2022年10月からの介護職員処遇改善、現場の事務負担・職種間バランス・負担増などに配慮を―社保審・介護給付費分科会
2021.12.10.(金)
介護職員について来年(2022年)2月から9月まで補助金による処遇改善を行うが、対象は【介護職員処遇改善加算I-III】を取得する事業所に限定する方向で詳細を検討しているが、10月以降に介護報酬で対応する場合には「現場の事務負担」「職種間の給与バランス」「利用者負担・保険料負担の増加」といった点への配慮をする必要がある―。
また来年(2022年)4月から「排尿予測支援機器」を福祉用具販売の対象に追加する―。
12月8日に開催された社会保障審議会・介護給付費分科会でこういった議論が行われました。
目次
2022年2-9月の介護職給与増、【介護職員処遇改善加算I-III】取得事業所に限定見込み
11月19日に閣議決定された新たな「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」で、看護職員のみならず、介護職員の給与についても、来年(2022)2月から3%程度(月額9000円)引き上げるための措置を講ずる方針が打ち出されました。
併せて11月26日に閣議決定された2021年度補正予算案で、「賃上げ効果が継続される取り組みを行うことを前提として、収入を3%程度(月額9000円)引き上げるための措置(補助金交付)を来年2月(2022年2月)から9月まで実施することが決定されました。
来年(2022年)10月以降の対応については「介護報酬での対応も視野に入れて、予算編成過程で検討していく」こととなっています。
12月8日の介護給付費分科会では、厚生労働省老健局老人保健課の古元重和課長から、「来年(2022年)2-9月の措置」について現時点の考え方などが詳細に報告されるとともに、10月以降の対応に向けた意見交換が行われています。
まず「来年(2022年)2-9月の措置」(補助金)について現時点の考え方を見てみましょう。
補助金は「対象介護事業所の介護職員(常勤換算)1人当たり月額平均を9000円引き上げる」に相当する額とされる見込みで、具体的には、対象サービスごとに「介護員数(常勤換算)に応じて必要な加算率」を設定し、各事業所の総報酬にその加算率を乗じた額が支給されます(各事業所が請求する介護報酬×サービス種類ごとの加算率)。全額(100%)を国(厚生労働省)が補助しますが、国→都道府県→事業所・施設—という流れで補助が行われます。
補助金が支給されるのは、すべての介護事業所・施設ではなく、次のような限定・縛りがかかる見込みです。
(1)【介護職員処遇改善加算I-III】のいずれかを取得している事業所(現行の【介護職員処遇改善加算】の対象サービス事業所で、実際に加算I・II・IIIを取得していなければならない)
(2)(介護予防)訪問看護、(介護予防)訪問リハビリテーション、(介護予防)福祉用具貸与、特定(介護予防)福祉用具販売、(介護予防)居宅療養管理指導、居宅介護支援、介護予防支援は対象外とする
上記のように計算され補助された財源を元に、主に「介護職員」の処遇改善を行うことになりますが、経済対策の考え方を踏まえ「他の職員の処遇改善にこの収入(補助金収入)を充てることができる」ような柔軟な運用が可能とされる見込みです。
「実際に介護職員の給与が引き上げられる」ことが補助要件となる見込みで、厚生労働省は「【介護職員処遇改善加算】における『賃金引き上げにかかる計画』『賃金引き上げの実績』に関する報告を求める」考えも示しています。
ただし、まだ検討中であり、詳細は今後詰められることになるため、上記の枠組みが変更される可能性もある点に留意が必要です。
