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規制改革実施計画を閣議決定、特定行為研修を修了した看護師などの活躍、医療介護データ利活用の法整備などを提言

2023.6.20.(火)

岸田文雄内閣が6月16日に「規制改革実施計画」を閣議決定しました(内閣府のサイトはこちら(全文)こちら(概要))。

医療・介護分野についてポイントを絞って眺めてみます。

規制改革実施計画の概要

医療・介護などのデータを利活用し、サービスの質向上につなげるための「法整備」を

医療・介護分野については、次の13項目が固められました。
(1)データの利活用基盤の整備
(2)デジタル技術を活用した健康管理、重症化防止
(3)医療関係職種間のタスク・シフト/シェア等
(4)働き方の変化への対応・運営の合理化
(5)オンライン診療を活用した小児かかりつけ医の検討
(6)救急救命処置の範囲の拡大
(7)救急救命処置の先行的な実証
(8)妊産婦の産後の血糖管理に係る保険診療上の取扱いの明確化
(9)情報銀行における健康・医療分野の要配慮個人情報の取扱い
(10)外国人の医療アクセスの改善
(11)障害者総合支援法に基づく特例介護給付費等の支給方法の明確化
(12)障害者支援のための規制改革の推進
(13)ユニット型指定介護老人福祉施設整備基準に関する特例



このうち(1)では、(a)医療等データの利活用法制等の整備(b)NDB利活用の容易化等(c)公的統計の調査票情報の円滑な二次的利用の確保—の3項目が掲げられました。

(a)は、「医療・ケア」「医学研究」「創薬・医療機器開発」などへの医療・介護・死亡その他データの円滑な利活用を通じて、国民の健康増進、より質の高い医療・ケア、医療の技術革新(医学研究、医薬品開発等)、医療資源の最適配分、社会保障制度の持続性確保(医療費の適正化等)、次の感染症危機への対応力強化などを可能とするための特別法制定を本年度(2023年度)以降に速やかに制定することを厚生労働省などに要請するものです。その際には、▼適切な治療・ケア等が確保される患者の利益を含めた観点から、「明示の同意を必要」とする範囲をどこまとするか▼「明示の同意を必ずしも求めない」とする場合にも、「明示の同意以外の措置」を利用した医療等データに関する個人の権利利益の保護水準の担保する必要がある▼当該患者等が希望する場合に適切な医療等提供の目的に照らした「共有停止の請求」を可能とする▼「共有の停止」を行う範囲をどこまでとするか—などが重要論点になるとの考えを示しています(関連記事はこちらこちら

ほかにも、法整備にあたって「患者本人の同意がなくとも、匿名化されたデータなどについては2次利用可能として、創薬力強化などにつなげる」(ただし、自らのデータ利活用を拒否できる仕組みを組み込むことも重要論点となる)、「医療等データの利活用に当たって、本人の権利利益を適切に保護する独立した監督機関を設ける」ことも重要な視点となります。



また(b)のNDB利活用推進に向けては、▼NDBデータの項目・構造等の理解を助け、NDBデータを効率的に解析し得るよう、本年(2023年)上期に「サンプルデータ」を公開する▼データ利活用の審査を簡略化する(本年(2023年)秋に措置)▼データ申請から提供までの時間を原則7日間(現在は平均390日)にまで短縮する(本年(2023年)秋に措置)▼NDBデータについて、特定の商品等の広告・宣伝を除く医薬品・医療機器の創出・改善に資する調査、研究・開発に利用可能であることを明確化する(本年(2023年)秋に措置)—などの考えを明確しています(関連記事はこちら

都市部でも「オンライン診療のための医師が常駐しない診療所」認めるべきか

一方、(2)のデジタル技術を活用した健康管理、重症化防止に関しては(a)通所介護事業所や公民館等の身近な場所におけるオンライン診療の受診円滑化(b)要指導医薬品についてのオンライン服薬指導実現(c)プログラム医療機器(SaMD)等の開発・市場投入の促進(d)科学的介護の推進とアウトカムベースの報酬評価の拡充(e)各種レセプト関連業務のDX化に伴う見直し—などが掲げられました。

