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30年ぶりに「看護師等確保」基本指針見直し、少子高齢化が進む中での看護職員確保策、専門性向上支援策などが鍵—看護師確保基本指針検討部会

2023.5.30.(火)

看護師等確保の基本指針が定められているが、30年間見直されていない。この30年間で少子高齢化が大きく進展し、公的介護保険の創設、新興感染症対応における看護職員の役割増大など、大きな変化が生じている—。

少子高齢化が進む中で「どのように看護職員を確保していくか」、新興感染症の蔓延や、医療・介護ニーズの多様化の中で「どのように専門性向上を図っていくか」、という視点で基本指針を見直していく—。

5月29日に医道審議会・保健師助産師看護師分科会の「看護師等確保基本指針検討部会」(以下、検討部会)が開かれ、こうした議論が始まりました。今秋(2023年秋)の告示「看護師等確保基本指針」改正に向けて議論が進められます。なお、現在は「看護『婦』等の確保を促進するための措置に関する基本的な指針」という名称ですが、「看護『師』等の確保を促進するための措置に関する基本的な指針」に名称も改められます。

5月29日に開催された「第1回 医道審議会 保健師助産師看護師分科会 看護師等確保基本指針検討部会」

新型コロナの経験を踏まえ、「新興感染症における看護職員の役割」も新たな重要視点

1992年に「看護師等の人材確保の促進に関する法律」が制定され、厚生労働大臣・文部科学大臣には「看護師等の確保を促進するための措置に関する基本的な指針」(以下、基本指針)を定めることが義務付けられました。

基本指針には、(1)看護師等の就業動向(2)看護師等の養成(3)病院等に勤務する看護師等の処遇改善(4)研修等による看護師等の資質向上(5)看護師等の就業促進(6)その他看護師等の確保促進—に関する事項が定められ、この指針に沿って看護師等の育成・定着促進策が進められてきています。

看護師等確保基本指針(看護師等確保基本指針検討部会1 230529)



法・基本指針制定前の1990年には就業する看護師等(看護師・保健師・助産師・准看護師、以下同)は84万人でしたが、法・基本指針に沿って育成等が進められた結果、2020年には2.1倍の173万4000人に増加するなど、大きな成果をあげていますが、この30年間改訂がなされていません。しかし、この30年の間に、例えば「少子高齢化の進展」「介護保険制度の創設」「働き方改革」「地域医療構想の策定」「診療報酬の大幅見直し」「新興感染症(新型コロナウイルス感染症など)の蔓延」などさまざまな動きがありました。

看護職員数の推移(看護師等確保基本指針検討部会2 230529)



厚生労働省の榎本健太郎医政局長は、こうした動きにも的確に対応できるように「基本指針を改訂する」ことを決定し、部会が立ちあげられました。

5月29日の会合では、例えば次のような「見直し方向」案が提示され、これに基づく議論が行われています。

(1)看護師等の就業動向
▽2025年の看護師等の需要推計は180万2000人、2040年に向けて需要数はさらに増し、2020年の就業看護師等数(173万4000人)よりも増大が必要である
▽2022年度の看護師等の有効求人倍率は2.20倍(全体の1.19倍よりも高い)で、看護師等は不足傾向にあり、2040年に向けて生産年齢人口が急減していく中で「看護師等の確保の推進」が必要である
▽看護師等の需給は地域別・領域別に差異があり、それぞれの課題に応じた確保対策が重要
「2040年頃を視野に入れた新たな地域医療構想」を踏まえ、地域別・領域別も含めた「新たな看護師等の需給推計」が重要である



(2)看護師等の養成
▽「新卒就業者や社会人の確保」に向けて、▼就学者の確保対策▼地域医療介護総合確保基金による「看護師等養成所の整備・運営」支援▼専門職としての看護の魅力を積極的に伝えるための国、地方公共団体等による啓発活動▼各教育機関・看護師自身・職能団体等による効果的な啓発▼看護関係資格の取得を目指す社会人経験者の教育訓練の受講支援—が必要である
▽「資質の高い看護師等の養成」に向けて、▼随時の必要に応じた養成カリキュラムの見直し▼学校・養成所、臨床現場関係者の相互の交流・連携を深めるための仕組み構築▼都道府県における実習指導者講習会の効果的な実施▼看護系大学の充実、看護系大学院における教育の質的な充実—に努めることが必要である



(3)病院等に勤務する看護師等の処遇改善
▽「夜勤等の業務負担の軽減、業務の効率化」に向けて、▼3交代制の場合の「複数を主とした月8回以内の夜勤体制」構築▼実労働時間に応じた勤務間インターバルなどの設定▼病院等のICT化推進—を地域医療介護総合確保基金や診療報酬による支援を活用することが重要である

看護職員の夜勤の状況(看護師等確保基本指針検討部会4 230529)



▽「給与水準等」について、▼業務内容、業務状況等を考慮した給与水準の設定▼看護職員処遇改善評価料の活用した処遇改善推進▼「医療職俸給表(三)」改正内容を踏まえた処遇改善—を進めることが重要である

