外来医療の機能分化論議は拙速に進めず、4月の中間とりまとめでは「絞り込み」が必要―社保審・医療部会
2020.3.24.(火)
外来医療の機能分化に向けて、医療計画の見直し等に関する検討会で「外来医療機能報告」に関する議論が進んでいる。しかし、外来医療の在り方論議を拙速に進めれば地域医療への悪影響も懸念されることから、検討会の中間取りまとめでは絞り込んだ議論を行い、外来医療の在り方そのものは拙速を避けて、丁寧に議論していく必要がある―。
3月23日に開催された社会保障審議会・医療部会では、こうした意見が委員から相次ぎました。
検討会では「外来版の地域医療構想・外来医療機能報告」の枠組み創設論議が進む
Gem Medでお伝えしているとおり、「全世代型社会保障検討会議」が昨年(2019年)末に中間報告をまとめ、そこでは「紹介状なし外来受診患者」からの特別負担徴収義務について、対象病院を「200床以上の一般病院」に拡大するとともに、最低金額を増額し、増額分を医療保険財政の負担軽減に充てる、との方向が示されています。
今夏(2020年夏)までに制度の枠組みを具体的に固めることが求められており、次の2つのレールで議論が進められています(関連記事はこちらとこちら)。
(1)社会保障審議会・医療部および「医療計画の見直し等に関する検討会」(以下、検討会)において、ベースとなる「外来医療の機能分化」「かかりつけ医機能の推進」に関する方向性を固める
(2)社会保障審議会・医療保険部会および中央社会保険医療協議会で「対象病院」や「金額」「医療保険の負担を軽減する仕組み」などを議論する
このうち(1)の検討会では、すでに「外来版の地域医療構想・外来機能報告制度」と言える仕組み創設に向けた議論を始めており、これまでに▼「医療資源を重点的に活用する外来」の類型・範囲を明確化する(例えば入院前後の外来医療など) → ▼医療機関から「医療資源を重点的に活用する外来」の実施状況について報告を求め、実態を把握する(例えば、病床機能報告制度に倣う仕組み) → ▼地域の医療関係者等で協議し、「医療資源を重点的に活用する外来」を地域で基幹的に担う医療機関を明確化する(例えば「地域医療構想調整会議」を活用するとともに、機能分化に向けて都道府県知事へ一定の権限を付与するなど)―という枠組みが浮上してきています。4月中旬に中間取りまとめを行い、制度の枠組みを固める予定です(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
3月23日の医療部会には、厚労省医政局総務課の佐々木裕介課長が検討会の議論経過を報告。これに基づいて方向性や枠組みについて議論が行われました。
外来医療機能報告の枠組みそのものについて、明確な異論・反論は出ておらず、「医師不足地域で、患者の医療へのアクセスが阻害されないような配慮が必要である」(佐保昌一委員:日本労働組合総連合会総合政策推進局長)などの注文が付いています。
しかし、「外来医療の機能分化をどう進めるべきか」という、より根本的な議論が必要と強調する委員も少なくありません。
相澤孝夫構成員(日本病院会会長)は、「初診・再診、特定機能病院、地域医療支援病院などの定義は明確だが、『200床以上の一般病院』『地域密着型の中小病院』などは定義づけも共通認識もない。それがないままに議論を進めれば、行き違いが生じてしまう」と指摘。議論の端緒とも言える「全世代型社会保障検討会議の中間報告」の内容そのものに不快感を示すとともに、「医療提供体制の在り方を決定する医療部会として、『考え直すべき』と全世代型社会保障検討会議に意見すべきではないか」との考えも示しました。
また、検討会の構成員でもある山口育子委員(ささえあい医療人権センターCOML理事長)も「全世代型社会保障検討会議の中間報告があるために、仕方なしに外来医療機能報告の枠組みを議論しているように思える。全世代型社会保障検討会議では『200床以上の一般病院』に特別負担徴収義務を拡大すると断言しているが、医療部会で強い異論が出ていることを伝えたほうが良いのではないか」とコメントしています。
さらに、今村聡委員(日本医師会副会長)も、「外来医療体制を拙速に見直せば、地域医療を崩壊させかねない。紹介状なし外来患者の定額負担徴収義務については、2020年度の診療報酬改定で『一般病床200床以上の地域医療支援病院』にまで拡大することとなったが、その効果・影響も検証せずに、さらなる拡大を行うことは拙速に過ぎる。全世代型社会保障検討会議の最終報告論議に向けて、医療部会から慎重意見が相次いだことを伝えてほしい」と厚労省に要望しています。
