地域トップの「高度型がん拠点病院」、新規に藤沢市民病院・浜松医大病院・伊勢赤十字病院・香川労災病院を指定―がん拠点病院指定検討会(1)
2021.1.28.(木)
地域でトップのがん治療成績を収める高度型の地域がん診療連携拠点病院として、新たに藤沢市民病院(神奈川県)・浜松医科大学医学部附属病院(静岡県)・伊勢赤十字病院(三重県)・香川労災病院(香川県)の4病院を指定する―。
また、昨年、要件の一部を充足できずに「特例型の地域がん診療連携拠点病院」として指定された坪井病院(福島県)・会津中央病院(福島県)・福島労災病院(福島県)・高岡市民病院(富山県)・市立甲府病院(山梨県)・米子医療センター(鳥取県)の6病院は、この1年間で要件充足ができなかったため、地域がん診療連携拠点病院としての指定更新は行わない(一般病院となる)―。
1月27日に開催された「がん診療連携拠点病院等の指定に関する検討会」(以下、検討会)で、こういった方針が固められました。
検討会の意見を踏まえ、田村憲久厚生労働大臣が本年度中(2021年3月末まで)に指定手続きなどを行い、この4月1日(2021年4月1日)から新たながん診療提供体制がスタートします。
目次
大分大病院、琉球大病院、要件充足を確認し「県拠点病院」を維持
「日本全国のどの地域に住んでいても、優れたがん医療を受けられる体制を整える」(均てん化)という方針の下、我が国では、高度ながん医療を提供する病院を▼都道府県がん診療連携拠点病院▼地域がん診療連携拠点病院▼地域がん診療病院▼特定領域がん診療連携拠点病院—として指定しています(以下、全体を拠点病院等と呼ぶ)。
拠点病院等として指定されるには、国の定めた基準(指定要件)を満たすことが求められますが、▼拠点病院の中にも診療実績や体制に大きなバラつきがある▼新たながん対策推進基本計画(第3期計画)が2018年度から稼働している▼医療安全体制の強化が求められている▼従前の基準に曖昧な部分がある―などの問題点等を踏まえ、厚労省の「がん診療提供体制の在り方に関する検討会」で基準(指定要件)の見直しが行われ、2019年度から適用されています。
見直し内容は多岐にわたり、例えば▼診療体制要件の厳格化(放射線診断医・放射線治療医を「専従」とする、保険適応外の免疫療法等を実施は、原則として治験や臨床研究(先進医療含む)として実施するなど)▼医療安全体制の確保(常勤医師、常勤専任薬剤師、常勤専従看護師などで構成される「医療安全管理部門」の設置義務化など)▼第三者評価(日本医療機能評価機構やJCI(Joint commission international)などの評価・認定など)の努力義務化―などがあります。
さらに、同じ医療圏に地域がん診療連携拠点病院が複数ある場合、実績・機能等に応じて次の3区分で指定することになりました(関連記事はこちらとこちら)。
(1)地域がん診療連携拠点病院(高度型):▼必須要件をすべて満たす▼「望ましい」要件を複数満たす▼優れた取り組み(相談支援センター、緩和ケアなど)を実施している▼圏域内で診療実績が最も優れている―施設を圏域内に1か所指定する
(2)地域がん診療連携拠点病院(一般型、以下、単に地域拠点病院とする):必須要件をすべて満たす施設を指定する
(3)地域がん診療連携拠点病院(特例型):2019年4月以降に指定されたものの、後に「必須要件を十分に満たせなくなった」場合に指定する(要件充足の見通しが立たない場合には指定を取り消す)
今般、「これまでに要件の一部を満たしていなかったが、要件の充足が認められた」「これまでに要件を満たしていたが、新たに要件の未充足が確認された」などといった事情のある病院について指定のしなおし、あるいは指定更新をしないなどの方針が固められました。加藤勝信厚生労働大臣が指定手続きを行い、4月1日から発効する予定です。
拠点病院等の類型別に眺めてみましょう。
まず、次の2病院については、前年に「医療安全管理者の研修の受講」要件に不備があったために「1年指定」となっていたところ、今般、同要件の充足が確認されたため「都道府県拠点病院」として2年間の指定を行うことが確認されました。
▽大分大学医学部附属病院(大分県)
▽琉球大学病院(沖縄県)
藤沢市民病院、伊勢赤十字病院など、地域トップの「高度型」拠点病院に指定
また、次の4病院について、地域がん診療連携拠点病院の要件をすべて充足し、かつ地域トップの診療実績のあることなどを踏まえ、「高度型」に指定することが了承されました。指定期間は「2年間」(2023年3月まで)ですが、その間に「要件の未充足」などの事態に陥れば、後述する「特例型」にドロップする可能性もあります。
