群馬大病院、2019年7月から「都道府県がん診療連携拠点病院」に復帰―厚労省
2019.6.28.(金)
重大な医療事故が発生し、都道府県がん診療連携拠点病院の指定を取り消されていた「群馬大学医学部附属病院」について、ガバナンス体制・医療安全体制の確保などが確認されたため、この7月1日(2019年7月1日)から都道府県がん診療連携拠点病院への復帰を認める―。
6月19日―21日にかけて持ち回り開催された「がん診療連携拠点病院等の指定に関する検討会」(以下、検討会)で、こういった点が了承されました(厚労省のサイトはこちら(指定結果)とこちら(検討会資料))。
群馬大病院の医療安全確保体制・ガバナンス体制の強化を確認
検討会では今年(2019年)3月に、新たな「がん診療連携拠点病院の指定基準」に基づいて、すべてのがん診療連携拠点病院を対象に「指定基準を満たしているか否か」の洗い直しを行いました(関連記事はこちら)。
その際、群馬大学医学部附属病院については、「検討会として群馬大病院にヒアリング等を行うべきではないか」(村本高史構成員:サッポロビール人事部プランニング・ディレクター)、「改善内容に関する十分な資料提出を求めるべきではないか」(羽鳥裕構成員:日本医師会常任理事)、「ベテラン医師を中心とした医療安全の風土が構築されているか確認すべきではないか」(小松本悟構成員:日本病院会副会長)などの慎重意見が相次ぎ、藤也寸志座長(九州がんセンター院長)は「指定の可否については『保留』し、今後の取扱いについて再検討する」考えを示していました(関連記事はこちら)。
この点について今般、群馬県の大澤正明知事から、群馬大学医学部附属病院においては次のような「ガバナンス体制」「医療安全確保体制」が確保されている旨が説明され、改めて「都道府県がん診療連携拠点病院に指定ほしい」との推薦が行われました。
▽外科診療科の再編・統合、外科診療センターの新設を行い、「一元化された管理体制」を確立している
▽外科診療センターでは、(1)診療科ごとのカンファレンス(2)疾患別キャンサーボード(3)外科診療センター合同カンファレンス(術前・術後に、所属外科医全員・関連病棟および手術部の看護師、学生も参加する)(4)合併症(M&M)カンファレンス―を実施している
▽ハイリスク症例については、臨床倫理専門委員会で▼患者の病態等を踏まえた上での当該医療技術の必要性▼設備・体制の整備状況▼医師・診療科の技能、経験▼学会等が定めた指針への適合性▼患者への説明のプロセス▼インフォームド・コンセントの内容▼治療方針に関するカンファレンスで必要な議論がなされているか―を確認したうえで治療を実施している
▽外科診療センター合同カンファレンスでは、全予定手術症例について、「予定どおり実施するか」を参加者全員の意見を確認し決定しており、そこでは部位別診療科の枠を超えて参 加者から意見が出されている(実際に呼吸器・心血管合併症を有する消化器がん患者の手術適応について呼吸器外科専門医や循環器外科専門医よりコメントがなされ、手術の安全性を高める議論が行われている)
▽内科診療科についても再編・統合を行い、内科診療センターを新設し一元的な管理体制を確立している
▽放射線療法の実施について、全初診患者について、放射線科カンファレンスで確認した後に、院内のキャンサーボードに治療方針を提示し決定している
▽がん薬物療法については、プロトコール審査委員会で承認された治療法のみ実施できる体制とし、その審査は、「医師、薬剤師による予備審査」「医師、薬剤師、看護師らによる本審査(プロトコール審査委員会)」の2段階で行っている
▽内科、外科、放射線科医に加え、看護師、薬剤師などの多職種が出席するキャンサーボードで討議した「患者の病態に応じた適切な治療方法」を選択している
▽▼「医療の質・安全管理部」を診療支援部門から分離独立して病院長の直轄の組織とする▼医療安全担当副病院長を配置する▼各診療科のほか、検査部や手術部などの中央診療施設、病棟等に合計82名のリスクマネジャーを配置し、要綱で権限・役割を明確化する―など医療安全確保体制を強化している
▽インシデント事例は、当事者・発見者から直接またはリスクマネジャーを通じて「医療の質・安全管理部」に報告され、報告された全インシデントを「医療の質・安全管理部」で毎日確認・評価し、「重大事案・迅速な対応を要する事案について医療安全担当副病院長に随時連絡する」「多職種で構成する定例の医療事故防止専門委員会で検討する」などし、事故防止や業務改善等を図っている
