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GemMed塾 新制度シミュレーションリリース

高齢者の保健・介護予防や新興感染法対策の「要」として期待が高まる自治体保健師は増員傾向―2021年度地域保健・健康増進

2023.4.5.(水)

地域保健事業に従事する自治体保健師は、新型コロナウイルス感染症対応も含めて大幅増員となり、地域格差も若干縮小している—。

市町村の実施する「がん検診」の受診率は、コロナ感染症も手伝って「低い水準」で推移しており、受診勧奨の強化に向けた取り組みの強化が必要である―。

こうした状況が、厚生労働省が3月30日に公表した2021年度の「地域保健・健康増進事業報告の概況」から明らかになりました(厚労省のサイトはこちら)。

地域保健事業に従事する自治体保健師、前年度から大幅増、地域格差も若干縮小

「地域保健・健康増進事業報告」は、保健所・市区町村ごとに保健政策がどのように展開されているのかの実態を調べるものです。

「2025年度には、人口の大きなボリュームゾーンを構成する『団塊の世代』がすべて75歳以上の後期高齢者」となり、医療・介護ニーズが今後、急速に増大していきます。その後2040年度にかけて、高齢者人口(人数)そのものは大きく変化しませんが、支え手となる現役世代人口が急速に減少していきます。このため、医療・介護保険制度の財政が厳しくなることはもちろん、「医療・介護の支え手となる人材の確保」が非常に難しくなるのです。

このため、「健康寿命の延伸」「寿命と健康寿命との格差縮小」も、これまで以上に重要な政策課題となり、そこでは保健所・市区町村の保健政策の役割もますます重要になっていくと考えられます(関連記事はこちら)。

また、医療・介護ニーズに増大に向けて、地域ごとに▼住まい▼医療▼介護▼予防▼生活支援―の各サービスを総合的・一体的に提供する「地域包括ケアシステム」の構築も重要な政策課題となります。その中では、健康維持や疾病・介護予防といった分野で大きな役割を果たす保健師への期待がますます高まってきていること、新型コロナウイルス感染症をはじめとする新興感染症対策の強化が強くもとめられていることなどからも、本報告の重要性を伺うことができます。

2021年度の事業報告を見ると、保健所・市区町村の地域保健事業に携わる保健師は2万7979名で、前年度に比べて681名の純増となったことが分かりました、内訳を見ると、▼都道府県保健所:3905名(前年度から175名増員)▼政令市・特別区:8737名(同507名増員)▼政令市・特別区以外の市町村:1万5337名(同1名増員)―となっています。コロナ感染症対策を進める中で「都道府県や政令市などでの保健師配置強化」が進んでいることが分かります。

2019年の健康保険法等改正では、健康寿命の延伸を目指し「高齢者の保健事業と介護予防事業を、市町村が一体的に行う」ことが可能となりました。保健事業・介護予防一体的実施の要として「自治体の保健師」(市町村保健師)に期待が集まっており、感染症対応以外でも、保健師の役割に期待が集まっていることは述べるまでもありません。

また都道府県別に人口10万人当たりの配置状況を見てみると、全国平均は22.2名で前年度に比べて「0.6人の増員」となりました。最多は島根県の47.9名(前年度に比べ1.1名増員)で、高知県44.0名(同3.8名増員)、和歌山県39.2名(同2.2名増員)、鳥取県38.1名(同1.3名増員)、長野県37.9名(同0.7名減員)がトップ5となっています。

逆にワースト5は、神奈川県の13.1名(前年度に比べ0.5名増員)、東京都13.2名(同0.5名増員)、大阪府15.6名(同1.0名増員)、埼玉県16.2名(同0.6名増員)、愛知県17.0名(同0.5名増員)などとなりました。大都市部では住民人口が多いため、どうしても「人口10万人当たり保健師数」は低くなってしまいます。

最多の島根県と最少の神奈川県との格差は「3.66倍」で、前年度に比べて0.05ポイント縮小しました。大都市行政機関の努力が伺え、また地域包括ケアシステムは「地域ごとの医療資源」(施設や設備、人員など)に応じて柔軟に構築するものですが、「人口10万人当たりで4倍近い保健師配置の格差はお大きすぎる」と指摘する識者もおられます。今後、大都市で高齢化が急速に進んでいく点も考慮し、「保健師確保」を強化していく必要がありそうです。

都道府県別の常勤保健師数配置状況1(2021年度地域保健・健康増進事業報告1 230330)

都道府県別の常勤保健師数配置状況2(2021年度地域保健・健康増進事業報告2 230330)



このほか、保健所・市区町村の地域保健事業に携わる常勤の医療専門職の配置状況を見てみると、▼医師:898名(前年度に比べて3名増員)▼歯科医師:121名(同増減なし)▼薬剤師:3204名(同41名減員)▼理学療法士:134名(同3名減員)▼作業療法士:93名(同1名減員)▼管理栄養士:4019名(同35名減員)▼助産師:272名(同41名増員)▼看護師:805名(同65名増員)▼准看護師:70名(同2名減員)―などとなっています。職種により増減があり、各自治体で「保健福祉計画を推進していくにあたり、どのような職種がどの程度必要なのか」を戦略的・計画的に練っていくことが求められます。

職種別の自治体配置職員数の状況1(2021年度地域保健・健康増進事業報告3 230330)

職種別の自治体配置職員数の状況2(2021年度地域保健・健康増進事業報告4 230330)

市町村による「がん検診」の受診率、コロナ感染症も手伝って「低い水準」で推移

市区町村が実施したがん検診の受診率を眺めてみると、次のような状況です。

▽胃がん:6.5%(前年度に比べて0.5ポイント低下)
▽肺がん:6.0%(同0.5ポイント上昇)
▽大腸がん:7.0%(同0.5ポイント上昇)
▽子宮頸がん:15.4%(同0.2ポイント上昇)
▽乳がん:15.4%(同0.2ポイント低下)

コロナ禍で受診率が「低下している」状況ですが、早期発見に向けた「受診率向上」策をしっかり練って実践していくことが重要です(関連記事はこちらこちらこちらこちら)。

がん種別の健診実施状況(2021年度地域保健・健康増進事業報告5 230330)



また市区町村別・がん種別に検診受診率の状況を見ると、▼胃がん▼肺がん▼大腸がん▼子宮がん―では、受診率目標である「50%以上」を達成できている市町村はごくわずかにすぎません(大腸がんでは1自治体のみ)。コロナ禍前も低い水準で推移しており、「受診率向上に向けた一層の工夫・努力」が強く求められます。

市区町村におけるがん検診受診率(2021年度地域保健・健康増進事業報告6 230330)



なお、2020年度に市区町村が実施したがん検診における要精密検査者のうち、「がんであった者」の「がん検診受診者」に対する割合は、▼胃がん:0.11%(前年度から0.01ポイント低下)▼肺がん:0.03%(同増減なし)▼大腸がん:0.16%(同0.01ポイント低下)▼子宮頸がん:0.03%(同0.01ポイント上昇)▼乳がん:0.31%(同0.01ポイント上昇)―という状況です。精度向上に向けた一層の取り組みに期待が集まります。

がんの精密検査の状況(2021年度地域保健・健康増進事業報告7 230330)



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