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外来診療 経営改善のポイント 2024年度版ぽんすけリリース

介護保険の福祉用具、「貸与」と「販売」のいずれが適切か利用実態等踏まえて丁寧に議論を―福祉用具のあり方検討会

2022.4.21.(木)

介護保険サービスの1つである「福祉用具貸与」について、「原則として販売に移行すべき」との指摘があるが、利用実態などを踏まえて丁寧に検討していく必要がある。例えば、利用者の状態が変化した場合に、販売では「借り換え」ができないなどのデメリットもあり、要介護状態の悪化につながることが懸念される―。

ただし、例えば「段差を解消するための三角スロープ」などは利用者状態の変化に左右されにくく、価格も安い(1万円未満)なので「販売」への移行を検討することも考えられる―。

4月21日に開催された「介護保険制度における福祉用具貸与・販売種目のあり方検討会」(以下、検討会)でこういった議論が行われました。

福祉用具の貸与・販売には、それぞれメリットとデメリット

「福祉用具貸与」「福祉用具販売」は公的介護保険サービスの1つで、要介護者の残存能力を引き出し(例えば杖を使うことで歩行が可能であれば、脚部の筋力が一定程度鍛えられ寝たきりを防止できる)、在宅サービスの継続を可能とする重要な役割を果たしています。

原則は「貸与」ですが、「排泄関連」など貸与に馴染まない一部品目などは「販売」の仕組みがとられています。

福祉用具貸与・販売に関する現行の仕組み(福祉用具あり方検討会1 220421)



ところで財政制度等審議会などでは「貸与期間が長くなる場合には販売のほうが安く済む」とし、「原則、販売の仕組みへの移行」を提言しています(財務省のサイトはこちら(2021年度予算に向けた建議))。例えば、歩行杖を3年間使用する場合、販売であれば1万円、貸与であれば41万4000円となり、「利用者の自己負担も、介護費用も高額になる」のです。

財政審は「福祉用具貸与から販売への移行」を提言している(福祉用具あり方検討会2 220421)



こうした提言を受け、厚労省の検討会で「福祉用具について貸与を原則とするべきか、販売を原則とするべきか」という議論がこの2月(2022年2月)から始まっています(関連記事はこちら)。

検討会では、(1)福祉用具利用に関する考え方の再整理を行ってはどうか(2)利用者の状態を踏まえた対応が必要ではないか(3)福祉用具利用にあたっては「メンテナンス」「モニタリング」が不可欠である点をどう考えるか(4)ケアマネジャー(介護支援専門医)による支援をどう考えるか(5)経済的負担(利用者負担、介護費など)をどう考えるか―といった論点に沿って議論を深めている最中です。

ここで、福祉用具について販売とした場合、貸与とした場合のメリット・デメリットを整理しておきましょう。用具によって使用方法など異なるため、一般論になりますが、販売にした場合には財務省の指摘するような「長期間利用では費用が安く済む」という大きなメリットがあります。

一方、福祉用具については▼メンテナンス(修理や調整など)が定期的に必要となる▼利用者の状態に応じて「借り換え」が必要となるケースもある(例えば、歩行機能については状態が比較的良い場合には「杖」でよいが、悪化した場合には「歩行器」「歩行車」に変更する必要が出てくる)▼不要になった場合、利用者・家族が自らの負担で「廃棄」しなければならない―ために、こうした点は「販売」のデメリットになります。

貸与では、このメリットとデメリットが反転し、「利用者の状態に応じて柔軟な借り換えが可能になる」というメリットがある一方で、「長期間利用の場合には費用が高くなる」というデメリットがあります。

こうした状況を踏まえて、検討会構成員の多くは「一律に販売・貸与を決めるという乱暴な議論ではなく、利用実態などをきめ細かく見た対応を検討すべき」との意見を述べています。

例えば、4月21日の検討会でも▼「段差を解消するための三角形のスロープ」などは借り換えの度合いが小さく、また費用も安価(1万円未満)であり「販売」への移行を検討しても良いのではないか(五島清国構成員:テクノエイド協会企画部長、東畠弘子構成員:国際医療福祉大学大学院福祉支援工学分野教授)▼利用者の希望を前提として、一定期間が経過した場合や、「販売額<貸与額」となった場合などに、「販売」と「貸与」とを選択できる仕組みを設けてはどうか(田河慶太構成員:健康保険組合連合会理事)―などの意見が出ています。

