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豪雨で診療録等を滅失しても「保存義務違反」には問わず、ただし滅失等の記録を作成し保存せよ―厚労省

2020.7.30.(木)

7月上旬に九州地方を中心に記録的な豪雨(令和2年7月豪雨)が発生しました。筑後川や球磨川などの大河川が氾濫し、貴重な命が多数奪われるなど、大きな被害が出ており、現在も復旧に向けた努力が続けられています。被害にあわれた方々に、心よりお見舞い申し上げます。

医療機関等が被災したケースも少なくなく、中には診療録(カルテ)等の文書を滅失・棄損してしまったところもあります。診療録等の文書については法令で「一定期間の保存義務」が定められているものもあり、今般の被害による滅失・棄損について、どのような取り扱いになるのか気になります。

医師法第二十四条
第1項:医師は、診療をしたときは、遅滞なく診療に関する事項を診療録に記載しなければならない。
第2項:前項の診療録であって、病院又は診療所に勤務する医師のした診療に関するものは、その病院又は診療所の管理者において、その他の診療に関するものは、その医師において、五年間これを保存しなければならない。



この点、厚生労働省は7月22日に事務連絡「令和2年7月豪雨による災害に伴う診療録等の文書の保存に係る取扱いについて」を示し、「やむを得ず滅失等したとしても、保存義務違反とはならない」旨を明確にしました。東日本大震災を受けた事務連絡「文書保存に係る取扱いについて(医療分野)」(2011年3月31日付事務連絡)と同じ取り扱いです。

▽診療録等を滅失した場合には次のように取り扱う
▼下記の診療録等(文書および電磁的記録)について、医療機関等で適切な管理の下に保存していたにもかかわらず、今般の豪雨でやむを得ず滅失した場合(電磁的記録の出力が不可能となった場合を含む、以下)には、関係法令に基づく保存義務違反には当たらない

▼診療録等の一部に限り滅失した場合には、滅失していない部分について、引き続き、関係法令に基づいて適切に保存を行うが必要である

▼医療法人の財産目録・事業報告書等・監事の監査報告書・定款または寄附行為などについて、当該文書の全部・一部を滅失した場合、滅失した文書の写しを都道府県・厚労省から取り寄せて保存する(ただし、都道府県・厚労省でやむを得ず当該写しを滅失した場合はこの限りではない)

▽診療録等の全部・一部を滅失した場合、医療機関等は▼保存を行っていた場所▼滅失した理由▼滅失した文書の名称(一部を滅失した場合にはその範囲)―などを記録した文書を作成し、保存する

▽電磁的記録の出力が不可能となった磁気ディスク等については、個人情報の流出等の疑いが生じないよう留意して廃棄する

▽患者の▼身体状況▼病状▼治療―などについて作成された文書を滅失した場合は、患者が来診した際にその旨を適切に説明するなどし、医療従事者等と患者等との信頼関係の構築に取り組むよう努める

▽診療録等の外部保存場所・施設の確保が困難となった場合には、次の基準を満たした上で診療録等の外部保存を行ってよい。ただし、外部保存場所・施設の確保が可能となった場合には速やかに保存場所等を変更する必要がある。
▼「診療録等が診療の用に供するもの」であることに鑑み、必要に応じて利用できる体制を確保する
▼個人情報保護法等を遵守等し、患者のプライバシー保護に十分留意し、個人情報の保護を担保する
▼外部保存は医療機関等の責任において行い、事故等が発生した場合の「責任の所在」を明確にする

【対象となる診療録等】
(1)診療録(医師法第24条)
(2)診療録(歯科医師法第23条)
(3)助産録(保健師助産師看護師法第42条)
(4)診療に関する諸記録(医療法第21条第1項第9号・第22条第2号・第22条の2第3号)、診療および臨床研究に関する諸記録(同法第22条の3第3号)、病院の管理および運営に関する諸記録(第22条第3号・第22条の2第4号・第22条の3第4号)
(5)医療法人の財産目録(医療法第46条第2項)、書類(第51条の4第1項(同条第4項で準用する場合を含む)・第2項(同)・第3項(同))
(6)医療法人における議事録等(医療法第46条の3の6で準用する「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第57条第2項・第3項」・第46条の4の7で準用する「法第193条第2項」、第46条の7の2第1項で準用する「法第97条第1項」、第54条の7で読み替えて準用する「会社法第684条第1項・第731条第2項」、第58条の3第2項(第59条の2で準用する場合を含む)および第60条の4第2項(第61条の3で準用する場合を含む))
(7)覚醒剤の譲渡証(覚醒剤取締法第18条第1項・第30条の10第1項)、帳簿(第28条第1項・第30条の17第2項)
(8)麻薬の譲渡証(麻薬及び向精神薬取締法第32条第1項)、帳簿(第38条第1項・第39条第1項)、記録(第50条の23第2項)
(9)歯科医師の指示書(歯科技工士法第19条)
(10)毒薬・劇薬譲渡文書(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律第46条第1項)、処方箋医薬品販売帳簿(第49条第2項)、再生医療等製品に関する記録(第68条の7第3項・第4項)、特定生物由来製品記録(第68条の22第3項・第4項)
(11)処方箋(薬剤師法第27条)、調剤録(第28条)
(12)臨床修練に係る診療録(外国医師等が行う臨床修練に係る医師法第十七条等の特例等に関する法律第11条)、助産録(第12条)、救急救命処置録(第14条)、指示書(第15条)
(13)救急救命処置録(救急救命士法第46条)
(14)特定細胞加工物の製造記録等(再生医療等の安全性の確保等に関する法律第16条第1項・第45条)
(15)臨床研究記録(臨床研究法第12条)
(16)放射線治療機器に関する記録・帳簿(医療法施行規則第30条の21・第30条の22第1項・第30条の23第1項・第2項)
(17)診療録等(保険医療機関及び保険医療養担当規則第9条)
(18)調剤録・処方箋(保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則第6条)
(19)臨床検査技師に係る書類(臨床検査技師等に関する法律施行規則第12条の3)
(20)薬局の管理帳簿(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律施行規則第13条)、医薬品購入等記録(第14条・第146条・第149条の5・第158条の4)、店舗管理帳簿(第145条)、区域管理帳簿(第149条の4)、営業所管理帳簿(第158条の3)
(21)歯科衛生士の業務記録(歯科衛生士法施行規則第18条)
(22)医薬品の臨床試験に関する記録(医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令第26条の12・第34条・第41条第2項)
(23)医師臨床研修に関する帳簿(医師法第十六条の二第一項に規定する臨床研修に関する省令第18条)
(24)医療機器の臨床試験実施記録(医療機器の臨床試験の実施の基準に関する省令第45条、第53条・第61条第2項)
(25)歯科医師臨床研修に関する帳簿(歯科医師法第十六条の二第一項に規定する臨床研修に関する省令第18条)
(26)再生医療等製品の臨床試験実施記録(再生医療等製品の臨床試験の実施の基準に関する省令第45条・第53条・第61条第2項)
(27)再生医療等製品作成に向けた細胞提供等に関する同意等記録(再生医療等の安全性の確保等に関する法律施行規則第7条第8号・第14条第2項)、再生医療等提供計画等(第34条第3項)、審査等業務過程記録等(第67条第1項・第71条第1項・同条第2項、第4章)
(28)臨床研究の記録(臨床研究法施行規則第37条第1項・同条第2項)、同意等記録(第51条第2項)、関係書類と記録(第53条第2項・同条第3項)、記録(第62条第1項)、帳簿(第83条第1項)、関係文書(第85条第2項・第3項)



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