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GemMed塾 新制度シミュレーションリリース

適切なDPC制度に向け、著しく「医療資源投入量が少ない」「自院の他病棟への転棟が多い」病院からヒアリング―入院医療分科会(2)

2021.6.16.(水)

DPC制度において「不適切に医療資源投入量を低く抑える病院」や「あまりに早期に患者を自院の他病棟(地域包括ケア病棟など)へ転棟させる病院」などがあれば、制度が歪み、DPC病院全体が不利益を受けてしまう。このため、「著しく医療資源投入量の少ない病院」や「著しく自院他病棟への転棟割合が高い病院」について、実態把握のためのヒアリングを行う―。

また現場からは「コーディングへの疑問」の声も数多く出ており、全DPC病院を対象に「コーディングテキストが活用しやすいか」などの調査を行う―。

6月16日に開催された診療報酬調査専門組織「入院医療等の調査・評価分科会」(入院医療分科会)では、こういった方針も固められました。

急性心筋梗塞等で「手術なし」症例が著しく多いDPC病院、適切な治療をしているか調査

2022年度診療報酬改定に向けて「入院医療改革」に関する専門的議論を行う入院医療分科会では、「DPC制度改革」も議題となります。

DPCについては、2018年度診療報酬改定で「医療資源投入量が著しく低い・平均在院日数が著しく長い病院」などについて「DPCからの退出」も考えてはどうか、という宿題が出されていました(関連記事はこちらこちら)。

DPC制度では、「全DPC病院の診療実績データ」をもとに点数や係数を設定します。例えば、DPC点数は、同じ診断群の症例について「どれだけの医療資源を投入したか(入院日数はどの程度か、検査をどの程度行ったか、医薬品等の投与量はどうであったか、など)」を見て設定します。したがって、仮に「不適切に医療資源投入量を著しく少なく抑えている」 病院が混入すれば、DPC点数が不当に低くなり、DPC病院全体で「収益が下がり、投入したコストを回収できない」状況も起こりえるのです。その一方で、「医療資源投入量を少なく抑えた病院」では、点数と実際の資源投入量との差が「純益」になるため、他のDPC病院との間で不公平が生じてしまいます。

このように、一部に「DPC制度を歪めている病院」が存在する可能性が指摘されているのです。

2020年度の前回改定論議でもこのテーマを検討し、▼標準化が進んだ内科系疾患(急性心筋梗塞、脳梗塞、狭心症、心不全)でも、標準化に反する病院(例えば「手術等をほとんど行わない」がある▼自院の他病棟(地域包括ケア病棟など)への転棟割合が著しく高いDPC病院がある―ことなどが分かりましたが、「退出ルール」構築には、さらなる分析・議論が必要とされ、2022年度以降の改定に向けて、次のような方針を固めるにとどめました(関連記事はこちらこちら)。

(A)「医療資源投入量が少なく、急性心筋梗塞、脳梗塞、狭心症、心不全症例のうち『手術なし』かつ『手術・処置等1なし』の症例割合が高い病院」「在院日数が短く、自院他病棟への転棟割合が高い病院」について、書面調査や個別ヒアリングなどを通じ、診療状況などについて引き続き評価分析を行う

(B)「医療資源投入量の著しく多い病院」や「在院日数が著しく長い病院」について、診療実態を把握し、評価分析を行う

(C)すべてのDPC病院それぞれに対し、個別に▼医療資源投入量▼在院日数▼転棟症例のシェア▼「手術なし」かつ「手術・処置等1なし」の症例のシェア―に関するデータを提供し、「当該病院がDPC制度の中でどのような位置にあるのか」を情報提供する



これを受け、2022年度の次期診療報酬改定に向けて、入院医療分科会の下に設けられた「DPC/PDPS 等作業グループ」で、具体的なヒアリング内容や対象などが詰められ、今般、その内容が親組織である入院医療分科会に報告・了承されました。(A)と(C)についての調査が行われることになります。

まず(A)については、宿題どおり▼医療資源投入量の著しく少ない病院▼在院日数の著しく短い病院—を数施設ピックアップし、ヒアリングを行います。ヒアリングは非公開で行われます(「対象病院がどこに決まったのか」を公表するのか、非公表とするのかも現時点では未定)。

前者の「医療資源投入量の少ない病院」には、冒頭に述べたような問題が隠されている可能性があります。その実態を把握するため、▼急性心筋梗塞のうち、「手術なし」かつ「手術・処置等1なし」症例が50%以上▼脳梗塞のうち、「手術なし」かつ「手術・処置等1 なし」症例が100%▼狭心症のうち、「手術なし」かつ「手術・処置等1なし」症例が50%以上▼心不全のうち、「手術なし」かつ「手術・処置等1なし」症例が100%—となっている病院(それぞれ10病院程度)について書面調査を行ったうえで「ヒアリングに招聘する病院」を選定し、「当該病院の状況」(なぜ医療資源投入量がそれほど少ないのか、医療の質に問題はないのか、など)を聞き取ることになります。「そもそも急性心筋梗塞症例が少ない」病院などは対象には含まれない見込みです。