まず(a)では、へき地等で認められた「オンライン診療のための医師が常駐しないクリニック設置」特例について、「都市部を含めた地域でも認める」ことを本年(2023年)中に検討するよう求めています(関連記事はこちらこちら)。へき地などでは、ICT機器操作に不慣れな高齢者などが「オンライン診療のための医師が常駐しないクリニック」に赴き、公民館などのスタッフの助力を得ながらオンライン診療を受ける環境が整えられました。しかし、都市部でこうしたニーズがあるのか、医療機関を直接受診したほうがはるかに手軽で効果的な医療を受けられるのではないか、との指摘もあり、今後の検討に注目が集まります。

また(c)はアプリケーションや人工知能(AI)を活用した「疾病の診断・治療」を目的とするプログラム医療機器の開発促進を狙うものです。▼「有効性の推定」をもって第1段階承認を行う(これによりプログラム医療機器が広く臨床現場で使用され、データ収集をしやすくする)▼「実臨床での有効性評価」をもって第2段階承認(本承認)を行う—という2段階承認の仕組みが整備されつつあるほか、保険適用・評価のルールについて「プログラム医療機器等専門ワーキンググループ」で検討が進んでいます(関連記事はこちら)。規制改革実施計画では、PMDA(医薬品医療機器総合機構)の相談・審査体制強化、適切な広告規制の在り方、プログラム医療機器の推進を見据えた「オンライン診療の適切な実施に関する指針」の見直しなども検討するよう求めています。

このほか(e)のレセプト関連では、「迅速な高額療養費算定」「医療機関・保険者等が被災した場合に適切に審査を行えるようなレセプトの一元管理」「審査におけるAIの活用推進」「オンライン請求の100%導入」などを提言しました。

特定行為研修を修了した看護師の活躍に期待、特定行為の範囲拡大など検討を

また(3)では、▼医療アクセス困難地域への在宅医療提供体制確保に向けて、在宅療養支援診療所などの往診における「診療所から半径16kmを超える往診が当該診療所からの必要である絶対的な理由」についての整理・周知を行う(本年度(2023年度)上期に結論を得る)▼看護師が「医師の包括的指示を受けて行える業務」の明確化・例示を行う(本年度(2023年度)に措置)▼看護師による虚弱高齢者に対する生活評価(入浴等)、認知機能評価、生活習慣病患者に対する指導等の実施可能範囲の明確化を行う(本年度(2023年度)に措置)▼特定行為研修における教育課程の見直し(一部過程について、既存履修科目のプロセス・アウトカム評価で代替可能とするなど、本年度(2023年度)に検討を開始し遅くとも来年度(2024年度)に結論を得る)▼特定行為の実施に必要な手順書の周知・広報を図るとともに標準例を提示する(年度(2023年度)に検討を開始し遅くとも来年度(2024年度)に結論を得る)▼特定行為の範囲を拡大する(来年度(2024年度)に検討をはじめ、再来年度(2025年度)に結論を得る)▼医師、看護師が実際に果たしている役割や課題を2024年度・25年度に調査し、更なる医師、看護師間でのタスクシェア推進措置を検討する—などの考えを示しました。いわゆるD to P with Nの推進についても言及しています(関連記事はこちら)。



関連して(4)の働き方改革に関しては、まず介護サービスの人員配置基準について▼「同一の管理者が複数の介護サービス事業所を管理し得る範囲の見直し」(拡大)を検討する(本年度(2023年度)に結論を得る)▼地方独自ルール(自治体ルール)の有無・内容を整理・公表する(本年度(2023年度)措置)—ことなどを求めました。介護人材確保が困難な中で、2024年度介護報酬改定でも「人員配置基準の見直し」が重要論点となるでしょう(関連記事はこちら)。

