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2019年の「軽症での救急搬送割合」はやや減少、2020年からの新型コロナで国民の意識はどう変わるか―総務省消防庁

2021.1.1.(金)

2019年中の救急自動車による急病の搬送人員数は392万2274人で、疾病分類別に見ると▼呼吸器系:9.7%▼消化器系:8.7%▼心疾患等:8.1%▼脳疾患7.0%:—などが多いが、「症状・徴候・診断名不明確の状態」が4割弱を占めている。また、傷病程度別に見ると、「軽症(外来診療)」と「中等症(入院診療)」とで9割を占めている状況は変わらないが、「軽症」割合がやや減少している—。

総務省消防庁が12月25日に発表した2020年版の「救急・救助の現況」から、こういった状況が明らかになりました(総務省消防庁のサイトはこちら(概況)こちら(本編・救急))(前年の記事はこちら)。

昨年(2020年)初頭からは新型コロナウイルス感染症が猛威を振るい、医療提供の状況が大きく様変わりしています。救急搬送の要請件数等も減少していると考えられ、調査結果に注目が集まります。

救急出動の65%が急病である状況など変わらず、2020年には新型コロナの影響も

総務省消防庁では毎年、消防機関が前年に行った▼救急業務▼救助業務—と、都道府県が前年に行った消防防災ヘリコプターによる消防活動の状況とをまとめ「救急・救助の現況」として公表しています。(1)救急編(2)救助編(救助隊の活動状況など)(3)航空編(消防防災ヘリコプターの活動状況など)—の3編構成となっていますが、ここでは(1)「救急編」のうち「医療に関連する事項」に焦点を合わせて眺めてみます。

まず2019年中の救急出動件数(消防防災ヘリを含む)は664万2772件(前年に比べて0.5%増加)で、搬送人員数は598万258人(同0.3%増)となりました。このうち救急自動車による搬送人員数は597万8008人(搬送人員数の99.96%、前年と同じシェア率)、消防防災ヘリによる搬送は2250人(同0.04%)です。

2020年救急・救助の現況から(その1)



対前年比の増加率は、いずれも過去10年で最低にとどまっており、その背景が気になります。例えば「安易な119番を避ける」などの意識改革が高まっているのか、別の要素があるのか、詳しく見ていく必要があるでしょう。なお、2020年には新型コロナウイルス感染症が猛威を振るい、▼外出の自粛→転倒等による救急患者発生の減少▼手洗いの励行や他者との接触減→感染症(ウイルス性腸炎や季節性インフルエンザなど)の減少―などにより救急出動件数・救急搬送件数ともに大きく減少していると考えられます。



救急自動車出動の内訳をみると、▼急病:65.3%(前年から0.3ポイント増加)▼交通事故:6.5%(同0.5ポイント減少)▼一般負傷:15.3%(同0.2ポイント増加)—などとなっており、「交通事故の減少」が続いている状況が伺えます。

「軽症」ながら急病として救急搬送された患者の割合、前年から0.8ポイント減少

2019年中に急病で救急搬送された人は392万2274人で、これを年齢区分、傷病程度で分類すると次のようになります。

2020年救急・救助の現況から(その2)

2020年救急・救助の現況から(その10)



【疾病分類別】
▼呼吸器系:9.7%(同0.3ポイント増加)▼消化器系:8.7%(前年から0.3ポイント減少)▼心疾患等:8.1%(同0.4ポイント減少)▼脳疾患7.0%:(同0.2ポイント減少)—などが多いが、「症状・徴候・診断名不明確の状態」が4割弱(36.6%、前年から1.7ポイント増加)を占めている

2020年救急・救助の現況から(その7)



【年齢区分別】
▼65歳以上の高齢者:62.1%(前年から0.1ポイント増加)▼18-64歳の成人:30.5%(同0.6ポイント減少)▼7-17歳の少年:2.5%(同増減なし)▼生後28日から7歳の乳幼児:4.8%(同0.4ポイント増加)▼生後28日未満の新生児:0.05%(同増減なし)—

2020年救急・救助の現況から(その4)



【傷病程度別】
▼軽症(外来診療):47.9%(前年から0.8ポイント減少)▼中等症(入院診療):43.0%(同0.8ポイント増加)▼重症(長期入院):7.5%(同増減なし)▼死亡:1.6%(同増減なし)―

2020年救急・救助の現況から(その5)



「軽症」者割合を見ると、2016から17年にかけては「減少」、2017年から18年にかけては「増加」、2018年から19年にかけては「減少」となっており、現時点では、国民の意識が「救急搬送の要請をクリティカルなケースに限定する必要があり、自らも協力しよう」という方向にシフトしているとは考えにくい状況です。ただし新型コロナウイルス感染症が猛威を振るう中で、国民の意識改革が進んでいるのではないかと見る向きもあり、今後の状況を注視していく必要があるでしょう。

