)(幸野委員)
▽その他
▼薬価改定において、現在は「乖離率」を引き下げの指標としているが、高額医薬品については「乖離額」も引き下げ指標に追加すべき(幸野委員)
▼調整幅(R幅)について、20年間「2%」に据え置かれているが、引き下げを検討すべき(安藤委員、幸野委員)
▼再生医療等製品について、新ルール設定などの根本的な議論は「事例を積み重ねてから」となるであろうが、個々のルール適用にあたって「改善」を検討していくべき(幸野委員)
▼補正加算の在り方について、例えば発作性夜間ヘモグロビン尿症等治療薬の「ユルトミリス」について、薬価専門組織では「投与間隔の延長は、患者のQOL向上に資する」と判断されたが、費用対効果評価専門組織では「QOL向上に資するというデータが確認できない」と判断された。加算の妥当性を検討していくべきである(幸野委員)
▼脊髄性筋萎縮症の治療薬「ゾルゲンスマ点滴静注」では、「先駆け審査指定加算」が付されたことも手伝い「患者1人当たり1億6707万円7222円」という極めて高額な薬価が設定されたが、「PMDAの相談制」などを活用せず、保険適用に時間がかかった。加算適用の妥当性などを検証すべき(幸野委員)
また幸野委員は「後発医薬品メーカーの一連の不祥事により、国民の後発品への信頼が大きく揺らいでいる。信頼の早期回復に向けて品質確保・安定供給に関する見える化も重要論点になる」と訴えています。
医療技術の高度化(例えば脊髄性筋萎縮症の治療薬「ゾルゲンスマ点滴静注」(1億6707万円)、白血病等治療薬「キムリア」(3350万円)といった超高額薬剤の保険適用など)が進み、医療費の増加を招く中では、「後発品の使用促進」などの医療費適正化を進める必要があります。しかし、一部メーカーの製造販売していた後発品について「品質に大きな問題がある」ことが判明しています。今後、どのように「信頼回復」を図っていくのか、中医協論議や後発品メーカーの動きに注目する必要があります。
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