12月8日に介護給付費分科会では、こうした枠組みに対して多くの「歓迎」の意見が示されましたが、【介護職員処遇改善加算I-III】の取得事業所・施設という縛りがかかっている点に対して「処遇改善加算IV・Vや処遇改善加算未取得事業所に対する処遇改善加算I-III取得促進に向けた支援を充実していくべき」(小林司委員:日本労働組合総連合会総合政策推進局生活福祉局局長、鎌田松代委員:認知症の人と家族の会理事)といった注文もついています。経済対策でも「賃上げ効果が継続される取り組みを行うことを前提」としており、「実際に一定の処遇改善実績のある、処遇改善加算I-III取得事業所に限定する」ことには合理性があると考えられます。なお、処遇改善加算I-IIIの取得促進事業が鋭意進められており、2019年度に加算IV取得は全体の0.3%、・加算V取得は同じく0.5%でしたが、今年(2021年)3月サービス分では、それぞれ0.2%・0.3%に減少している(つまり処遇加算I-III取得に移行している)状況が古元老人保健課長から紹介されています。
2022年10月以降の対応、事務負担・職種間バランス・負担増などに配慮を
また、介護給付費分科会委員からは「10月以降の処遇改善方策」の在り方に関する意見・要望も多数出されました。上述のとおり、補助(財源は2021年度補正予算)は来年(2022年)2月から9月が対象で、来年(2022年)10月以降の対応について古元老人保健課長は「介護報酬での対応も視野に、本年(2021年)末の2022年度予算案編成過程で検討していく」考えを示しています。まだ「介護報酬で対応する」とも「介護報酬でなく、補助金で対応する」とも決まっていない点に留意が必要です。
例えば、▼「9月までは補助金、10月以降は介護報酬」となれば現場(介護事業所・施設、都道府県ともに)の事務負担が過重になる。負担軽減策は同一の事務手続きとする工夫などを検討すべき(黒岩祐治委員:全国知事会社会保障常任委員会委員・神奈川県知事、東憲太郎委員:全国老人保健施設協会会長、田中志子委員:日本慢性期医療協会常任理事、小泉立志委員:全国老人福祉施設協議会副会長)▼介護報酬対応は、保険料の引き上げや利用者負担増にもつながる点に最大限留意すべきである(河本滋史委員:健康保険組合連合会常務理事、吉森俊和委員:全国健康保険協会理事)▼介護支援専門員(ケアマネジャー)なども賃金引き上げの工夫を検討してほしい(濵田和則委員:日本介護支援専門員協会副会長)▼看護職員についても賃金引き上げの工夫を検討してほしい(田母神裕美委員:日本看護協会常任理事)—などの意見が目立ちます。
大きく「事務負担軽減」「職種間アンバランス対策」「利用者負担増・保険料負担増対策」の3点が、今後の重要検討ポイントになると言えそうです。例えば、今年末(2021年12月)の2022年度予算案編成過程で「介護報酬で対応する」ことが決まった場合には、具体的な枠組みを改めて介護給付費分科会で検討していくことになるでしょう。
排尿予測支援機器、2022年4月から福祉用具販売の対象に追加
また、12月8日の介護給付費分科会では、新たに「排泄予測支援機器」を福祉用具販売の対象とする(つまり保険適用する)ことが了承されました。
機器を用いて、在宅要介護者の膀胱に「どれだけ尿がたまったか」を把握し、介護者に「排尿タイミング」を知らせるもので、来年(2022年)4月から保険適用される見込みです。この点、及川ゆりこ委員(日本介護福祉士会会長)は「心理的要因で尿意を催すこともある。機器の予測のみを持って判断しないよう、現場では留意が必要である」と指摘しています。高齢者に限らず、尿の貯留量が少なくとも、緊張するなどの精神状態によって尿意を催すことは多々あります。たとえば排尿に失敗した経験をもつ高齢者では、常に「もう失敗したくない」→「トイレに行きたくなってきたような気がする」→「トイレに行きたい」という緊張状態にあります。こうした高齢者に対して、介護者が「機器では尿がそれほどたまっていません。トイレに行く必要はないです」と要望を却下したのでは、高齢者が安心して生活を送ることが困難になってしまいます。及川委員は、こうした事例などを踏まえて「機器の予測結果だけでなく、様々な患者背景も踏まえることが重要である」と訴えています。非常に重要な視点で、機器の留意事項などにも明記していくことが期待されます。
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