2021年度の「がん医療費」は医科医療費全体の12.1%、疾患別の「トップシェア」を占めている―健保連
2023.9.27.(水)
健康保険組合連合会の医療費を分析すると、「がん」がトップシェアを占めている(医科医療費の12.1%)—。
がん種別に特徴があり、例えば乳がんでは「患者数が多く、1日当たり医療費も高い」—。
健康保険組合連合会が9月26日に公表した2021年度の「新生物(悪性及び良性・その他の新生物)の動向に関する調査」から、こういった状況が明らかになりました(厚労省サイトはこちら)。こうした分析をさらに深め、例えば「がん医療費適正化のために、検診をさらに推進する」などの政策に結び付けていくことに期待が集まります。
目次
がん医療費、2021年度には医科全体の12.1%でトップシェアに
がんは我が国の死因第1位を独走しており、当然のことながら医療費に占める割合も高くなってきています。国は、我が国の「がん対策」の基本となる「がん対策推進基本計画」を定め(現在、第4期計画を推進中)、生活習慣の改善による予防や検診受診による早期発見・早期治療や、医療・生活支援の充実などを進めています。健保連では、がん対策を「医療費」という視点で眺めています。
今回の調査は、1308の健康保険組合(主に大企業の従業員とその家族が加入する公的医療保険)の加入者2719万1747人のレセプトデータ(2021年度、2億5758万8904件)をもとに、(1)胃がん(2)結腸がん(3)直腸がん(4)肝・肝内胆管がん(5)気管・肺がん(6)乳がん(7)子宮がん(8)悪性リンパ腫(9)白血病(10)その他のがん(11)良性・その他の新生物―の状況を調べています。
1308健保組合の2021年度医療費総額(医科+調剤)は3兆7577億円弱。また医科医療費は3兆5941億円強で、うち「新生物」が4334億円弱・12.1%と、最も大きなシェアを占めています。
画期的ながら極めて高額な抗がん剤の相次ぐ登場も強い追い風となり、がん医療費はますます増加していくと考えられます(関連記事はこちら)。
がん入院医療費、乳がんでは「受診者数が多く、1日当たり医療費も高い」などの特徴
2021年度がん医療費の内訳をみると、入院:1728億円強(医科入院医療費の19.9%)、入院外2605億円強(医科入院外医療費の9.6%)となっています。
まず前者のがん入院医療費について、がん種別(上述(1)-(11))のシェアを見ると、▼胃がん:医科入院医療費の0.8%▼結腸がん:同1.1%▼直腸がん:同0.9%▼肝・肝内胆管がん:同0.3%▼気管・肺がん:同1.6%▼乳がん:同1.8%▼子宮がん:同0.8%▼悪性リンパ腫:同1.0%▼白血病:同1.1%▼その他のがん:同6.1%▼良性新生物ほか:同4.4%—となりました。
Gem Medでも何度かお伝えしていますが、医療費を考えるに当たっては、3要素(受診率、1件当たり日数、1日当たり医療費)に分解することが有用です(逆に言えば、3要素を掛けたものが医療費となる)。ここでは「その他のがん」「良性新生物ほか」を除いた、9つのがん種について見てみましょう。
まず「受診率」(1000人当たりの件数)が高いがんは、「結腸がん」(2.0)、「乳がん」(1.3)、「気管・肺がん」(1.1)、「胃がん」(1.0)、「子宮がん」(1.0)などです。
また「1件当たり日数」が長いがんは、「白血病」(18.7日)、「悪性リンパ腫」(14.1日)、「胃がん」(10.2日)、「気管・肺がん」(10.2日)、「肝・肝内胆管がん」(10.1日)などです。
さらに「1日当たり医療費」が高いがんは、「乳がん」(6万64円)、「直腸がん」(5万2284円)、「白血病」(4万3312円)、「気管・肺がん」(4万3283円)などです。
例えば、乳がんでは、「受診率が高く(つまり罹患者が多い)、1日当たりの医療資源投入量が大きい」ことが医療費の高さの要因となっています。より詳しく「ステージ別の医療費等分析、医療内容(手術や化学療法、放射線療法など)分析」などを行う必要があります。例えば「早期ステージほど医療費が低い」ことなどが明らかになれば、「早期発見に向けた検診推進を行うことにより、医療費の適正化、患者のQOL向上を図ることが可能になる。より検診推進に財源を投入しよう」という政策決定が可能になってきます。
なお、上記のがん種別に1入院当たり医療費(推計)を見ると、「白血病」(203万6069円)が飛びぬけて高く、「悪性リンパ腫」(99万6479円)、「直腸がん」(68万5014円)、「気管・肺がん」(64万3461円)などと続きます。
乳がんの入院外医療費でも、「受診者数が多く、1日当たり医療費も高い」などの特徴
次に後者のがん入院外医療費について、がん種別(上述(1)-(11))のシェアを見ると、▼胃がん:医科入院外医療費の0.5%▼結腸がん:同0.5%▼直腸がん:同0.3%▼肝・肝内胆管がん:同0.2%▼気管・肺がん:同0.8%▼乳がん:同1.7%▼子宮がん:同0.2%▼悪性リンパ腫:同0.3%▼白血病:同0.6%▼その他のがん:同2.7%▼良性新生物ほか:同1.6%—となりました。化学療法の外来移行推進などの動きを見ると、さらに「がんの入院外医療費が増加していく」と考えられます。
「その他のがん」「良性新生物ほか」を除いた、9つのがん種について3要素(受診率、1件当たり日数、1日当たり医療費)に分解して見てみると、次のような状況です。
まず「受診率」(1000人当たりの件数)が高いがんは、「結腸がん」(40.7)、「乳がん」(34.9)、「胃がん」(32.7)、「子宮がん」(24.1)などです。
また「1件当たり日数」は、いずれも1.5-1.7日で大きな差はありません。
さらに「1日当たり医療費」が高いがんは、「白血病」(8万4234円)、「乳がん」(3万365円)、「気管・肺がん」(2万9618円)、「直腸がん」(2万5605円)などです。
入院と同様に、乳がんでは、「受診率が高く(つまり罹患者が多い)、1日当たりの医療資源投入量が大きい」ことが医療費の高さの要因となっています。より詳しく「ステージ別の医療費等分析、医療内容(手術や化学療法、放射線療法など)分析」などを行う必要があるでしょう。例えば「早期ステージほど医療費が低い」ことなどが明らかになれば、「早期発見に向けた検診推進を行うことにより、医療費の適正化、患者のQOL向上を図ることが可能になる。より検診推進に財源を投入しよう」という政策決定が可能になってきます。
さらに、年齢階級別に「がん種別の受診者数構成割合」を見ると、年齢階級が上がるにつれ、とりわけ「胃がん」「気管・肺がん」の受診者割合が高くなることも再確認されました。
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