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GemMed塾 看護モニタリング

救急救命士の実施可能な医療行為拡大等に当たって、「院外実施」と「院内実施」で分けて考えるべきでは—救急医療職種ワーキング

2023.8.29.(火)

救急救命士の実施できる医療行為(特定行為)の拡大が、規制改革提実施計画等で提案されているが、どのように考えていくべきか—。

救急救命士の実施できる医療行為(特定行為)の拡大等に当たっては、「院外で実施する場合」と「院内で実施する場合」とで分けて考える必要があるのではないか—。

こういった議論が8月25日に開催された「救急医療の現場における医療関係職種の在り方に関する検討会ワーキンググループ」(以下、ワーキング)で始まりました。

救急救命士の実施できる医療行為(特定行為)の拡大を、規制改革提案など踏まえて議論

救急医療現場における「医師の負担軽減」が大きな課題になっています。また救命率の向上に向けた医療機関外(救急搬送前)の処置充実等も大きな課題です。

こうした状況を受け、本年(2023年)3月に「救急医療の現場における医療関係職種の在り方に関する検討会」で(1)救命救急センターの充実段階評価において「救急外来での看護師の配置に関する項目」を含め引き続き検討する(2)救急救命士法正の効果を調査・分析s、救急医療における救急救命士を含めた多職種連携のあり方を引き続き議論する(3)救急救命士処置へ追加する候補となっていた処置を、国家戦略特別区域における先行的な実証として実施することについて検討を深める—方針が固められました。

さらに、検討会では(3)に関連して「医師の指示の下に救急救命士が実施する救急救命処置を議論する場を設置し、安全性、必要性、難易度、必要となる教育体制等を検討する」ことを決め、これに基づいてワーキングが設置されたものです。

救急救命士の業務範囲拡大にあたっては、▼専門家の参画する検討会(救急救命処置検討委員会)での検討→▼専門研究班での安全性・有効性に関する研究→▼一部地域での実証研究→▼専門家による最終検討→▼全国展開—という慎重な手続きを経て行われてきています。この「救急救命処置検討委員会」の後を引き継ぐ形で、ワーキングにおいて「救急救命士の業務範囲拡大」を専門家の見地で議論していくことになります。当面は、次のような点を議論し、来年(2024年)3月までに意見をまとめることになりました。
(a)革新的事業連携型国家戦略特区要望において「超音波検査」を先行的に実証することをどう考えるか
(b)「アナフィラキシーに対するアドレナリンの筋肉内注射」についてどう考えるか
(c)2022年度までの検討で未了となっている事項をどう考えるか
(d)救急救命士法改正に伴い生じている課題をどう考えるか
(e)その他救急救命処置の追加・除外等に関する要望などをどう考えるか



このうち(a)は「重度傷病者のうち、主に腹痛、下腹部痛を訴えている傷病者、事故等により外傷が生じている負傷者、意識状態やバイタルサインが不安定な傷病者に対し、救急救命士が、救急車と病院との間で情報伝達を行う環境を構築した上で超音波(エコー)検査を実施することを革新的事業連携型国家戦略特区において認めてはどうか」という規制改革実施計画・特区要望をどう考えるかという議題です。

実施を要望する岡山県吉備中央町からは「早期の処置実施により救命・予後の改善に資する」と期待を寄せていますが、ワーキング構成員からは「超音波検査は医業、医療行為に含まれ、簡単に他職種実施を認めることはできない。議論する必要すらないと考える。仮に議論する場合には医事法制などの専門家を招聘する必要がある」(細川秀一構成員:日本医師会常任理事)、「ドクターヘリによる迅速搬送等を先に考えるべきではないか。議題として適切かどうかに疑問がある」(加納繁照構成員:日本医療法人協会会長)との否定的意見が出ています。今後「特区での実施を認めるべきか否か」というところから議論が深められます。

救急救命士によるエコー実施提案(救急医療の現場における医療関係職種の在り方に関する検討会ワーキング1 230825)



また(b)は、「傷病者が発症時に処方されたエピペンを持っていない、エピペンの処方をうけていない場合にも、アドレナリン投与(エピペンあるいはアドレナリン製剤)を認めてはどうか」という内容です(傷病者がすでに医師から処方されたエピペンを所持している場合には、救急救命士がそれを投与することが既に認められている)。

