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コロナ禍でも「がん検診」実施状況は回復してきているが、「がん登録」「がん手術」等で実施状況の回復に遅れ―がん検診あり方検討会(1)

2023.1.31.(火)

2021年度も新型コロナウイルス感染症が「がん検診」や「院内がん登録」(つまりがん患者の受診)、「がん手術」などに影響を及ぼしている—。

がん検診については、2020年度にはコロナ感染症の影響で実施件数などが大きく減少したが、21年度には回復傾向にある。ただし、市町村による住民検診では回復の度合いが小さい—。

院内がん登録については、2021年度はコロナ禍前の水準に戻ってきているが、「胃がん」については減少が続いている—。

がん手術については、2021年度にもコロナ禍前の水準には戻っておらず、とりわけ「早期の胃がん」手術件数の減少が目立つ—。

「がん検診のあり方に関する検討会」(以下、検討会)が1月30日に開催され、こうした報告が行われました。同日には、このほかに「がん検診事業が適切に行われているのかを評価する指標の設定」や「乳がん・子宮がん検診の受診勧奨強化」「被用者保険におけるがん検診の実施状況」なども議題に上がっており、これらは別稿で報じます。

胃がんの手術件数等が減少、ピロリ菌除菌治療などで症例が減少しているのか?

新型コロナウイルス感染症の影響が長引き、「がん」についても大きな影響が出ています。コロナ感染症の影響が深刻だった2020年度には▼がん検診(とりわけ市町村の実施する住民検診)の実施件数が大きく減少した(関連記事はこちら)▼消化器がん(大腸がん、胃がん)の手術件数が大きく落ち込んだ(関連記事はこちら)—ことが分かっています。

さらに今般、国立がん研究センターがん対策研究所検診研究部検診実施管理研究室長・がん医療支援部検診実施管理支援室長の高橋宏和参考人から、次のような「2021年度のがん検診等の状況」が報告されました。

【がん検診】
▽2021年度は2020年度よりおおむね増加している

▽コロナ禍前の2019年度と比べ、職域検診はほぼ回復しているが、市町村の実施する住民検診は1割程度減少したままである(回復が遅れている)

聖隷福祉事業団によるがん検診の状況をみると、コロナ禍前の水準に戻りつつある(がん検診あり方検討会(1)1 230130)

全国労働衛生団体連合会におけるがん検診の状況をみると、コロナ禍前の水準に戻りつつある(がん検診あり方検討会(1)2 230130)

日本対がん協会におけるがん検診の状況をみると、コロナ禍前の水準に戻りつつある(がん検診あり方検討会(1)3 230130)



【がん登録】(いわば、新規がん患者の受診)
▽2021年の新規がん登録数は、コロナ禍前の2018・19年平均と同程度まで回復している

▽「2020年に新規がん登録数が減少した分」にかかる顕著な増加は認めない(「2020年に発見・受診できなかった分が、進行して2021年の発見・受診につながった」という状況は現時点では見いだせない)

▽胃がんなどでは減少が続いているが、乳がんは増加している

がん登録数全体をみると、コロナ禍前の水準に戻りつつある(がん検診あり方検討会(1)4 230130)

胃がんの登録数(青の折れ線グラフ)の減少が目立つ(がん検診あり方検討会(1)5 230130)



【がん手術】
▽2021年は、2020年に比べて増加(微増)しているが、コロナ禍前の2018・19年程度までは回復していない

▽ステージ1の胃がんで減少が大きく、胃がんの「非切除」「術前化学療法割合」が増加している

消化器がんの手術症例数はコロナ禍前水準まで回復していない(がん検診あり方検討会(1)6 230130)

胃がん手術の中でも「早期胃がん」の手術症例(円グラフの青部分)が減少している(がん検診あり方検討会(1)7 230130)



医療機関や検診施設が感染対策に力を入れたこと、コロナ感染症の特性が徐々に明らかになり、また毒性などが変化したこと、がん検診が「不要不急でない」ことが周知されてきていることなどが、検診件数の増加につながっていると思われます。

一方、長引くコロナ感染症の影響により「医療機関の、がん医療キャパシティが低下している」可能性があります。例えば、コロナ感染症患者を受け入れるための「即応病床」(事実上、空床にしておく)には、手厚い看護配置が求められる(当初は、通常ICU(2対1看護)の4倍となる1対2看護、2倍となる1対1看護などが求められた)ことから、一部の病棟・病床を一時的に閉鎖し、そこに配置されていた看護スタッフをコロナ病棟に集約化するなどの対応がとられています。こうしたシフト配置の結果、「がん医療対応キャパシティの低下」につながるケースが指摘されています。

こうしたキャパシティ低下が「がん登録の件数回復が遅れている」「がん手術件数の回復が遅れている」ことにつながっているとも考えられます。

こうした状況を踏まえ、祖父江友孝構成員(大阪大学大学院医学系研究科教授)をはじめ、多くの構成員が「がん発見・受診が遅れ、進行がんが増加し、結果としてがんによる死亡率が高まる」ことを強く心配しています。中山恵一構成員(東京大学大学院医学系研究科特任教授)も「肺がん学会では、精密検査未受診で悪化する症例が目立ってきているとの報告がある」と指摘しています。

高橋参考人もこうした点を懸念しており、「各種のデータを詳しく分析し、受診控えなどが、がんの進行や死亡率にどう影響するのかを注視していく」考えを明確にしています。



また、「胃がんの手術件数が減少している」点にも構成員は注目。この点、「ヘリコバクターピロリ(いわゆるピロリ菌)の除菌治療が進み、胃がん症例が減っている可能性もある」、「(上述のように)医療機関のキャパシティが低下している可能性もある」などの推測がなされましたが、明確な原因は明らかになっておらず、今後の「研究・検討課題の1つ」に位置づけられます。



他方、「2021年度(2021年4月-2022年3月)の状況報告が2023年1月までかかってしまい、しかも2021年度の総括的なデータは出ていない(2021年度の地域保健・健康増進事業報告は本年(2023年)3月末頃になる見込み)」状況について、多くの構成員から「遅い、より迅速なデータ分析が必要」との声が出ています(オーストラリアなどでは「半年後」にはデータが公表される)。高橋参考人もこの見解に賛同し「即時性のあるがん検診・がん罹患データ収集システムの構築が必要である」と提言しています。

このほか、「かかりつけ医を持つ患者と持たない患者とで検診受診やがん診療などの状況に違いがあるのかも分析してはどうか(かかりつけ医が「がん検診の受診勧奨」などを行っている可能性がある)」(黒瀬巌構成員:日本医師会常任理事)、「膵臓がんの増加が目立っており、背景や原因などを探る必要があるのではないか」(中野惠構成員:健康保険組合連合会参与)などの注文がついています。今後の「検診状況などの分析」において、重要な視点と言えるでしょう。



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