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GemMed塾 2024年度版ぽんすけリリース

2020年度、コロナ禍でも市町村国保医療費で1.34倍、後期高齢者で1.52倍の地域格差、不適切入院がないかの確認を—厚労省

2023.1.4.(水)

2020年度の1人当たり医療費を見ると、市町村国保では最高の高知県と最低の新潟県との間に1.34倍の、後期高齢者医療では同じく最高の高知県と最低の新潟県との間に1.52倍の格差がある—。

地域差の原因を探ると、医療費の高い地域では「高い頻度で、長期間入院している」ことが分かります。不要な入院の是正、ベッド数の適正化などの対策が極めて重要である—。

厚生労働省は12月27日に2020年度の「医療費の地域差分析」を公表し、こういった状況を明らかにしました(厚労省のサイトはこちら)。

市町村国保、1人当たり医療費トップは高知県、最も低い新潟県の1.34倍

ついに今年度(2022年度)から、いわゆる団塊世代が75歳以上の後期高齢者となりはじめ、2025年度には全員が75歳以上となることから、今後、急速に医療費が増加していきます。その後、2040年度にかけて高齢者の増加ペースそのものは鈍化しますが、支え手となる現役世代人口が急速に減少していきます。「少なくなる一方の支え手」で「増加し続ける高齢者」を支えなければならないことから、公的医療保険制度の基盤は極めて脆くなっていきます。

こうした状況の中では、「医療費の伸びを我々国民の負担できる水準に抑える」(医療費適正化)ことが必要不可欠です。医療費適正化に向けては、「1人当たり医療費の地域格差を是正していく」ことが重要方策の1つとなりす(関連記事はこちら(骨太方針2021))。

このためには、まず「医療費の地域差がどの程度あり、その要因はどこにあるのか」を明らかにする必要があります。ただし、医療費は「地域の人口構成に大きな影響を受け」ます。高齢者が多い地域では必然的に医療費が高くなり、人口数で除した1人当たり医療費も高くなりますが、これを「遺憾である」と考えることはできません。述べるまでもありませんが「高齢化=悪」ではないからです。

そこで「1人当たり医療費の地域差」を分析するにあたっては、「地域ごとの年齢構成(高齢者割合など)の差」を補正・調整することが重要です(年齢構成を揃える形で補正する)。本稿では主に、補正・調整を行った「1人当たり年齢調整後医療費」を、市町村国保(74歳まで)と後期高齢者医療制度(75歳以上)に分けて見ていきます。

まず市町村国保の「1人当たり年齢調整後医療費」を見てみると、2020年度は全国平均で34万609円で、前年度に比べて1万1223円・3.2%減少しました。大幅減少の背景には、述べるまでもありませんが「新型コロナウイルス感染症」があります(関連記事はこちら)。

都道府県別に見ると、最高は高知県の39万4613円(全国平均の1.159倍)。次いで▼鹿児島県:39万2277円(同1.152倍)▼佐賀県:38万9586円(同1.144倍)—と続きます。

逆に最も低いのは新潟県の29万4445円(全国平均の0.864倍)で、▼茨城県:30万7694円(同0.903倍)▼千葉県:30万7813円(同0.904倍)―と続きます。

最高の高知県と最低の新潟都の間には10万168円・1.34倍の開きがあります。前年度(最高の福岡県と最低の新潟県との差、9万8644円・1.33倍)から地域差が僅かですが拡大していることが分かります。

市町村国保における都道府県別1人当たり医療費(年齢構成調整後)1(2020年度医療費の地域差分析1 221227)

市町村国保における都道府県別1人当たり医療費(年齢構成調整後)2(2020年度医療費の地域差分析2 221227)



医療費の地域差を、日本地図を色分けした医療費マップで見てみると、依然として「西日本で高く、東日本で低い」(西高東低)傾向が継続していることを確認できます。

市町村国保の医療費マップ(年齢構成調整後)(2020年度医療費の地域差分析3 221227)

入院医療費の地域差是正では、「不要かつ長期の入院」がないかの確認が最重要

こうした1人当たり医療費の「地域差」はなぜ生じるのでしょう。この原因を探るには、医療費を次の3要素に分解することが有用です。

(要素1)1日当たり医療費
いわば「単価」
→単価の高低の評価は容易ではありませんが、例えば「不必要な検査をしていないか」「後発医薬品の使用は進んでいるか」などを考えるヒントになります

(要素2)1件当たり日数
一連の治療について、入院ではどれだけの日数がかかり、外来では何回(=日数)医療機関にかかるのか
→例えば、同じ疾病、同じ重症度の患者間で入院日数が大きく異なれば、「退院支援がうまく機能しているのか」などを考えるヒントになります

