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診療報酬改定セミナー2024 看護モニタリング

NDBや介護DBなどの公的データを仮名加工して研究者等へ提供、国民・患者・医療現場の理解が極めて重要—医療等情報2次利用WG

2024.1.18.(木)

医療・介護等の公的データベース(NDBや介護DBなど)の情報について「過去の診療情報等を、現在の診療に活かす」といった1次利用をもちろんのこと、集積・解析を行って「新たな治療法の開発」や「医療政策研究への応用」などの2次利用への期待も高まっている—。

2次利用のしやすさを考慮して、より生データに近い「仮名加工情報」を検討していくが、その際「利用の公益性をどう考えるか」「本人(患者等)の同意を得ずに利用することをどう考えるか」「情報セキュリティをどう確保するか」「国民・患者・医療現場などの理解・納得をどう得るか」などが重要論点になってくる—。

1月11日に開催された健康・医療・介護情報利活用検討会の「医療等情報の二次利用に関するワーキンググループ」(以下、2次利用ワーキング)で、こうした議論が行われました。次回会合で「論点」を固め、その後、個別論点ごとに具体的な方向を探る議論を深めていきます。

「仮名加工情報」を提供するための法制度整備、情報連携・共有の基盤をワーキングで議論

岸田文雄内閣総理大臣を本部長とする政府の医療DX推進本部が昨年(2023年)6月2日に「医療DXの推進に関する工程表」を取りまとめました。そこでは「より効率的・効果的で質の高い医療サービス等を確保するためには『医療DX』の推進が必要不可欠である」ことを確認したうえで、例えば▼全国の医療機関で電子カルテ情報を共有可能とする仕組みを構築し、2024年度から順次稼働していく▼標準型電子カルテについて、2030年には概ねすべて医療機関での導入を目指す—などの具体的なスケジュールが示されています。

こうした情報の利活用は、例えば「医療機関間で患者情報を共有し、過去の診療情報を現在の患者の診療に活かす」といった1次利用のほか、「データを集積・解析し、新たな治療法の開発や医療政策などに活かす」といった2次利用も念頭に置いています。

ただし、2次利用にあたっては「患者保護と利活用推進とのバランスをどう考えるか」といった大きな課題があることから、2次利用ワーキングが設置されたものです(関連記事はこちら)。

1月11日の2次利用ワーキングでは、前回論議を踏まえて「医療等情報の2次利用に向けた基本的考え方」や「今後の法整備や個人情報保護などに関する論点案」が厚生労働省から提示されました。

まず「医療等情報の2次利用に向けた基本的考え方」を見ると、次のような整理が行われています。

(1)2次利活用促進のための法制面・利用環境の整備
▽医療等情報の活用により治療法開発や創薬・医療機器開発等といった医学発展に寄与することが可能であり、医療等情報は貴重な社会資源である
▽そのため、研究者や企業等が質の高い医療等情報を効率的・効果的に利活用できるよう「法制面の整備」、公的データベースなどのデータを「一元的かつ簡便に利用可能とする情報連携基盤の構築」などを行うことが重要である

医療情報などの利活用を拡大することで様々な場面で様々なメリットが生まれると想定される(医療情報2次利用ワーキング5 240111)



(2)本人の適切な保護
▽医療等情報は機微性の高い情報であり、公的データベースで「仮名化情報の利用・提供を行う」場合にも、個人情報保護法等の考え方を踏まえつつ本人のプライバシーを含む権利利益の適切な保護の必要がある
▽その際、「本人の適切な関与の機会」の確保とともに、「公的データベースがもつ医療等情報の悉皆性」などの公益性の観点も踏まえ、各制度の趣旨やユースケースに沿った保護措置を考える必要がある

(3)医療現場や国民・患者の理解促進、2次利活用の成果・メリットの情報発信
▽医療現場や国民・患者の不安・不信が払拭されるよう、本人の権利利益の適切な保護を図るための措置を設け、丁寧に説明する必要がある
▽その上で、2次利活用による研究成果・メリット等について国民・患者に対し分かりやすく情報発信・説明していくことが重要である

(4)公正かつ適正な利活用に関する努力
▽国がガバナンス体制を構築した上で、研究者や企業等が公正かつ適切に医療等情報を利活用するため、行政と業界相互の努力や取り組みを進めることが重要である

医療情報等を2次利用するにあたっての基本的な考え方(医療情報2次利用ワーキング4 240111)



この基本的な考えに基づけば、次のような方向が見て取れそうです。

▽医療レセプトや特定健診情報などを格納したNDB(National Data Base)や、介護レセプトや要介護認定情報などを格納した介護DB(介護保険総合データベース)、DPCデータなどの公的データベース等について、現在は「匿名加工情報」や「集計情報」などの第三者提供(学識者や企業などへのデータ提供)を行っているが、さらに「仮名加工情報」を提供する選択肢も設ける(そのための法制度や情報連携基盤を構築する)

▽「仮名加工情報」は、「匿名加工情報」に比べて本人特定リスクが高いとの指摘があることを踏まえ、個人情報保護を十分に行う。ただし、公的データベース等の「悉皆性」(すべての患者情報が網羅されている)という特性・有用性を考慮したうえで「本人の申請によるデータ利用停止を認めるか」などの点を考えていく必要がある(本人申請でデータ利用が停止されれば、歯抜けのデータベースとなってしまい、有用性が損なわれてしまう)