▽「患者死亡時チェックシート」を各病棟に配置し、全死亡症例を「医療の質・安全管理部」へ即時報告する体制を構築。死亡症例検証委員会を毎月開催し、医師委員14名およびオブザーバー4名が「カルテレビュー」「症例の検証」「各診療科の合併症・死亡症例検討会の記録確認」を行い、問題点の抽出、病院長および医療業務安全管理委員会へ事例と改善に生かすための提案を行っている
▽「医療の質・安全管理部」が計画に沿った医療安全研修を実施(年13回)し、医師を含め全職員に「少なくとも年2回の受講」「e-ラーニング研修の受講」を義務づけ、全職員が規定の受講回数を満たしている
▽群馬県や群馬県医師会、病院、患者団体などが構成員となっている「がん診療に関連する会議、委員会」(群馬県がん診療連携協議会、群馬県がん対策推進協議会、群馬県がん対策推進計画策定部会各専門分科会、群馬県保健医療対策協議会、群馬県重粒子線治療運営委員会)等で、随時、群馬大学医学部附属病院におけるがん診療体制や医療安全の取り組み等の報告を受けており、今後も継続して状況把握、情報共有を行う
こうした改善状況を慎重に精査し、検討会は持ち回りで「群馬大学医学部附属病院を都道府県がん診療連携拠点病院に指定する」ことを了承。7月1日からの「復帰」となりました。これにより、群馬県における「都道府県がん診療連携拠点病院」未指定状況は解消されることになります。
このほか検討会では、次のような点も了承しています。いずれも、7月1日(2019年7月1日)より発効し、がん診療連携拠点病院(都道府県および地域)は全国で393施設に、地域がん診療病院は全国で43施設となります。
▽兵庫県立丹波医療センター(兵庫県)を「地域がん診療連携拠点病院」に指定する(2019年4月から地域がん診療連携拠点病院に指定されている「兵庫県立柏原病院」が、柏原赤十字病院と統合し「兵庫県立丹波医療センター」となったための新規指定)
▽長崎みなとメディカルセンター(長崎県)を「地域がん診療連携拠点病院」に指定する(既に指定済みだが、指定期間を短縮)
▽以下の病院を近隣の「地域がん診療連携拠点病院」と連携し、拠点病院空白地域のがん診療提供体制を確保する「地域がん診療病院」に指定する
▼むつ総合病院(青森県、青森県立中央病院と連携する)
▼公立甲賀病院(滋賀県、滋賀医科大学医学部附属病院と連携する)
▼三豊総合病院(香川県、香川大学医学部附属病院と連携する)
▼鹿児島県立薩南病院(鹿児島県、鹿児島大学病院と連携する)
▼国立病院機構南九州病院(鹿児島県、鹿児島医療センターと連携する)
▼県民健康プラザ鹿屋医療センター(鹿児島県、鹿児島大学病院と連携する)
▼鹿児島県立大島病院(鹿児島県、鹿児島大学病院と連携する)
がん医療の質向上・経営の質向上を目指すCQI研究会、8月に都内で研究会を開催
ところで、100超のがん診療連携拠点病院などが参加する CQI(Cancer Quality Initiative)研究会(代表世話人:望月泉:八幡平市病院事業管理者・岩手県立病院名誉院長)では、DPCデータをもと「がん医療の質向上」に向けた研究を行っており、メディ・ウォッチを運営するグローバルヘルスコンサルティング・ジャパン(GHC)がデータ分析等を担当しています。
今年8月24日には、都内で第14回研究会を開催します。研究会では、「診療の質」と「経営の質」を向上するためのデータ分析方法を議論。GHCの開発した「がん診療分析システム」(下図)を用いて、例えば、結腸がんの「術式の割合」(開腹か、腹腔鏡か)、「平均在院日数」や「周術期の医療行為」などを、参加病院の実データを用いてベンチマーク分析し、自院の課題や改善方向などを探ります。
さらに厚労省のがん対策担当者による講演も予定しており、「がん医療の質・経営の質向上」を検討する絶好の機会です。がん診療連携拠点病院や、がん医療に力を入れる急性期病院におかれては、是非、CQI研究会にご参加ください。
◆「第14回CQI研究会」のお申し込みはこちらから
◆お問い合わせ先:CQI研究会事務局(GHC内、担当:八木、森、安斎 E-mail : cqi@ghc-j.com)
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