(要素3)受診率
どれだけの頻度で医療機関にかかるのか
→例えば「頻回受診、重複受診がないか」などを考えるヒントになります



ここで市町村国保医療費の地域差において「入院」「入院外」「歯科」それぞれの影響度合いを見ると、「入院」の影響が大きいことが分かります。そこで入院医療を3要素に分解して、地域差にどの要素が影響しているのか(寄与度)を見てみましょう。

市町村国保における1人当たり医療費(年齢構成調整後)の診療種類別分析(2020年度医療費の地域差分析4 221227)



入院医療費の高い地域(佐賀県、鹿児島県、島根など)では、▼「受診率」と「1件当たり日数」が医療費を高める方向に寄与している▼「1日当たり医療費」は医療費を低くする方向に寄与している―傾向があることが分かります(前年度と同じ傾向)。一方、入院医療費の小さな地域(愛知県、茨城県、埼玉県など)では、「『受診率』が医療費を低くする方向に寄与している」ことが分かります(やはり前年度と同じ傾向)。

市町村国保における入院1人当たり医療費(年齢構成調整後)の3要素分析(2020年度医療費の地域差分析5 221227)



これを逆方向から見ると、次のような傾向が伺えます。

▽「1日当たり医療費」と「1件当たり日数」は、医療費の高い地域では「医療費を低くする」方向に、医療費の低い地域では「医療費を高める」方向に寄与している

▽「受診率」は、医療費の高い地域では「医療費を高める」方向に、医療費の低い地域では「医療費を低くする」方向に寄与している



これらを総合すると、▼1人当たり医療費の高い地域では、高い頻度で入院し、かつ濃度の薄い医療を長期間受けている▼1人当たり医療費の低い地域では、入院の頻度が低く、かつ高濃度の医療を短期間受けている―ことが推定されます。

つまり医療費の地域差を解消するためには、▼不適切な入院(例えば入院の必要性がない患者を入院させる社会的入院など)が生じていないか▼不適切な在院日数の延伸(例えば病床稼働率を維持するために、退院可能な患者を退院させないなど)が生じていないか—を十分に確認する必要があります。とくに1人当たり医療費の高い地域では、この点の確認・是正が極めて重要です。

さらに、こうした「頻度の高い、期間の長い入院」の背景には「病床数」が大きく関係している点にも留意が必要です(関連記事はこちら、医療費の地域差と病床数との間には、極めて大きな相関がある)。

後期高齢者、1人当たり医療費トップは高知県、最も低い新潟県の1.52倍

次に後期高齢者医療の「1人当たり年齢調整後医療費」を見てみると、2020年度は全国平均で90万574円で、前年度に比べて3万6757円・3.9%減少しました。

都道府県別に見ると、最高は高知県の111万3003円(全国平均の1.236倍)。次いで▼福岡県:108万3524円(同1.203倍)▼長崎県:105万2236円(同1.168倍)―と続いています。

逆に最も低いのは新潟県の73万2727円(全国平均の0.814倍)で、▼岩手県:73万4403円(同0.815倍)▼青森県:76万8371円(同0.853倍)―と続きます。

最高の高知県と最低の新潟県の間には38万276円・1.52倍の開きがあります。前年度(最高の高知県と最低の岩手県との差、39万754円・同じく1.52倍)から地域差は縮小していないようです。

後期高齢者における都道府県別1人当たり医療費(年齢構成調整後)1(2020年度医療費の地域差分析6 221227)

後期高齢者における都道府県別1人当たり医療費(年齢構成調整後)2(2020年度医療費の地域差分析7 221227)

後期高齢者の医療費マップ(年齢構成調整後)(2020年度医療費の地域差分析8 221227)



後期高齢者の入院医療費について、市町村国保医療費と同様に▼1日当たり医療費▼1件当たり日数▼受診率—の3要素に分解した寄与度を見てみると、入院医療と同様に▼「1日当たり医療費」と「1件当たり日数」は、医療費の高い地域では「医療費を低くする」方向に、医療費の低い地域では「医療費を高める」方向に寄与している▼「受診率」は、医療費の高い地域では「医療費を高める」方向に、医療費の低い地域では「医療費を低くする」方向に寄与している―ことが分かります。

後期高齢者における1人当たり医療費(年齢構成調整後)の診療種類別分析(2020年度医療費の地域差分析9 221227)

後期高齢者における入院1人当たり医療費(年齢構成調整後)の3要素分析(2020年度医療費の地域差分析10 221227)



やはり、1人当たり医療費の高い地域では、高い頻度で入院し、かつ濃度の薄い医療を長期間受けている、と推定され、「不適切な社会的入院」や「不適切な在院日数の延伸」がないかを見ていく必要があります。

冒頭に述べたように、高齢化がますます進行する中では、後期高齢者医療費の適正化(ここでは1人当たり医療費の地域差縮小)に努める必要性が極めて大きく、「病院の病床が介護施設代わりに使用されていないか」などを厳しい目で確認し、必要な是正を行っていくことが重要です。

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