医療機関は「かかりつけ医機能を持つ医療機関」と「紹介受診重点医療機関」に二分できない、医療DXはまず基礎固めを—日病・相澤会長
2023.6.28.(水)
紹介受診重点医療機関に関するパンフレット・ポスターが厚生労働省から示されているが、「フリーアクセスを制限する」かのようにも読め不適切ではないか—。
医療DX推進の方向には大賛成であるが、現状ではマイナンバーカードと被保険者証の紐づけに多くの問題が生じるなど「基礎固め」ができていない。まずは基礎を固めることが重要で、医療現場が混乱・困惑しない形で進めるべきである—。
日本病院会の相澤孝夫会長は、6月27日の定例記者会見でこのような考えを述べました。
内科をかかりつけにする患者が転倒した場合でも、まず内科を受診しなければならないのか?
外来医療の機能分化・連携を進めるために「紹介受診重点医療機関」の仕組みが設けられました。地域において「まず、かかりつけ医機能を持つクリニックや中小病院を受診する」→「大病院受診が必要な場合には、クリニックや中小病院から紹介を受けて受診する」という流れの強化を目指すものです(関連記事はこちら)。
▼「紹介中心型になる」意向を持つ▼「医療資源を重点的に活用する外来」(手術前後の外来など)の割合が高い▼紹介率・逆紹介率が高い(紹介率40%以上かつ逆紹介率25%以上)—医療機関を、地域で「紹介受診重点医療機関」として明確化。このうち200床以上の病院について、原則として「紹介状を持たずに受診した患者から、特別負担(初診時7000円以上など)を徴収する義務を課す」ものです。
地域での関係者議論を経て、遅くとも今夏には「紹介受診重点医療機関」が明らかになる見込みでが、新たに紹介受診重点医療機関となる病院では、地域住民や患者に対して「紹介状を持たずに受診した場合には、特別負担(初診時7000円以上など)がかかります」という点をPRすることが求められます。さもなくば、特別負担の存在を知らずに来院する患者から「特別負担がかかることを先に教えてくれれば、時間とお金をかけてここ(当該紹介受診重点医療機関)まで来ず、別の病院にかかったのに」とクレームが入ることにもつながりかねません。
そこで厚生労働省は紹介受診重点医療機関の啓発ポスター・リーフレットを公表し、▼「傷病の症状がある」場合には、まず「かかりつけ医」を受診し、そこから「紹介状」を受けて「紹介受診重点医療機関」を受診すべきこと▼この制度により「医療機関の混雑緩和 や、スムーズな受診につながる」こと▼紹介状がなく来院した場合には「特別の料金」がかかる場合があること—などを説明しています。
ただし、この内容について相澤会長をはじめとする日本病院会幹部の間では、次のような問題点があると指摘しています。
▽医療機関を「かかりつけ医機能を持つ医療機関」と「紹介受診重点医療機関」に2分していく方向がみてとれる
▽患者の医療機関選択は、「かかりつけ医機能を持つ医療機関」のケースもあれば、「専門医療を提供する医療機関」であることもあり、そこを一律に固定すれば医療現場は混乱しかねない
▽例えば、気管支喘息ないで「A内科クリニック」をかかりつけにしている患者が転倒した場合には、「整形外科」にかかることは許されず、まずA内科クリニックを受診しなければならないと見える
相澤会長はじめ日病幹部では「そうした議論はしておらず、当然、方向・方針も固まっていない。にもかかわらずこうした点を、強引に国がポスタやリーフレットで明示するのは問題ではないか」との考えで一致、今後、厚労省に「問題あり」と訴えていく方針を固めました。
さらに日病幹部の間では、6月16日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2023」について、「医療DX推進に多くの分量が割かれており、この方向には賛成である」としたうえで、「ベースとなるマイナンバーカードについてすら、被保険者証(保険証)等との紐づけに問題点が多々あることが浮上しており、まだまだ基礎固めができていない。『工程通り』(2024年秋の被保険者証廃止)に進めるためには、相当の無理が必要な状況で、現場に過重な負担がかかることを危惧している。医療現場が混乱・困惑しない形で着実に進める必要がある」との点でも一致したことが相澤会長から紹介されています。「被保険者証廃止時期を延期せよ」との明言まではありませんが、そうした点も視野に入れた対応をとるべきとの考えが医療現場に広まっていることが伺えます。
なお、>日病では「病院経営を維持するために、入院基本料の根本的な見直し・大幅な引き上げが必要である」と考えています。この考えに賛同し、入院基本料の引き上げを求める「嘆願書」が、これまでに1874病院(日病会員1242件、非会員病院632件)集まっており、これらをもとに政府・与党への働きかけを続けていることも相澤会長から報告されています(関連記事はこちら)。
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