▽藤沢市民病院(神奈川県)
▽浜松医科大学医学部附属病院(静岡県)
▽伊勢赤十字病院(三重県)
▽香川労災病院(香川県)
なお、広島県からは「広島県厚生農業協同組合連合会 尾道総合病院」について高度型に指定してほしい旨の申請が行われましたが、「高度放射線治療(IMRT/粒子線/密封小線源/核医学)の実績がゼロである」ことから、「強度変調放射線療法や核医学治療等の高度な放射線治療を提供できる」要件を満たしてないと判断され、高度型への指定申請は却下されました。
なお、放射線腫瘍治療の専門家である唐澤久美子構成員(東京女子医科大学医学部長)は、「現在の『高度な放射線治療を提供できる』旨の要件は、『IMRTや定位放射線治療などの【高精度放射線治療】を提供できる』旨に見直す必要がある」と改めて提言しました。これを受けて藤也寸志座長(国立病院機構九州がんセンター院長)は、2024年度の新規一斉指定に向けて「がん診療提供体制の在り方に関する検討会」での検討を要請していく考えを示しています。
東北医科薬科大病院など40病院を「一般型の地域がん診療連携拠点病院」に指定
また、新たに次の40病院について「地域がん診療連携拠点病院」(一般型)として指定する子も了承されました。「まったくの新規指定」「要件が未充足であったが、今般、充足が確認され指定更新」など、いくつかのパターンがあります。
●特例型から一般型へ(従前、一部要件が未充足であったが、今般、充足が確認された)
▽JA北海道厚生連 札幌厚生病院(北海道、要件をすべて満たしているために2年指定)
▽秋田県厚生農業協同組合連合会 秋田厚生医療センター(秋田県、要件をすべて満たしているために2年指定)
▽山形市立病院済生館(山形県、一部に軽微な要件未充足があるために1年指定)
▽山形県立新庄病院(山形県、一部に軽微な要件未充足があるために1年指定)
▽新潟県立中央病院(新潟県、要件をすべて満たしているために2年指定)
▽飯田市立病院(長野県、要件をすべて満たしているために2年指定)
▽橋本市民病院(和歌山県、要件をすべて満たしているために2年指定)
▽国立病院機構 浜田医療センター(島根県、要件をすべて満たしているために2年指定)
▽高知県立幡多けんみん病院(高知県、要件をすべて満たしているために2年指定)
▽国立病院機構 嬉野医療センター(佐賀県、要件をすべて満たしているために2年指定)
●新規指定(要件の未充足が一部でもあれば指定されず、つまりすべての要件を満たしているので2年指定となる)
▽東北医科薬科大学病院(宮城県、2年指定)
▽医療法人社団愛友会上尾中央総合病院(埼玉県、2年指定)
▽昭和大学藤が丘病院(神奈川県、2年指定)
▽魚沼基幹病院(新潟県、2年指定)
▽和泉市立総合医療センター(大阪府、2年指定)
▽神鋼記念病院(兵庫県、2年指定)
▽兵庫県立尼崎医療センター(兵庫県、2年指定)
▽医療法人 原三信病院(福岡県、2年指定)
▽福岡赤十字病院(福岡県、2年指定)
▽福岡和白病院(福岡県、2年指定)
●指定更新
▽旭川医科大学病院(北海道、要件の軽微な未充足があるため指定年限を「1年」に見直しして指定)
▽JA北海道厚生連 帯広厚生病院(北海道、要件の軽微な未充足があるため指定年限を「1年」に見直しして指定)
▽岩手県立胆沢病院(岩手県、2年指定)
▽岩手県立磐井病院(岩手県、2年指定)
▽東京医科大学茨城医療センター(茨城県、2年指定)
▽春日部市立医療センター(埼玉県、2年指定)
▽さいたま市立病院(埼玉県、2年指定)
▽国立病院機構 千葉医療センター(千葉県、2年指定)
▽川崎市立井田病院(神奈川県、2年指定)
▽国家公務員共済組合連合会 横須賀共済病院(神奈川県、2年指定)
▽大津赤十字病院(滋賀県、2年指定)
▽彦根市立病院(滋賀県、2年指定)
▽公立学校共済組合 近畿中央病院(兵庫県、2年指定)
▽赤穂市民病院(兵庫県、2年指定)
▽紀南病院(和歌山県、放射線機器に入れ替えがあり一部に軽微な要件未充足があるために「1年」指定)
▽国立病院機構 呉医療センター(広島県、要件の軽微な未充足があるため指定年限を「1年」に見直しして指定)
▽国立病院機構 福岡東医療センター(福岡県、2年指定)
▽大分県済生会日田病院(大分県、2年指定)
●「地域がん診療病院」から「地域がん診療連携拠点病院」への類型見直し