医療職俸給表(三)見直し内容(看護師等確保基本指針検討部会5 230529)



▽「看護業務の効率化・生産性向上」に向け、▼タスク・シフト/シェアの推進▼AI・ICT等の技術活用—を通じた「最適な就業環境」の醸成と、先進好事例の横展開が重要である

▽「勤務環境の改善」に向け、▼ライフステージに対応した働き方を可能にする環境整備▼院内保育所の設置・運営支援など「仕事と育児の両立支援」の環境整備▼育児休業、介護休業、残業免除、短時間勤務等の措置を適切な実施▼医療勤務環境改善支援センターや地域医療介護総合確保基金も活用した看護師等の勤務環境改善▼積極的なストレスチェック制度の実施▼看護師等の柔軟な働き方に対応できる環境整備—などを進めることが重要である

▽「職場におけるハラスメント対策」として、▼病院等における相談受け付け体制▼国・自治体による対策—の実施が必要である

▽「チーム医療の推進、タスク・シフト/シェア」に向けて、▼看護師等が、他の医療従事者と連携を図る体制の整備▼特定行為研修の受講促進▼看護師等と看護補助者の協働推進—が非常に重要である



(4)研修等による看護師等の資質向上
▽「生涯にわたる研修等による資質の向上」を目指し、▼生涯にわたって継続的に看護師等が自己研鑽を積めるような研修システムの構築や有給研修制度の積極的導入▼知識・技術・経験を有する看護師等と現場を的確にマッチングするための標準的なポートフォリオ作成と利活用推進▼病院等における「看護師等のキャリア形成」支援—などを進めることが必要である

▽▼新人看護職員研修の推進▼新規就業以降の看護師等の資質の向上▼看護管理者の資質向上—をそれぞれ推進していくことが重要である

▽「特定行為研修の推進」に向けて、▼研修修了者の養成を積極的に進めていく▼指定研修機関の設置準備・運営の支援▼地域医療介護総合確保基金の活用等を通じた研修受講支援▼医療計画において、2次医療圏ごとの「特定行為研修修了者その他の専門性の高い看護師の就業者数の目標」設定と、具体的な取り組みの推進▼病院等において、特定行為研修を通じて得られた知識・技能を業務の中で積極的に活用していく環境整備▼訪問看護ステーション等の在宅医療領域の看護師に対する研修受講機会の積極的な提供—に努めることが望まれる



(5)看護師等の就業促進
▽地域の課題に応じて「新規養成・復職支援・定着促進を3本柱にした取り組み」を推進することが重要(潜在看護師等に対する復職支援の充実、就業している看護師等のスキルアップ推進、地域・領域ごとの課題に応じた看護師等の確保対策、都道府県ナースセンター・中央ナースセンターにおける看護師等の就業促進に向けた取り組みの強化)

▽「職業紹介事業、就業に関する相談等の充実」に向けて、▼都道府県ナースセンターにおける職業紹介・就業相談対応等の充実▼マイナンバー制度も活用した就業等支援▼一定の基準を満たした優良な「有料職業紹介事業者」に認定推進▼病院等における業務負担軽減・勤務環境改善—を進めていくことが重要である

マイナンバーを活用した人材活用システム案(看護師等確保基本指針検討部会6 230529)



▽「訪問看護における看護師等の確保」に向けて、▼医療計画への「訪問看護に従事する看護師等確保」方策の記載・実施▼都道府県ナースセンターにおける「訪問看護に係る職業紹介」の推進▼都道府県ナースセンターや都道府県の職能団体による「訪問看護ステーション、看護小規模多機能事業所等の管理者に対する研修・相談」実施▼訪問看護ステーションの経営規模の拡大—などを進めることが望まれる

▽「高年齢者である看護師等の就業推進」に向けて、▼病院等での「65歳までの高年齢者雇用確保措置」の実施▼都道府県ナースセンターにおける「高年齢看護師等向けの求人開拓、就業情報提供」推進—などが重要である



(6)その他看護師等の確保促進
▽国民による「看護」の重要性の理解向上
▽調査研究の推進(科学的根拠に基づく看護実践、AI・ICT活用などの技術水準向上への取り組み、看護ケアの評価、在宅における看護技術等看護全般にわたる研究、看護補助者による業務実施に向けた研修プログラム開発など)
▽医療提供体制に係る見直しの状況等を踏まえた「必要に応じた指針の見直し」



さらに、今般のコロナ感染症対応を踏まえ、基本指針の中に、新たに▼専門性の高い看護師の養成・確保▼新興感染症や災害に的確に対応できる看護師等の応援派遣—についても盛り込む方針案が厚労省から示されています。

