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薬学部学生は就職先の「やりがい」を最重視、給与増とともに病院薬剤師のやりがいPRが重要—厚労省

2022.7.14.(木)

大学薬学部5・6年生の35%が奨学金を受けており、「返済額が1000万円を超える」学生も25%いる。また20歳代・30歳代では「病院よりも薬局のほうが給与水準が高い」と推測される。病院薬剤師確保のために、診療報酬や地域医療介護総合確保基金などを活用した「給与格差改善」を考えていくことが重要であろう—。

もっとも薬学部の学生全体をみれば、就職先選定で最も重視することは「業務内容・やりがい」であり、病院サイドから「病院薬剤師の業務内容ややりがい」をより積極的にPRしていくことも、病院薬剤師確保に向けて極めて重要と考えられる—。

厚生労働省は、7月13日に開催された「薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会」に、こうしたデータを提示しました(厚労省のサイトはこちら(当該資料)こちら(検討会資料全体))。

奨学金の返済額が1000万円を超えると見込まれる薬学部生も少なくない

従前より「病院薬剤師の確保が困難である」との指摘が医療現場(とりわけ病院サイドから)がなされています(関連記事はこちら)。7月11日に日本病院会が公表したアンケート結果では、▼79.4%の病院が「薬剤師の確保に難渋」している▼薬剤師が確保できない理由として「調剤薬局の給与水準が高く、そちらに流れてしまう」「地域に薬剤師が少ない・いない」などが多い—などの状況が報告されています(関連記事はこちらこちら)。

そうした中で厚生労働省は「薬剤師確保のための調査・検討事業」を2021年度に実施。都道府県や病院、薬局、薬剤師などから「薬剤師の確保状況」「薬剤師不足による影響」などを調べており、そこから次のような「病院で薬剤師が不足している」状況(薬剤師の偏在)が浮かび上がってきました。

▽都道府県と病院薬剤師会・薬剤師会の間で、薬剤師不足の把握状況や認識にギャップがある(薬剤師会ではより強く「薬剤師不足」を感じている)

都道府県に比べて、薬剤師会では薬剤師不足を強く感じている



▽「薬剤師が不足している」との回答は、薬局でも4割強あるが、病院では64.8%に上る(しかも「まったく足りない」との声が大きい)

薬局に比べて、病院で薬剤師不足を強く感じている



▽「国公立・公的病院」は医療法人と比較して、また「高度急性期・急性期機能病院」は回復期・慢性期機能の病院と比較して、薬剤師の不足を認識する病院の割合が高い

国公立病院、急性期病院ほど薬剤師不足を強く感じている



▽病院では「病床規模が大きい」ほど、薬局では「処方箋応需枚数が多い」ほど、薬剤師の不足感が強い(「病院」でより強く感じている)

大規模病院ほど薬剤師不足を強く感じている



▽薬剤師の不足を認識している病院の53.3%で「薬剤師の時間外勤務が増加」し、72.1%で「病棟業務」に、52.3%で「チーム医療への参画」に支障が出ている

薬剤師不足の病院では、薬剤師業務がハードになっている



日病の調査と同様に「急性期の大規模病院において、薬剤師不足を強く感じている」状況が伺えます。



また、薬剤師が偏在(地域偏在・施設偏在)してしまう要因に関連して、次のような調査結果が示されています。

▽少なくとも20-30代では、病院のほうが薬局より給与水準が低いと推測される

若手薬剤師では、薬局のほうが病院よりも給与が高いと推測される



▽40歳代・50歳代の女性薬剤師割合が薬局で高く、「柔軟な働き方への対応」(子育てなどを踏まえた働き方)が取りやすい可能性がある

薬剤師の働き方1(施設別・男女別の就業状況)

薬剤師の働き方2(施設別・男女別の就業状況)



▽病院に就職した薬剤師の多くが、「新卒で病院に就職→病院薬剤師として勤め続ける」ほか、「新卒で病院に就職→経験を積んだ後に薬局に転職する」というキャリアプランをとっている

薬剤師のキャリアプラン例



例えば「奨学金を受けて大学で薬学教育を学んだ」薬剤師においては、「奨学金返済のために給与水準の比較的高い調剤薬局を選択する」ケースが少なからずあると推測されます。別の調査によれば、大学薬学部5・6年生の35%が奨学金を受けており、「返済額が1000万円を超える」学生も25%いることがわかっています。

薬剤性の35%が奨学金を受け、返済額が1000万円を超えるケースも少なくない



病院を就職先としていない学生では、就職先で最も重視する項目を「給与水準」としていることも、この点を裏付けていると言えそうです。



また、病院薬剤師であっても、子育てなど「家庭」との両立を考えて「薬局に転職する」薬剤師も少なくないようです。

ただし、薬剤師全体をみれば、就職先選定にあたっては「給与」や「福利厚生」も重視されますが、最も重視していることは「やりがい・業務内容」であり、給与改善などとあわせて「病院薬剤師のやりがい」などを丁寧にPRしていくことが非常に重要と考えらそうです。

薬学生全体で見ると、就職先で最重視することは「業務内容・やりがい」である



このように、さまざまな要因が複合的に重なって「病院の薬剤師不足」を招いていると考えられ、「薬剤師確保のための調査・検討」を行う専門家会議(検討会、赤池昭紀委員長:和歌山県立医科大学薬学部教授)では、次のような対策をとることで「偏在の改善・解消」につなげてはどうかと提案しています。

▽病院/薬局間の給与水準の格差是正(俸給表の見直し、手当による処遇改善等)、奨学金の貸与・返済支援(地域医療介護総合確保基金の活用など)

▽薬剤師が不足する地域・業態で「一定期間勤務」する仕組(地域・法人単位、大学の地域 枠と連動した卒後研修など)

▽地方出身の薬剤師の育成(病院・薬局見学会、職場体験、大学での地域枠設定など)、潜在薬剤師の活用(休職者・調剤未経験の転職者、柔軟な働き方を希望する人材の非常勤職員での活用など)

▽ウェブサイト情報の充実、就職説明会・インターンシップ・実務実習などの機会をとらえた「施設の魅力アピール」、実務実習の受入促進(→大学との連携)

▽柔軟な勤務環境の確保、完全週休二日制・育児休業制度の導入など

▽薬剤師の体制整備に係る診療報酬評価の拡充、回復期入院医療の評価として施設基準への薬剤師配置の追加

▽薬剤師が不足している地域・施設への薬剤師の「派遣」(地域医療介護総合確保基金の活用など)

▽自動調剤機器、電子薬歴システムなどの機械・ICTの活用、薬剤師以外の職員による対応などによる業務負担軽減

▽都道府県内の連携推進(都道府県(薬務主管部(局)/医務主管部(局))、都道府県病院薬剤師 会/薬剤師会、大学等)

▽医療計画における薬剤師の確保の位置づけの明確化



どれか1つの手を打てば解決するというものではありません。様々な手段を組み合わせることが「偏在解消」に向けて極めて重要です。2024年度には診療報酬改定が行われると同時に、新たな医療計画(第8次医療計画)がスタートするため、今後、中央社会保険医療協議会や第8次医療計画に関する検討会などの議論が活発になっていきます。上記の提言・提案を踏まえてどういう検討が行われるのか、今後の動きに注目する必要があるでしょう



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