ワーキングの前身である救急救命処置検討委員会で「救急救命処置(特定行為)として『アナフィラキシーに対するアドレナリンの筋肉内投与』を追加することが望ましい」とされ、▼当該患者がアナフィラキシー状態か否か▼当該患者にアドレナリン製剤を投与すべきか—という点に関する救急救命士の判断能力をチェックする研究が行われます(先行研究では、2.5%で「アナフィラキシー状態でなく、アドレナリン製剤を投与すべきでない」患者にも「アドレナリン製剤を投与すべき」との判断ミスが生じた)。この研究結果も踏まえてワーキングで「実施を認めるか否か」を議論していくことになります。

救急救命士によるアナフィラキシーへのアドレナリン投与提案(救急医療の現場における医療関係職種の在り方に関する検討会ワーキング2 230825)

救急救命士の実施できる医療行為(特定行為)、「院内」と「院外」で分けて考えては

また8月25日のワーキングでは、救急救命士が実施可能な医療行為(特定行為)について「院外で実施する場合」と「院内で実施する場合」とで分けて議論すべきではないか、との意見が多数の構成員から出ています(上記(d)(e)などに強く関連する論点)。

救急救命士が実施可能な医療行為(特定行為)は、上述のような検討を経て順次拡大されてきていますが、救急救命士法改正で「院内でも特定行為を実施できる」ことになったため、こうした論点が浮上していると言えます。救急救命士が「無線等で指示を受けながら院外で医療処置を行う」場面と、「院内で医師等の指示の下で医療処置を行う」場面とでは、環境が大きく異なり、必要な教育内容にも違いが出てきます。

ワーキングでは「院外と院内とで特定行為実施や教育内容に大きな違いがあり、両者を混ぜて議論することは困難である」(植田広樹構成員:日本臨床救急医学会評議員)、「救命率向上のために特定行為の実施範囲は拡大が検討されると思うが、院内での特定行為範囲とは必ずしもリンクしないであろう。両者を分けて議論すべき」(佐々木隆広構成員:仙台市消防局救急課長)、「親検討会でも院内での特定行為と院外での特定行為を分けて議論すべきとの意見が支配的であった点に留意して、両者を混同しないように議論すべき。まずは改正救急救命士法の効果・影響をしっかり検証すべき」(井本寛子構成員:日本看護協会常任理事)、「同じ国家資格保持者であり、院外行為と院内行為でどこまで共通の議論ができ、どこから別個の議論にすべきかを整理すべき。片方の事情(院内行為)で片方(院外行為)の必要な拡大が阻害されてはいけない」(田邉晴山構成員:救急振興財団救急救命東京研修所教授)などの意見が出ています。

「院外で実施できる特定行為」と「院外で実施できる特定行為」について、現行法では差異はありません。今後、どのように峻別等を考えていくのかなどが注目されます。



また、将来的な検討テーマとして「院内で救急救命士が特定行為を実施可能な場面の拡大」も浮上していきます。本多英喜構成員(日本救急医学会評議員)や喜熨斗智也構成員(人民間救命士統括体制認定機構理事)は「改正救急救命士法では『搬送患者が入院されるまでの間も救急救命処置を実施する』ことを救急救命士に認めているが、限定してしまうと活躍できない。例えば入院患者が廊下で倒れ処置が必要な場合でも、現行法では救急救命士が処置を行うことは認められない。院内で特定行為を実施できる場面の拡大などを検討すべき」との課題を指摘しています。ただし、現行法(改正救急救命士法)では『搬送患者が入院されるまでの間も救急救命処置を実施する』(いわゆる「救急外来」での実施)のみが認められており、まずは現行法(改正救急救命士法)の効果を検証していくことになりそうです。



さらに、「病院間の転院搬送について、病院救急車(医療機関の保有する救急車)に救命士が同乗して安全を確保する」ことなどが考えられると本多構成員や喜熨斗構成員は提案しています。高齢化の進展に伴い救急搬送件数が増加しますが、その中には「軽症」患者が相当数含まれ「3次救急の負担を軽減するために、軽症患者等については3次救急から2次救急等への下り搬送を積極的に行う」ことが重視されています(関連記事はこちらこちら)。この下り搬送について、慣例として消防機関の救急車による搬送が多くを担っていますが、積極的な「病院救急車+救命士」活用により、救急現場の負担が軽減されると期待され、加納構成員も一定の理解を示しています。この点も将来の検討課題の1つになる可能性があります。



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