療養の場が入院から在宅にシフトし、入院患者数がピークを越えた可能性は?入院医療体制の在り方再考の必要性は?—日病・相澤会長
2023.7.26.(水)
新型コロナウイルス感染症が5類感染症に移行した後にも、病院の入院患者数は非常に低い水準で推移しており、病床利用率も著しく低いままである—。
入院患者の流れ、例えば「どういった疾病、どういった年齢の患者が減少しているのか」「入院から在宅医療に療養の場がシフトしてきているのか」などを詳しく調べ、その状況を見て医療提供体制の在り方を考え直していかなければならない—。
日本病院会の相澤孝夫会長は、7月25日の定例記者会見でこのような考えを明らかにしました。
在宅医療・入院医療をセットで「医療提供体制の在り方」考える必要がある
入院医療に関する厚生労働省の試算によれば、▼全国での入院患者数は2040年にピークを迎える▼2次医療圏によって入院患者数が最大となる年は様々だが、2020年までに89医療圏で、2035年までに260医療圏で入院患者数がピークを迎える—とされています。
一方、厚労省が毎月公表している病院報告を見ても、入院患者数はコロナ禍前の2019年水準には遠く及ばず(10ポイント近く下がったままである)、一般病床の利用率は60%台半ばで推移しています(関連記事はこちら)。
日本病院会幹部(会長、副会長、常任理事)の間では、こうした状況について「実際には、厚労省の予測よりもはるかに速い段階で入院患者数が減少を始めているのではないか」との危機感が共有され、「病院会として現実の状況を詳しく調査し、それを踏まえて医療提供体制の在り方を考え直す必要がある」との見解で一致したことが相澤会長から明らかにされました。
相澤会長は7月25日の会見で、調査の内容について「患者の流れを明らかにする必要がある。どういった疾病の入院患者が減っているのか、どういった年齢の入院患者が減っているのかを明確にしなければならない。また、訪問看護ステーション(とりわけ営利法人)が急増しており、入院医療から在宅療養へのシフトが進んでいる可能性もある。退院した患者がどこにいくのかなど、患者の流れを詳しく見ていく必要がある」との考えを明らかにしました。
さらに、今後、▼在宅療養患者が増加していく中で、どのサービス提供主体が対応していくのか▼在宅療養患者も「入院」が必要になった際、どのタイミングで入院し、どのタイミングで在宅に復帰し、どのように在宅療養を視点していくのか—など、国民が安心できる医療提供体制を総合的に考えてく必要性も強調しています。
相澤会長は「これまで、救急や高度急性期を中心に入院医療体制を考えてきたが、少し視点を変えて考える必要がある」とも付言しています。
ともすれば、「入院医療の在り方」「在宅医療の在り方」などを別個に考えがちですが、「外来・入院・在宅は当然、有機的につながっており、全体をセットで考えていく」ことが重要でしょう。
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