これらをクロスして「疾病分類別×傷病程度別」で見てみると、▼死亡者では「心疾患等」(39.8%、前年から0.1ポイント減少)と「症状・徴候・診断名不明確の状態」(36.5%、同0.3ポイント減少)とがともに4割弱▼重症者では「脳疾患」(22.5%、同0.5ポイント増加)と「心疾患等」(21.4%、同0.4ポイント減少)がともに2割強▼中等症者では「症状・徴候・診断名不明確の状態」(31.2%、同1.7ポイント増加)が3割弱▼軽症者では「症状・徴候・診断名不明確の状態」(44.1%、同2.1ポイント増加)が4割強―という状況です。前年から大きく変わっていません。

2020年救急・救助の現況から(その8)



また「年齢区分別×傷病程度別」では、いずれの年齢区分でも「中等症」と「軽症」との合計で9割程度を占めていますが、▼新生児では中等症が5割超(前年までと比べて中等症の割合が高くなっている)▼乳幼児・少年・成人では軽症が圧倒的に多い▼高齢者では中等症がやや多い—という違いがあります。

2020年救急・救助の現況から(その9)

119番から病院収容までの平均時間は39.5分で、ここ数年は横ばい

「119番通報から救急自動車が現場に到着するまでの時間」は全国平均で8.7分(前年調査と同じ)、「119番通報から病院に収容されるまでの時間」は同じく39.5分(前年調査と同じ)となりました。ここ数年は「横這い」の状況です。

2020年救急・救助の現況から(その6)



また病院収容までの時間(救急出動要請を覚知してから医師に引き継ぐまでの時間)を疾病分類別に見ると、精神系の疾患では若干長く(42.5分で、全体平均よりも7.6%長い)、依然として「精神疾患のある救急患者を受け入れてくれる病院」の探索等に時間がかかっている状況があるようです。

なお、救急隊の行った応急処理件数は1661万8225件(前年から3.8%増加)で、うち除細動や気管挿管、薬剤(エピネフリン)投与などの特定行為等の件数は24万1675件(同2.5%増加)、応急処理に占める特定行為の割合は1.5%(同増減なし)となりました。

さらに、医師が現場に赴いた件数は4万4662件(前年から6.1%増加、全救急出動の0.7%)、うち急病によるものが2万6415件(前年から6.7%増加)という状況です。医師の現場出動が確実に広まっている状況が伺えます。

医療機関への受け入れ照会「11回」以上のケースも年間2000件近くある

医療機関などへの搬送状況をみると、受け入れ照会回数は「1回」がもっとも多く急病では82.5%(前年から0.4ポイント減少)、次いで「2回」11.1%(同0.2ポイント増加)、「3回」3.7%(同0.2ポイント増加)と続きます。「11回以上」の照会が必要であったケースも1986件ありました(前年より87件増加)。

また搬送先医療機関の種別にみると、救急告示病院に93.9%(前年から0.1ポイント増加)、非告示病院に6.1%(同0.1ポイント減少)の患者が搬送されています。昨年(2020年)4月1日時点で、救急告示病院等は全国に4146施設(前年から26施設減)あり、内訳は▼民間:2881施設(同27施設減)▼公立:744施設(同4施設減)▼公的等:313施設(同5施設増)▼国立:208施設(同増減なし)―となっています。



さらに救急自動車による「転送」は、2018年中に2万585回2407(前年から8.1%減少)あり、その理由は、▼処置困難:58.9%(同3.0ポイント増加)▼専門外:12.6%(同0.2ポイント減少)▼満床:5.4%(同0.1ポイント減少)▼手術中:0.8%(同増減なし)▼医師不在:0.3%(同増減なし)―などとなっています。



なお、医師働き方改革の一環として、「救急救命士において、『医療機関に搬送されるまでの間(病院前)に重度傷病者に対して実施可能な救急救命処置』について、救急外来(救急診療を要する傷病者が来院してから入院(病棟)に移行するまで(入院しない場合は帰宅するまで)に必要な診察・検査・処置等を提供される場)でも実施可能とする」旨の法律改正が行われます。実際に、救急救命士が院内で業務実施を始めるまでには少し時間がかかりますが、活躍に期待を寄せたいところです。

また、上述のように新型コロナウイルス感染症が猛威を振るう中で、患者の受療行動等にも変化が生じる可能性があります。2021年の調査結果に注目が集まります。

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