併せて、▼診療報酬・介護報酬改定に当たり、常勤・専任の有資格者の配置要件等について、「質が担保された医療・介護提供」を前提に、医療従事者・介護従事者の柔軟な働き方の支援の観点から必要な検討を行う(本年度(2023年度)措置)▼医療・介護等の職業紹介について「適正化」(過度のお祝い金廃止、2年間の転職勧奨禁止など)を図るための集中的監査を実施する(本年度(2023年度)措置)—などを行うことも要請しました。医療・介護分野の人材不足に乗じて「いわゆる医師・看護師紹介会社が不適切な業務を行っている」との指摘されており、徹底した適正化が図られます。

診療報酬・介護報酬に対し、極めて具体的な見直し指示がなされているが・・・

また(5)では、2024年度診療報酬改定の中で、「小児かかりつけ医について、時間外におけるオンライン診療による地域外の医師とも連携した対応を行う場合の【時間外対応加算】の在り方を検討する」との指示が出されました。具体的な加算項目を掲げる指示について「『小児への医療提供確保』を検討せよとの方向を示せば済む話である。具体的すぎる方針は、中央社会保険医療協議会軽視にあたる。また『ある加算を見直せば、関連する別の加算の見直しも必要となる』という具合に、診療報酬項目には連動する部分も少なくない。そうした点を考慮した議論を行うのが中医協であり、思い付きで具体的な指示を行うことは非常に危険である」と非難する識者もおられます。



さらに、(6)では「救急救命士が実施する救急救命処置の範囲見直し(拡大)」を、(7)では「救急救命処置の範囲拡大に向けた実証事業(全国で試験的に拡大を行い問題の有無を検証する)」について速やかに行うことを求めています。これまでに「心肺停止に対するアドレナリンの投与等の包括指示化」などについて実証事業を行う方針が固められており、今後の動きに要注目です(関連記事はこちら)。



また(8)では、本年度(2023年度)早期に▼妊娠糖尿病患者の産後の血糖管理について【在宅妊娠糖尿病患者指導管理料2】が算定可能であることを周知する▼妊娠糖尿病患者の産後12週以降に実施する検査について、医学的見地からの情報収集・検討を踏まえて「診療報酬算定の可否に係る解釈の明確化」を行う(通知発出)—ことを要請しました。こちらも「やや具体的すぎる指示」と言えるかもしれません。



さらに(13)では、本年度(2023年度)中に、ユニット型指定介護老人福祉施設において「介護ロボットを導入し実証実験を行う場合に、共同生活室に関し、隣接する2つのユニットの入居者が交流し、共同で日常生活を営むための場所としてふさわしい形状を有するものとして、条例で定めてもよい」とする特例を踏まえた全国展開について、国家戦略特区自治体による実証を更に重ね、所要の措置を講ずる方針が示されました。こちらも「介護報酬改定を議論する社会保障審議会・介護給付費分科会を軽視している」との強い批判があります。



一部には「中医協や介護給付費分科会の議論を待ってはいられない。規制改革という形で、首相官邸から強い圧力をかけることで、制度(診療報酬・介護報酬等)をやっと動かせる」と考える向きもあり、頷ける部分も確かにあります。

しかし、上述のように、診療報酬・介護報酬等のいずれにおいても、「1つの項目が単体で存在している」わけではなく、他の項目と密接に関連しています。したがって「ある加算を見直す場合には、他の加算も連動して見直す必要がある」ケースも少なくないのです。さらに、診療報酬・介護報酬をはじめとする制度・規制には、それぞれ意味・目的があり、その意味・目的を達成するために、詳細な要件や基準が定められているのです。その意味・目的を十分に踏まえずに「この加算は使いにくいので、●●の見直しをせよ」と求めたのでは、これまで長期間かけて専門家・関係者が積み上げてきた診療報酬・介護報酬をはじめとする制度・規制を崩壊させることにつながります。このため「『◆◆という弊害があるようだ。これを解消するような診療報酬・介護報酬上の措置を検討せよ』との指示にとどめることが規制改革サイドの本来の姿である」と厳しく指摘する識者もおられる点に留意が必要です。

なお、上述の規制改革実施計画は「政府の方針」として閣議決定されており、その内容に沿って中医協や介護給付費分科会等で対応を検討することになります。これが、報酬全体に悪影響を及ぼさないことを願うばかりです。



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