こうした意見に対し、厚労省大臣官房の迫井正深審議官(医政、医薬品等産業振興、精神保健医療、災害対策担当)(老健局、保険局併任)は、「外来医療の在り方そのものを議論する必要性については真摯に受け止める」としたうえで、「現在の外来医療に課題がないわけでない。軽症患者が大病院に集中して医師が疲弊してしまっていることは医療提供者も認識しておられ、診療報酬改定論議でも『大病院と地域密着型の中小病院との機能分化』を進めてきている。こうした機能の違いを分かりやすく整理することが必要で、検討会において『医療資源を重点的に活用する外来』の類型・範囲を仮置きする案を示している。医療部会は、言わば日本の医療提供者代表の集まりであり、こうした内容について議論してほしい」と要望。また、佐々木総務課長は「4月の中間とりまとめまでにどこまでを議論するのか」を明確にする考えを示しています。
「外来医療の在り方そのもの」に関する論議には相当の時間がかかりますが、それを待っていたのでは全世代型社会保障検討会議の要請(今夏(2020年夏)までに制度の詳細を固める)に応えられません。逆に、拙速に外来医療全体の議論を進めれば大きな弊害も出てくることでしょう。このため、▼まず「外来医療機能報告制度」を医療部会・検討会で固め、これを「定額負担徴収義務病院」拡大に落とし込む仕組みを固める▼これと別に「外来医療の在り方そのもの」論議を継続していく―という流れになるものと考えられます。田中滋分科会長代理(埼玉県立大学理事長)も「4月の中間とりまとめまでにどの点を議論するのかを明確にする必要があるが、それが外来医療全体にマイナスの影響を与えてはならない。検討会では絞り込んだ議論を行う必要がある。外来医療の在り方そのもの論議には時間がかかる。入院医療の機能分化に向けた地域医療構想でも長期間の議論を要した。その点を全世代型社会保障検討会議にも理解してもらう必要がある」と指摘し、永井良三部会長(自治医科大学学長)も「丁寧な議論の必要性」を強調しています。
なお、医療保険者機能研究の第一人者である島崎謙治委員(政策研究大学院大学教授)は「医療提供体制の地域差を考慮すれば、外来医療機能報告の仕組みには『柔軟性』が求められる(例えば、『医療資源を重点的に活用する外来』を提供する病院の基準を都市部と地方部で柔軟に設定するなど)。一方、定額負担の増額分を医療保険財政に充当するとなれば、そうした柔軟性の許容範囲は狭くなると思う。医療部会と医療保険部会とで、行きつ戻りつの議論をしていく必要がある」と指摘。佐々木総務課長は「診療報酬改定の基本方針策定論議を参考に、両部会で連携をとって議論を進めてもらう」考えを明確にしています。
「医療安全管理者の研修プログラム」作成指針、医療事故調査制度創設など踏まえ改訂
なお、3月23日の医療部会では「医療安全管理者の業務指針および養成のための研修プログラム作成指針」の改訂案が了承されています。
例えば診療報酬の【医療安全対策加算】を取得するためには、適切な研修を受けた「医療安全管理者」を配置することなどが求められ、この指針は研修内容の基礎となるものです。
ただし、指針は2007年以降、見直しがなされておらず、その後に創設された「医療事故調査制度」(医療機関の管理者(院長など)に「予期しなかった『医療に起因し、または起因すると疑われる死亡または死産』」のすべてをセンターに報告することを義務付け)などの内容を盛り込むものです。医療部会では、改訂内容の大枠を了承しており、近く通知等が発出される見込みです(指針の新旧対照表はこちら(医療部会資料))(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
なお、医療事故調査制度については、2015年10月の制度発足から間もなく「5年」を迎えており、山口委員は「制度の課題が浮上(例えば複数医療機関にまたがる医療事故の取り扱いや、特定機能病院での報告件数の少なさ)しており、見直しに向けたアクションを検討してほしい」と厚労省に要望しています(関連記事はこちら)。
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