看護職員の処遇改善に向けた補助金・診療報酬、ありがたいが、公立病院では対応に苦慮―全自病・小熊会長
2022.3.10.(木)
看護職員の処遇改善に向け、2-9月は補助金、10月以降は診療報酬で財源給付がなされるが、公立病院では職員の基本給引き上げは容易でなく、また「恒久的な財源確保」となるのかが現時点では見えにくく対応に苦慮している―。
3月9日の定例記者会見で、全国自治体病院協議会の小熊豊会長はこうした考えを述べました。
また2022年度診療報酬改定については、「【急性期充実体制加算】や【重症患者対応体制強化加算】などが新設されたが、取得できる病院は一部で、多くの病院は手を出せない。非常に厳しい改定である」との感想も述べています(関連記事はこちらとこちら)。
公立病院職員の基本給アップには条例改正が必要、職種限定は不公平を生む
昨年(2021年)11月19日に閣議決定された新たな「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」、12月20日に成立した2021年度補正予算において、「看護職員について、賃上げ効果が継続される取り組みを行うことを前提として、収入を1%程度(月額4000円)引き上げるための措置(補助金交付)を来年2月(2022年2月)から9月まで実施する」ことが決まりました。
また12月22日の後藤茂之厚生労働大臣・鈴木俊一財務大臣合意において、「10月以降は診療報酬で同様の処遇改善(看護職員の収入を3%程度改善できる処遇改善)を行う」方針(今後、制度設計を中央社会保険医療協議会で行っていく)も決まりました(関連記事はこちら)。
この仕組みについて公立病院の間では「看護職員の処遇改善は重要かつ必要であり財源確保は非常にありがたい」と歓迎する一方で、例えば次のような点から「公立病院では対応に苦慮している」との声も出ていることが小熊会長から報告されました。
▽公立病院では基本給引き上げを行うためには、人事院勧告に基づき議会で条例改正等を行わなければならない(病院だけで決することはできない)
▽基本給以外の「恒久的な手当」(例えば危険手当など)による対応も考えられるが、「10月以降の診療報酬」の姿(=恒久的な財源確保)が見えない中では「どういった手当で対応すべきか」を検討することが困難である
▽処遇改善の対象に「事務職員」や「薬剤師」を含めることはできず、職種間で「不公平」が生じてしまう。不公平をなくすには事務職員や薬剤師の処遇改善のために「病院の持ち出し」が生じてしまう
▽同じ県内の県立病院でも様々な機能・役割があり、救急対応を行う県立病院では処遇改善の財源が確保されるが、救急対応が少ない「がん医療に特化した県立病院」などでは処遇改善財源が確保されず、「同じ県内の県立病院に努める同じ職種」であっても不公平が生じてしまう(例えば県内に10の県立病院があるが、7病院には補助金が下りるが、3病院には下りず、県立病院の看護師間に処遇の不均衡が生じる)
また望月泉副会長(八幡平市病院事業管理者兼八幡平市立病院統括院長)は「岸田文雄内閣総理大臣が新型コロナウイルス感染症に対応する現場看護師の苦労を目の当たりにし『処遇改善の必要性』を強く感じて補助金等の創設を指示したが、そこに救急要件(診療報酬のA205【救急医療管理加算】を算定し、救急搬送件数が年間200台以上の医療機関、および3次救急を担う医療機関)が加わり、当初目的とやや異なる形になった。看護職員の処遇改善の重要性・必要性は述べるまでもなく、財源確保は非常にありがたいが、制度の立て付けに問題がある」と分析しています。
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