ただし、利用者の希望を踏まえて「販売」とした場合には、上記のデメリットにもある「メンテナンスをどう考えるか」「利用者の状態変化にどう対応するか」という問題は継続します((2)や(3)の論点に大きく関連)。

この点、「メンテナンス」については「販売においても定期的に販売事業者等がアフターフォローを行うような基準を設けてはどうか」という提案が田河構成員や東畑構成員らから出ています。

この4月(2022年)4月から「排尿予測支援機器」が福祉用具販売の対象に追加されています。在宅要介護者の膀胱に「どれだけ尿がたまったか」を超音波センサーで把握し、介護者に「排尿タイミング」を知らせるもので、失禁リスクの低下などが期待されます(関連記事はこちら)。この「排尿予測支援機器」については、「販売」形式となりますが、厚生労働省は通知「介護保険の給付対象となる排泄予測支援機器の留意事項について」の中で、「介助者も高齢等で利用に当たり継続した支援が必要と考えられる場合は、販売後も必要に応じて訪問等の上、利用状況等の確認や利用方法の指導等に努める」旨を販売事業者に求めています。つまり「販売」形式であっても、「販売後のメンテナンス義務」を一定程度課すことが現実的に可能であり、田河構成員や東畑構成員は「販売におけるメンテナンス基準・義務を一定程度設ける」ことで販売のデメリットを軽減できると考えているのです。

ただし、利用者の状態は時間の経過とともに変化します(上述の歩行支援用具の変遷など)。その場合に「買い替えをどう考えるか」「古い用具の廃棄費用等をどう考えるか」などの課題は残っており、今後も議論が継続されることになるでしょう。小野木孝二構成員(日本福祉用具供給協会理事長)は「販売→購入となると、利用者はどうしても購入した用具の使用継続に固執する。しかし、利用者の状態を考慮すれば『別用具・別製品への変更』が望ましいケースも少なくない。不適切な用具を継続使用すれば、安全性・有効性の面で問題もでかねない」と指摘。江澤和彦構成員(日本医師会常任理事)も「長期使用と最適使用とは一致しない」と小野木構成員の指摘に賛同。状態が悪化すれば、かえって「介護費が高騰する」ことにもつながり、論点(5)の経済的視点からも問題があると考えられます。



さらに、(5)の費用については、上述のとおり「長期間使用」の場合には「販売額<貸与額」となりますが、「財務省が例示した『歩行杖の3年使用』は現場・実態とかけ離れており、実例に即した試算が必要である」「廃棄費用なども考慮する必要がある」などの問題もあります。また厚労省は「一定期間貸与後に販売に切り替えた場合の費用」を試算していますが、安藤道人構成員(立教大学経済学部准教授)は「議論に耐えられる試算結果とは言えない」と厳しい見方をしています。

厚労省は「福祉用具貸与から販売に移行した場合の費用試算」を行ったが・・・(福祉用具あり方検討会3 220421)

「福祉用具貸与のみ」のケアプラン作成で介護報酬を下げよと財務省は指摘するが・・・

なお、(4)については、財務省が「福祉用具貸与のみを利用する場合には、ケアマネ報酬(介護報酬)を引き下げてはどうか」との考えも示しています(財務省のサイトはこちら(2021年度予算に向けた建議)、関連記事はこちら)。「福祉用具貸与では介護報酬が十分に得られない」→「より手間のかからない福祉用具販売に移行」という流れを期待している考えと言えそうです。

財務省は「福祉用具貸与のみのケアプランについて介護報酬を下げよ」との考え提示(福祉用具あり方検討会4 220421)



この考え方に対しては、「福祉用具貸与のみのケアプランとなっても、その前提であるアセスメント、サービス担当者会議などの手間は変わらない。結果として『福祉用具貸与のみ』との選択になるだけである」との批判が多くの構成員から出ています。あわせて「福祉用具貸与のみの報酬を下げれば、それを補うために『別のサービス』を組み合わせるという事態も生じかねない」と懸念する声も小さくありません。上述も含めて「財務省提案は筋が悪い」と指摘される所以が分かる一例と言えるかもしれません。



検討会では、今後も議論を深め今夏(2022年夏)に一定の方向性を示す予定です。



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