200床以上一般病院への「外来受診時定額負担」徴収義務拡大、地域医療に混乱・支障を来すもので強く反対―日病・相澤会長
2020.4.17.(金)
政府の全世代型社会保障検討会議が、「病床数200床以上の一般病院」において、紹介状なしに外来を受診したすべての患者から3割負担とは別の「特別負担」(受診時定額負担)の徴収義務化方針を示している。しかし、一般病院における受診時定額負担は、疾病への対応の遅滞にも繋がりかねず、地域医療に混乱、支障を来すため導入に強く反対する―。
日本病院会の相澤孝夫会長は4月15日に、こうした内容の「200床以上の一般病院の外来受診時定額負担に関する意見書」を全世代型社会保障検討会議の議長である安倍晋三内閣総理大臣、さらに加藤勝信厚生労働大臣に宛てて提出しました(日病のサイトはこちら(安倍首相宛て)とこちら(加藤厚労相宛て)で、内容は同一です)。
病院の規模ではなく「機能」に応じた議論がなされなければならない
安倍晋三内閣総理大臣が議長を務める「全世代型社会保障検討会議」(以下、検討会議)が昨年12月19日に中間報告をまとめました。そこでは、「大病院の外来を紹介状なしに受診する患者」に対する特別負担(現在は初診時5000円・再診時2500円)について、次のような制度拡大(見直し)を行う方針を打ち出しています。
▽特別負担の金額を引き上げる
▽徴収義務対象病院を「200床以上の一般病院」に拡大する
▽増額分について「公的医療保険の負担を軽減する」仕組みとする
▽定額負担を徴収しない場合(緊急その他のやむをえない事情がある場合、地域に他に当該診療科を標榜する保険医療機関がない場合など)の要件を見直す
さらに検討会議では、この方針に沿って関係審議会(社会保障審議会や中央社会保険医療協議会など)で細部を詰め、今夏(2020年夏)に最終報告をまとめ、遅くとも2022年度中に制度化するとの考えも示しています。すでに、社会保障審議会の医療部会・医療保険部会や、医療部会の下部組織と言える「医療計画の見直し等に関する検討会」で、定額負担徴収の前提となる「外来医療の機能分化」「かかりつけ医機能の推進」に関する議論が始まり、例えば「外来版の地域医療構想・外来機能報告制度」と言える仕組み創設を視野に入れた議論が進んでいます(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちら)。
しかし、病院団体の中では、例えば「大病院」の定義1つをとっても、「500床以上を思い浮かべる人」「1000床以上を思い浮かべる人」「200床でも大病院ではないか、と考える人」などさまざまであり、「基本的な部分について、明確な定義も共通認識もないままに議論をすることは極めて危険である」との指摘が相次いでいます。さらに、仮に「病床数200床以上の一般病院」の定義が明確になったとして、その機能・役割は地域ごとに区々です。「基幹病院」的な役割を担っている病院がある一方で、医療機関の少ない地域では「かかりつけ医療機関」的な役割も併せ持つことがあります。また特定の専門分野(脳卒中や心臓血管外科など)に特化し、「ほぼすべての患者が紹介である」というケースもあるでしょう。
このため日本病院会や全日本病院協会など15の病院団体で構成される日本病院団体協議会では、「我が国の医療のあるべき姿」を早急に取りまとめ、検討会議の事務局を務める内閣府に提言する考えを3月27日の代表者会議において全会一致で決定。
この決定を受けて今般、日本病院会の相澤会長から安倍首相・加藤厚労相に対し意見書が提出されたものです。そこでは、以下の点に鑑みて「病床数200床以上の一般病院における紹介状なし患者の外来受診時定額負担の導入に強く反対する」考えを示しています。
▽患者にとっては「病院が果たしている機能」が重要であり、病院は地域医療の実態を考慮しつつ、個々の病院が機能分化の中で独自にその機能を判断すべきものである
▼地域によっては、200床以上の一般病院でも「一般外来機能を果たすことで地域医療に貢献している病院」もある(この場合、外来受診時定額負担の拡大は、利益率が低く維持運営に苦慮している病院の自由度と選択の幅を奪う)
▼200床未満でも専門医療に特化し、必ずしも一般外来を行っていない病院もある
▽入院機能と外来機能は密接に関連しており、入院機能分化が進めば、自ずから外来機能分化が進む。まず地域医療構想において病院間の軋轢と混迷を招いている入院機能の分化・連携を適切に推進することに全力を傾注すべきである
▽患者視点では、既に導入されている外来受診時定額負担は、「特定機能病院」や「一般病床200床以上の地域医療支援病院」の果たすべき機能から、「必ずしも大病院を受診する必要の無い患者」のフリーアクセス乱用を防ぐためのものである。しかし、精神病院以外の一般病院における受診時定額負担は、医療のフリーアクセスを制限して受診抑制を招き、疾病への対応の遅滞にも繋がりかねず、地域医療に混乱、支障を来すものである
これまでに相澤会長をはじめとする病院団体が主張している「病院の規模ではなく、機能に着目した議論を行うべき」「同じ規模の病院であっても、地域において果たすべき役割は全く異なる」「外来医療の拙速な見直しは、地域医療に大きな混乱を来す」といった点を整理したものと言え(関連記事はこちらとこちらとこちら)、今後の議論にどういった影響を及ぼすのか注目を集めます。
なお、当初は「外来版の地域医療構想、外来機能報告制度」の大枠について、この4月中旬に中間的な取りまとめが行われる予定でした。しかし新型コロナウイルスの蔓延を踏まえ、感染防止の観点や医療現場の負担等を考慮し、社会保障審議会などの各種検討会論議が事実上、ストップしており、今後、全世代型社会保障検討会も含めて、どのように議論が進んでいくのかは不透明な状況です。
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