ここから、より具体的に「公的データベースから仮名加工情報を提供する」場面において、▼公益性がある場合に情報提供が認められると考えられるが、公益性をどのように考えるか(匿名加工情報の提供よりも「さらなる公益性」などを求めるべきなのか)▼情報提供に当たり、個別に本人(患者や要介護者など)同意を得ることは非現実的であるが、本人同意を得ずに情報提供を行うことをどう考えるべきか▼仮名加工情報そのものを第三者提供するのではなく、「Visiting環境での利用」を原則とすることなどをどう考えるか(情報漏洩のリスクが軽減される)▼情報提供するか否かについて「一元的な審査」を行うことをどう考えるか—などの論点案が浮上してきます。

こうした論点については、「医療等情報の2次利用により国民が便益を受けること、個人情報保護が十分に図られることなどを様々な機会を捉え、様々なツールを用いて広く情報提供することが理解促進に向けて何よりも重要である」(山口育子構成員:ささえあい医療人権センターCOML理事長)、「データ登録を行う医療機関サイドが『2次利用を意識したデータ登録』を行うことが重要である」(清水央子構成員:東京大学情報基盤センター客員研究員)、「利活用促進のためには、データ管理者には厳格なルールを設ける一方で、利用者(研究者や企業)には『IDやパスワードを適切に管理する』程度の基本的な注意にとどめるべきではないか。またデータ利用申請からデータ利活用までの期間は可能な限り短縮すべき」(山口光峰構成員:医薬品医療機器総合機構医療情報科学部長)、「本人同意なしの情報提供を可能とするためには、大前提として国民・患者・医療現場の理解が不可欠である。そのためには、リスクの明確化、リスクへの対策の明確化、データ利活用によるメリットなどを十分に説明する必要がある」(長島公之構成員:日本医師会常任理事)、「データ利活用の目的や公益性について抽象的に議論しても先へ進まない。ユースケース(新薬開発、医療政策への利活用など)に沿った具体的な議論が必要である」(石井夏生利構成員:中央大学国際情報学部教授)、「情報の1次利用と2次利用はセットで考えることも重要である。現在の異様情報システムは1次利用を目的に構築しており、1次利用が十分に進むようにデータの標準化やデータの質確保などを進めることが2次利用促進にもつながると考えられる」(中島直樹構成員:九州大学病院メディカル・インフォメーションセンター教授、松田晋哉構成員:産業医科大学医学部公衆衛生学教授)、「visiting環境は進化を続けており、現在、次世代医療基盤法では『データ提供はvisiting環境で行うが、そこに研究者等の独自の分析環境を注入できる』ような仕組みを検討している。公的データベースからの仮名加工情報についても、そうした点を検討すべきではないか」(山本隆一構成員:医療情報システム開発センター理事長)など幅広い観点から、非常に多様な意見が出されています。

今後、こうした意見を踏まえて「論点をブラッシュアップ」していくことになります(次回会合で論点を固め、その後、各論点について、例えば「公益性の範囲をどう考えるか」「本人同意をどう考えるか」などの深掘りの議論を進めていくことになる)。



なお、2次利用ワーキングでの議論の対象は、上述のとおり「公的データベース(NDBや介護DBなど)から仮名加工情報を提供するにあたっての法制度」整備や、「仮名加工情報を提供・連携する基盤」の構築となります。2次利用ワーキングで各種ある公的データベースからの仮名加工情報提供に関する「共通ルール」(利用目的をどう考えるのか、本人同意をどう考えるのか、情報提供に当たったの審査体制をどう考えるのかなど)を設けます。

もっとも、公的データベースと一口に言っても様々なものがあります。例えば症例数が限定される指定難病や小児慢性特定疾病のデータベースについては「治療法開発を進めるために他のデータベースなどと積極的に連結解析を進めるべき」といった考え方がある一方で、「個人特定のリスクが極めて高く、データの利活用は慎重に行うべき」といった考え方もあります。

このように、データベースごとに特性があり、2次利用ワーキングで定めた「共通ルール」を踏まえながら、「実際に仮名加工情報として提供を行うか否か」などは個別データベースを所管する審議会・検討会などでさらに議論・検討を行うことになる見込みです。そうした仮名加工情報提供等の運用面なども今後整理されていくことになるでしょう。

公的データベースの概要1(医療情報2次利用ワーキング2 240111)

公的データベースの概要2(医療情報2次利用ワーキング3 240111)

公的データベースの概要3(医療情報2次利用ワーキング4 240111)



また、「法制度」論議の対象は公的データベース(NDBや介護DBなど)に限られますが、情報連携・共有の基盤の対象は公的データベースにとどまらず、一定の要件を満たす民間データベース(学会のレジストリなど)も含まれる点に留意が必要です。



さらに電子カルテデータに関しては、現在、別に「電子カルテ情報共有サービス」で共有する仕組みの検討・構築が進んでおり、上記とは別に「医療現場などの意見を踏まえて、2次利用に向けた検討」が進められます(2次利用するか否かも含めて別途検討される)。



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