▽小樽市立病院(北海道、要件をすべて満たしているために2年指定(要件の未充足があれば拠点病院に指定されない))
▽鹿児島県立大島病院(鹿児島県、要件をすべて満たしているために2年指定(要件の未充足があれば拠点病院に指定されない))
このうち福岡県では、すでに多くのがん診療連携拠点病院が指定されていますが、ここにさらに3病院が新規指定される件について、藤座長は「福岡県では人口増が続いており、また九州全域からがん患者が福岡県の病院を受診している」などの状況があることを紹介しています。この点、がん患者代表として検討会に参画する村本高史構成員(サッポロビール人事部プランニング・ディレクター)は「かつては『相乗効果がある場合に限り、同一医療圏に複数の拠点病院を指定する』と抑制的な時代もあった。今後、同一医療圏内で複数の拠点病院を指定する愛には『連携』の意味などを明確にすべきである」と指摘。今後、「がん診療提供体制の在り方に関する検討会」での検討テーマの1つとなりそうです。
また埼玉県の上尾中央総合病院については、以前に「エビデンスのない、いわゆる『免疫療法』を自由診療で実施している」点が問題となり、がん診療連携拠点病院への指定が見送られた経緯があります(拠点病院の要件はすべて満たしている、関連記事はこちら)。しかし今般、「エビデンスのない免疫療法は中止している」ことが確認され、拠点病院への指定が適っています。
秋田赤十字病院など3病院、拠点病院要件を見たさず「特例型」に
一方、次の3病院については、現在「一般型の地域がん診療連携拠点病院」ですが、要件の未充足があり、かつそれが軽微ではないために、「特例型」の地域がん診療連携拠点病院に変更となります。
▽秋田赤十字病院(秋田県、「専従放射線治療常勤医」を確保できていない)
▽日本赤十字社栃木県支部 那須赤十字病院(栃木県、「専従放射線治療常勤医」を確保できていない)
▽神奈川県厚生農業協同組合連合会 相模原協同病院(神奈川県、「院内がん登録中級者」を確保できていない)
指定期間は1年ですが、例えば、この2月・3月(つまり2020年度内)に要件充足が認められれば、「一般型」に復帰することが可能です。
また、2021年4月からの1年間で要件充足が認められない場合には、後述するように「地域がん診療連携拠点病院としての指定更新が認められない」こととなります。この場合、診療報酬のA232【がん拠点病院加算】(ここでは入院初日に500点)を算定できなくなるほか、集患にも影響が出てくるため、経営的にも相当なダメージになると考えられます。
特例型のうち6病院は「1年間で要件充足」が適わず、拠点病院の指定更新されず
特例型病院のうち、次の6病院については、1年間の間に要件充足が適わなかったため、指定更新が認められません。この4月(2021年4月)からは一般病院となります。
▽一般財団法人慈山会医学研究所付属坪井病院(福島県)
→「精神症状緩和常勤医」「院内がん登録実績」「放射線治療実績」要件を満たせず
▽一般財団法人温知会会津中央病院(福島県)
→「放射線治療実績」「薬物療法実績」要件を満たせず
▽労働者健康安全機構福島労災病院(福島県)
→「精神症状緩和常勤医」「放射線治療実績」を満たせず
▽高岡市民病院(富山県)
→「薬物治療実績」「放射線治療実績」を満たせず
▽市立甲府病院(山梨県)
→「専従薬物治療常勤医」「専従放射線治療常勤医」「精神症状緩和常勤医」「手術実績」「薬物療法実績」「放射線治療実績」「院内がん登録中級者」要件を満たせず
▽国立病院機構 米子医療センター(鳥取県)
→「専従放射線治療常勤医」「専従病理診断常勤医」「放射射線治療実績」を満たせず
後述するように「要件の緩和された地域がん診療病院を目指す」手段が考えられますが、上記の病院では「同一医療圏内に、ほかにがん診療連携拠点病院がある」ために、その手段を採用することはできません。要件充足に向けた努力を行い、改めて「新規指定」を目指すことになります。
要件を緩和した「地域がん診療病院」の指定更新等も
また、次の5病院について「地域がん診療病院」として2年間の指定が行われます。地域がん診療連携拠点病院の存在しない医療圏(いわゆる空白地域)において、要件を一部緩和した「地域がん診療病院」を指定し、隣接地域の「地域がん診療連携拠点病院」と連携して、高度ながん治療を行うことを目指す仕組みです。
▽新潟県厚生農業協同組合連合会 佐渡総合病院(新潟県、医療安全確保要件をクリアし、すべての要件を充足したために「2年間」に指定しなおし)
→「新潟大学医歯学総合病院」「新潟県立がんセンター新潟病院」と連携
