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2019年度健保組合、拠出金負担が「義務的経費の半分以上」となる組合が全体の4分の1―健保連

2021.12.17.(金)

2019年度、健康保険組合全体では保険料収入が減少した一方で、支出が増加したため、黒字決算は維持できたが、黒字幅が縮小した。また赤字組合が増加している―。

高齢者の医療費を支える拠出金負担が、義務的経費(医療費+拠出金)の半分以上となる組合が全体の24%もある―。

協会けんぽの平均保険料率10.0%以上の組合が全体の22%もある―。

こうした状況が、12月10日に健康保険組合連合会(健保連)が発表した2019年度の「健保組合決算見込集計結果」から明らかになりました(健保連のサイトはこちら(報告)こちら(資料))。

2019年度の健保組合、保険料収入が減少し、支出が増加したため「黒字幅」が縮小

健康保険組合(健保組合)は、主に大企業の社員とその家族が加入する公的医療保険です。健保組合の連合組織である健保連では、2019年度末における1388組合の決算データを集計・分析しました。新型コロナウイルス感染症は2020年2月・3月には徐々に我が国でも感染拡大し始めていましたが、まだ「本格的な流行」にはなっておらず「コロナ禍前の状況」と言ってよいでしょう。

まず全体を眺めてみましょう。2019年度の経常収入は8兆3639億円(前年度比266億円・0.3%減)。うち保険料収入は全体の98.6%を占め、8兆2438億円(同292億円・0.4%減)です。ただし、前年度に2つの大規模組合が解散した影響(その分、保険料収入が減る)を除くと「1.7%の増加」となります。

一方、2019年度の経常支出は8兆1138億円(前年度比284億円・0.4%増)。うち給付費(医療費等)は4兆288億円で全体の50.7%(同336億円・0.8%増)、高齢者拠出金(高齢者医療制度を支援するための支出)は3兆4344億円(同192億円・0.6%減少)となりました。

結果、健保組合全体の経常収支差は2501億円の黒字となりましたが、前年度に比べて黒字幅は551億円減少しています。

また、赤字組合は484(前年度から62組合増加)で、赤字組合の割合は34.9%(同じく4.6ポイント増加)となり、赤字組合の赤字額を合計すると963億円(前年度から赤字幅が216億円増加)となっています。

2019年度は、前年度に比べて黒字幅減少し、赤字組合が増えてしまった(2019年度健保組合決算1 211210)

拠出金負担が義務的経費の半分以上となる健保組合が、全体の24%もある

次に健保組合財政を苦しめる「拠出金」負担について少し詳しく見てみましょう。

上述のように拠出金負担は2019年度に3兆4344億円で、その内訳は▼後期高齢者支援金:1兆9773億円(経常支出全体の24.4%、拠出金負担の57.6%)▼前期高齢者納付金:1兆4550億円(同じく17.9%、42.4%)—となっています。

前者の「後期高齢者支援金」は、75歳以上が加入する後期高齢者医療制度の財政を支援するものでで、74歳未満全体で負担を分かち合う仕組みとなっています。

後者の「前期高齢者納付金」は、健保組合・協会けんぽ・国民健康保険などの保険者において「70-74歳の前期高齢者が占める割合」が異なる点を財政調整するものです。70-74歳の前期高齢者が多く加入する国民健康保険では財政が厳しくなりがちです(保険料収入が少なく、一方、医療費は多くなりがちである)。そこで、前期高齢者の加入が少ない健保組合などから「財源を移転する」(納付金)ことで、財政の不均衡を是正する仕組みです。

いずれも「相互扶助」「共助」という理念の下にありますが、健保組合における「義務的経費(給付費・拠出金)に占める拠出金の割合」を見ると、全体では46.0%ですが、50-60%に達する組合が23.3%、60%以上に達する組合が0.6%あります。支出の半分以上が「加入者でなく、高齢者のためのもの」という事態を放置すれば「相互扶助」「共助」の理念に疑問を持つ人が増えてくる可能性があり、それは「国民皆保険の崩壊」にもつながりかねません。こうした事態をどう是正していくべきか、腰を据えた検討・議論が必要でしょう。

健保組合全体でみると拠出金負担が義務的経費に占める割合は46.0%である(2019年度健保組合決算4 211210)

拠出金負担が義務的経費の半分以上となる組合が4分の1ある(2019年度健保組合決算5 211210)



なお、2013年度から19年度にかけて「拠出金負担が非常に重い(支出の半分を超えている)健保組合」は増減を繰り返しています。

拠出金負担が義務的経費の半分以上となる組合の数は増減を繰り返している(2019年度健保組合決算6 211210)



しかし2022年度からは、いわゆる団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となりはじめ、2025年度には全員が後期高齢者となります。その後は、高齢者数そのものは大きく増加しませんが、現役世代人口が急速に減少していきます。今後、拠出金負担割合は高まっていくと予想されます。

協会けんぽの平均保険料率10%以上の健保組合が全体の22%もある

また拠出金負担増は、健保組合財政にもダイレクトに影響します。

経常収支差引額の推移をみると、2014年度以降は「黒字」が続いていますが、団塊の世代が75歳以上になりはじめる2022年度以降、どう推移していくのか注視する必要があります。

2014年度から健保組合全体では黒字決算となっているが・・・(2019年度健保組合決算2 211210)



また健保組合財政が厳しさを増せば「保険料率の引き上げ」を考えなければなりません。平均保険料率の推移をみると、徐々に高まってきているとこが分かります。

2019年度の平均保険料率は9.22%ですが、分布をみると▼7.0%未満:1.8%▼7.0%以上8.0%未満:7.3%▼8.0%以上9.0%未満:24.1%▼9.0%以上10.0%未満:44.9%▼10.0%以上11.0%未満:20.4%▼11.0%以上12.0%未満:1.4%▼12.0%以上:0.1%—となっています。協会けんぽ平均の10.0%以上の組合が全体の21.9%もあることには驚かされます。保険料率の高騰は「健保組合を存続させる意味が失われる」ことにもつながります。その場合、「健保組合の解散→協会けんぽの被保険者増→協会けんぽへの国庫補助増」を招いてしまいます。協会けんぽは、主に中小企業社員とその家族が加入する公的医療保険で、健保組合加入者に比べて所得水準が低く、単独で医療費を賄うことが難しいために「国費による補助」が行われているのです。もちろん所得の高い層が協会けんぽに大量に移行すれば、財政構造が変わるために、一概に「加入者が増加する分、国庫補助も増える」という構造にはありませんが、「健保組合の解散増」は健全な医療保険制度の維持という面で、決して好ましくない点に留意しなければなりません。

協会けんぽの平均保険料率10%以上の保険料率を設定する組合が全体の22パーセントある(2019年度健保組合決算3 211210)



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