介護・ケア現場へのロボット導入では、利活用方法を根本的に考え直し、導入類型の整理・目利き役の導入など行うべき
2023.1.11.(水)
医療・介護現場にロボットが導入されてきているが、現在では「介護をするロボット」はほぼ存在せず、「人手不足を解消する」という導入目的を根本的に見直す必要がある—。
また、医療・介護分野について「ロボットがどのような支援を行えるのか」を類型別に再整理するととともに、「ロボット導入のプランナー」(目利き役)の導入、安全基準の整備などを検討していく必要がある—。
一般財団機械振興協会経済研究所はこのほど、「介護・ケア分野におけるロボット市場拡大に向けた提言」を公表しました(研究所のサイトはこちら(エグゼクティブサマリー))。
現在、介護ロボットはほぼ存在せず、かえって介護従事者の労力を増やす危険もある
未曽有の少子高齢化が進行する我が国では、医療・介護現場の人材不足が深刻さを増していきます。このため人手不足を解消する一手立てとして「ロボットの導入」に期待が集まり、国もさまざまな導入支援・補助を行っています。しかし、当初の期待の大きさに反して、介護・ケア分野において、「介護ロボットの活用」は一部を除いて十分に進んでいるとはいいがたい状況です。
この点について、我が国の機械工業における経営改善、技術開発、その他機械工業の振興を図るための有効適切な事業を運営して、わが国機械工業の発展に寄与することを目的に活動している公益法人である機械振興協会では、「現在の体制のままで進めば、介護・ケア分野でロボットに対するある種の幻滅感が醸成され、かえって介護・ケア分野でのロボット活用の将来性を矮小化する危険がある」と指摘。状況を改善するために4つの提言を行いました。
まず1つ目は、▼「ロボット導入で人手不足解消を図る」との議論をから始めることを止める▼介護・ケア分野におけるロボット活用の仕方を根本的に考え直し、市場拡大の方向性を改めて探る—ことを提言しています。
現状では「介護をするロボット」はほぼ存在せず、「単作業あるいは部分的のみ作業代替が可能なロボット」が開発されています。現状では、▼人間と同様に「ひとまとまりの介護作業」を柔軟な調整をしつつ代替する▼物理的な作業を人間と共に効率的に実行する▼人間に対して機械的接触をして直接力の作用を及ぼす—ことには大きな制約があるのです。
しかし、こうしたロボットを現状のままの介護・ケアの流れのなかで活用すれば、「介護従事者にとって、かえって追加の労力・手間をかけるだけにとどまる」という本末転倒の状況も生まれかねず、結果として「ロボット導入の動機が生まれない」ままになってしまいます。
そこで、上述のように「対人サービスの典型の1つである介護・ケア分野におけるロボット活用の仕方」を根本的に考え直し、改めて市場拡大の方向性を探るべきと提言しています。
2つ目は、▼「介護ロボット」から「介護支援ロボット」へとニーズを再整理する▼「介護支援ロボット」を導入する現場をタイプ別に整理する—ことを提言しています。
また3つ目は、▼DX(デジタルトランスフォーメーション)等の活用により介護現場の全体的な業務改善を図り、そのなかでロボットの適正な導入を試みる▼総合プロデューサー・総合プランナーとしての「目利き」の導入を目指す—ことを提言しました。
どの分野でロボットを導入することが好ましいかを判断し、現場にアドバイスを行うためには、広範な知識・情報とネットワークが必要となります。目利きの育成に向け、行政、介護・ケア業界、DX関連企業、サービスロボット関連業界などの関係者が議論を深めて育子が急ぎ必要となるでしょう。
さらに4つ目として、将来的に上述したような▼人間と連携して動作を実行するロボット▼人間対して作動するロボット—が介護・ケア分野で導入・実装される時代の到来を見据えて、「開発の活性化」「安全性基準設定」などの制度準備を進めることも併せて提言しています。
ついに今年度(2022年度)から、人口の大きなボリュームを占める団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となりはじめており、2025年度には全員が後期高齢者となります。高齢化の進展はダイレクトに「介護ニーズ」を増大させます。その後、2040年度にかけて、高齢者の「数」そのものは大きく増加しませんが、支え手となる現役世代が急速に減少していきます。
今から、上記提言を踏まえた「ロボット導入に向けた政策転換」を進めることが非常に重要な検討課題となりそうです。
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