書面調査では、該当疾病(急性心筋梗塞や脳梗塞など)に対し▼治療のための人員(専門医など)が配置されているか▼治療のための機器等が十分にそろっているか▼患者受け入れや入院の基準を設けているのか▼地域での役割が定められているか▼治療方針を誰がどのように定めているのか▼クリニカルパスを設けられているか▼「手術あり」症例等がなぜ少ないのか▼コーディングを誰が行っているのか、医師が確認しているのか―などを調べます。ヒアリングでも、同様の内容についてより突っ込んだやり取りが行われる見込みですが、従前のDPC評価分科会から長くDPC制度改革に携わっている井原裕宣委員(社会保険診療報酬支払基金 医科専門役)は「『良い・悪い』ではなく、当該病院の実態がどうなっているのかを詳しく見ていくことが目的である」とコメントしています。決して「困った病院を呼び出し、詰問する」ものではない点に留意が必要です。

「自院の他病棟」への転棟が著しく多いDPC病院、適切な急性期治療を行っているか調査

Gem Medで繰り返し述べているとおり「在院日数の短縮」は、医療の質の向上(院内感染リスクや廃用リスクの軽減)・患者のQOL向上(早期の社会復帰・家庭復帰)・医療費の適正化につながるため、一般に「好ましい」と言えます。しかし、在院日数の短縮のみに目を奪われ(DPCでは効率性指数・係数が高まり、病院収益の向上につながる)、必要な医療提供が疎かになったのでは本末転倒です。

このため、「在院日数の著しく短い病院」を対象に、「急性期医療が必要な状態である患者への医療が、他の病棟において提供されていはしないか」(「医療機能の分化・連携の強化」方針に大きく反する)なども調べることになりました。DPCの1日当たり点数は「在院日数別」に医療資源投入量を勘案して設定されており、「不適切に在院日数が短い」病院の存在は、上記「医療資源投入量の少ない病院」と同様に、DPC制度を歪めている可能性もあります。

具体的には、「自院他病棟への転棟割合が高い病院」(こうした病院で在院日数が著しく短いことが分かっている)に対し、▼個々の患者の転棟決定手順がどうなっているのか▼転棟も含めたクリニカルパスを設けているか▼転棟に関して、院内で統一された医学的な方針(例えば「点滴が外れたら回復期病棟に転棟させる」「急性期の治療が落ち着いたものの、退院調整が完了していない場合は転棟させる」など )▼在院日数が著しく短い理由はなにか―などを書面調査し(10病院程度)、そこから「ヒアリングに招聘する病院」を選定し、「当該病院の状況」(なぜ、それほど「自院の他病棟への転棟割合」が高いのか、など)を聞き取ります。

2020年度の前回改定では、「『DPC点数』と『地域包括ケア病棟入院料等の点数』を比較し、後者が高くなった時点で、自院の地域包括ケア病棟に転棟させる」病院が一部にあることが再確認され、点数上の措置(DPC病棟からの転棟後もDPC点数を継続算定する)が行われました(関連記事はこちら)。

この措置による「是正」効果も含めて、「自院他病棟への転棟割合が高い病院」の状況を見ていくことになるでしょう。

全DPC病院を対象に「コーディングの実態」を調査

また(C)では、全病院に「ベンチマーク分析可能な在院日数や資源投入量に関するデータ」を通知するとともに、関連して、全DPC病院(今年(2021年)4月1日時点で1755病院)を対象に、「コーディングに関する調査」も行われます。

DPCでは、▼最も医療資源を投入した傷病は何か▼手術や高度な処置を行ったか▼副傷病はあるか▼高額な薬剤を使用したか―などを確認し、個々の患者がDPCコードに該当したかを決します(コーディング)。このコーディングに誤りがあり、例えば「本来よりも点数の高いDPCコードが設定されれば、次期改定でDPC点数水準が低くなり、多くの病院でコスト割れが生じる可能性がある」「本来よりも点数の低いDPCコードが設定されれば、次期改定でDPC点数水準が高くなり、他疾患とのバランスが崩れる可能性がある」などの歪みが生じてしまいます。

このためコーディングのマニュアルなども整備されていますが、非常に複雑であり、かつ難しい作業なために、医療現場では「この傷病で、これこれの治療を行った場合には、果たしてどのDPCコードとすれば良いのか」との疑問が後を絶たないと言います。

そこで、今般の調査では▼「DPC/PDPS傷病名コーディングテキスト」(以下、テキスト)を認知しているか▼診断群分類の入力者(主に診療情報管理士)や確認者(医師)がテキストを活用しているか▼「疾患の頻度が高く、かつ医療内容の標準化が進んでいる」内科系疾患(急性心筋梗塞、脳梗塞、狭心症、心不全)について、テキストで不明な点があるか▼「疾患の頻度が高く、かつ医療内容の標準化が進んでいる」内科系疾患(急性心筋梗塞、脳梗塞、狭心症、心不全)について、コーディング上、分かりづらい点があるか―などを詳しく見ていくことになります。

調査結果如何によっては、コーディングテキストの見直し、場合によっては診断群分類(DPCコード)を見直す必要が出てくるかもしれません。いかに精緻な分類を設けても、現場が適切に運用できなければ、正しいデータを収集できなくなってしまうためです。井原委員は「DPC導入から18年がたっており、現場に分かりやすいものとなっているか、きちんと調べる重要な時期に来ている」とコメントしており、今後の入院医療分科会論議に注目する必要があるでしょう。



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