中小病院経営層と、看護部・看護職員等との間に、専門性向上に関する温度差も

検討部会では、こうした基本指針改訂案に賛同する意見が多数出されました。例えば、福井トシ子委員(日本看護協会会長)は「基本指針が30年を経て改訂されることは感慨深い。2040年に向けて看護ニーズが増大・多様化する一方で人材確保は難しくなる。本格的に逼迫する前に、早急に看護師等確保を進めることが重要である。また『専門性の向上』が極めて重要であり、養成課程のさらなる充実、スキルアップ支援のさらなる充実が強く求められる」旨を強調。また、鎌倉やよい委員(日本看護系大学協議会代表理事)は「4年生教育の更なる推進」を、水方智子委員(日本看護学校協議会会長)は「年限に拘泥せず、教育内容のさらなる充実」を要請しています。さらに、小野太一委員(政策研究大学院大学教授)は「看護師のキャリアをより見える化し、それを若手看護職員に示していくことが離職防止に向けて非常に重要である」と訴えています。

少子化に伴って「看護職員の確保」が難しくなっていくことは確実であり、「知識・技術をさらに引き上げ、より少ない人数で多くの看護ニーズに対応できる体制」を構築・強化してことは必須の課題と言えるでしょう。そのために多くの委員が「専門性の向上」や「スキルアップ」の必要性を強く訴えていると言えます。

ただし、「高齢化が進む中では『おむつ交換』などをする看護職員の養成が重要である」(菅間博委員:日本医療法人協会副会長)、「現場では准看護師のニーズも依然として高く、その点も考慮すべきである。資質向上も重要だが『量』の確保が優先する」(岡本呉賦委員:日本精神科病院協会常務理事)といった、少し異なる見方をする委員もおられる点にも留意が必要かもしれません。病院(とりわけ中小病院)の経営層と、看護部・看護スタッフとの間には若干の温度差があるようです。



また、より細かな論点として、「産後鬱など、母子保健にしっかりと対応できる看護職員の要請強化」(高田昌代委員:神戸市看護大学教授)、「新人看護職員のレベルは千差万別である。現在は、看護師資格取得後の専門資格(専門看護師、認定看護師、特定行為研修など)で層別化する形だが、国家試験厳格化を検討すべきではないか」(大田泰正委員:全日本病院協会常任理事)、「大学病院の看護職員と、地方病院の看護職員との間での人事交流なども進め、全体としてのレベル底上げを目指すべき」(井川順子委員:京都大学附属病院病院長補佐・看護部長)、「看護職員のレベル向上には、看護管理者が大きく関与している、認定看護管理者の資格取得(いわゆるサードレベル研修)を促進すべき」(樋口幸子委員:済生会看護室室長、稲井芳枝委員:徳島県看護協会会長(徳島県ナースセンター))、「訪問看護の現場は『体力勝負』な部分も少なくない。訪問看護に特化した資質向上・人材確保・ステーションの大規模化なども重視すべき」(沼崎美津子委員:南東北福島訪問看護ステーション結統括所長)—など多様な意見・提案が出されています。

いずれも、極めて重要な視点・提案ですが、委員間で若干トーンが異なる部分もあります。このため釜萢敏委員(日本医師会常任理事)は「看護職員の業務量が増える中で、人材確保はますます厳しくなっていく。そうした点について委員間で共通認識を持ち、項目を絞って基本指針見直し案を固めていく必要がある」と指摘しています。

また、指針が30年間見直されてこなかった点を踏まえて「定期的に、必要に応じて見直しを行う」旨の規定を盛り込むべきとの指摘も、福井委員や小野委員から出されています。例えば「医療計画の見直し」「診療報酬・介護報酬の同時改定」などに合わせて、「6年ごとに基本指針を見直す」といった規定を盛り込むことなどが考えられます。もっとも「6年待たなければ基本指針を見直さないのか?必要に応じて、随時の見直しを行うべきではないか」という指摘や、「無理に6年ごとの見直しを義務付けず、必要に応じて見直すこととすれば十分ではないか」と考える識者もおられ、「定期の見直し」規定の在り方を今後詰めていくことになります。



他方、「将来に向けて、日本全国で、各地域で、どの程度の看護職員数が必要となるのか」という試算も、最新データに基づいて行うべきとの指摘が福井委員や中俣和幸委員(鹿児島県医療審議監(兼)くらし保健福祉部次長(全国衛生部長会))らから出されています。「何人必要なのか」が明らかでなければ、「何人養成すればよいのか」を考えることはできないためです。

この点について厚労省は「2040年に向けたポスト地域医療構想の議論が始まる。ポスト地域医療構想を踏まえた、将来の医療提供体制を睨み、その中で看護職員がどの程度必要となるのかを試算していく」考えを明らかにしました。ポスト地域医療構想は2023・24年度に議論されることになっており、その後に新たな「看護職員の需給推計」が行われることになります。

この新需給推計を踏まえて、さらなる基本指針の見直し・改訂論議が進む可能性もあります。

将来の看護職員必要数(看護師等確保基本指針検討部会3 230529)



厚労省では、「基本指針を今秋(2023年秋)に改訂する」ことを目指し、検討部会のスケジュールを立てていきます。



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