▽富士吉田市立病院(山梨県、特例型の拠点病院からの指定類型変更)
→「山梨大学医学部附属病院」と連携
▽公立甲賀病院(滋賀県、医療安全確保要件をクリアし、すべての要件を充足したために「2年間」に指定しなおし)
→「滋賀医科大学医学部附属病院」と連携
▽金田病院(岡山県、医療安全確保要件をクリアし、すべての要件を充足したために「2年間」に指定しなおし)
→「岡山医療センター」「津山中央病院」と連携
▽鹿児島県立薩南病院(鹿児島県、一般型の拠点病院からの指定類型変更)
→「鹿児島大学病院」と連携
このうち「富士吉田市立病院」と「薩南病院」は、現在、地域がん診療連携拠点病院ですが、要件を満たせず、また近い将来に充足することも難しいことから、要件の緩和された「地域がん診療病院」へ変更となるものです。
なお、「地域がん診療病院」は「地域がん診療連携拠点病院の存在しない医療圏」でのみ設置が可能であり、例えば「A・Bの複数の地域がん診療連携拠点病院がある医療圏において、A病院が要件充足となり、今後の充足の目途も立たない場合に『地域がん診療病院』への変更を行う」ことはできません。
関連して「山梨厚生病院」(山梨県)については、「山梨県立中央病院と連携する地域がん診療病院」と指定されていますが、要件の一部が未充足となっています。このため検討会では「要件の充足に向けて努力する」よう勧告する方針を決定しました。
地域がん診療病院には、「特例型」のような「一時的に要件未充足を認める」仕組みがないために、次回検討会(2021年6月予定)までに要件充足が確認出来ない場合には、地域がん診療病院としての指定取り消しが検討されることになります。
がん拠点病院にも新型コロナの影響、指定更新等にあたり「臨時特例措置」を検討
なお、現在、全国で新型コロナウイルス感染症が猛威を振るい、その影響は「がん診療連携拠点病院」にも及んでいます。
このため、検討会では要件の1つである「がん等の診療に携わる医師等に対する緩和ケア研修会」について、「▼講義▼グループワーク—については「WEB開催」で代替可能とする」こと、「要件該当期間を2021年度の現況報告等では2年間に拡大する(2020年1月から2021年12月までに実施・受講すればよい)」ことを了承しています。
なお、緩和ケア研修会で非常に重要な「ロールプレイ」(模擬患者に「末期である」旨の告知等を行い、適切なフォローを行うなど)についも「WEB開催を検討すべき」(村本構成員)との指摘もあり、今後、検討することになります。
さらに、来年度の指定更新等においては「新型コロナウイルス感染症の影響を真正面から受ける」ために、一定の臨時的な要件緩和などが検討されます。がん診療連携拠点病院等、とりわけがんセンターではない、総合病院である「がん診療連携拠点病院」(大学病院や県立中央病院など)では、新型コロナウイルス感染症の重症患者に医療資源を重点化・集約化するために、予定入院・予定手術の延期などが行われています。また、医療機関受診による新型コロナウイルス感染を恐れて、患者が必要な検診・受診等を避けるケースがあります。このため、診療実績等が一時的に落ち込んでいる可能性がある(別稿で詳しくお伝えします)ことから、必要な臨時的対応が検討されるものです。
【関連記事】
砂川市立病院や社会保険田川病院など9病院、一般型の地域がん拠点病院へ復帰―がん拠点病院指定検討会
高度型がん拠点病院、実績ナンバー1項目が最低1つ必要、IMRT実績の要件化を将来検討―がん拠点病院指定検討会(2)
高度型の地域がん診療連携拠点病院、北里大病院、八尾市立病院、日本海総合病院など33施設を新指定―がん拠点病院指定検討会(1)
群馬大病院、2019年7月から「都道府県がん診療連携拠点病院」に復帰―厚労省
都道府県がん拠点病院50施設、地域がん拠点病院339施設など4月1日から新指定―がん拠点病院指定検討会
地域がん診療連携拠点病院、機能・実績に応じ「高度型」「特殊型」など3分類に―がん診療提供体制検討会
がん携拠点病院の新要件固まる、2019年4月から新要件に基づくがん体制始まる―がん診療提供体制検討会
地域がん拠点病院、2019年から機能や実績に応じて3区分に―がん拠点病院指定要件ワーキング
拠点病院にABCの区分設け、補助金などに反映―拠点病院の指定要件ワーキング
第3期がん対策推進基本計画を閣議決定、ゲノム医療推進や希少・難治がん対策など打ち出す
病院にピアサポーターが必要な本当の理由、がん患者を支える非医療職の実像