疾患特性に応じた「予防・セルフメディケーション」推進を、かかりつけ医機能の診療報酬評価では「体制」と「診療実績」重視せよ―健保連
2023.9.8.(金)
「コロナ感染症を経て患者の受療動向がどう変化したのか」を分析すると、アレルギー性鼻炎や慢性気管支炎などの一部疾患では「患者が減ったまま増加しない」ことが分かった。疾患特性に応じた「予防・セルフメディケーション」を推進することで、医療費増加の抑制・国民負担の軽減を実現することができる—。
また「かかりつけ医機能」の発揮を推進するために、診療報酬上の評価にあたっては「体制」と「診療実績」を重視することが極めて重要である—。
ダイエット薬と称した糖尿病治療薬使用が散見されるが、安全性の面、医療費適正化の面からそうした使用は厳に慎み、適正使用を心がけるべきである—。
健康保険組合連合会は9月7日に「政策立案に資するレセプト分析に関する調査研究VI」を公表し、こういった提言を行いました(健保連のサイトはこちら)。
2024年度の次期診療報酬改定に向けて、健保連がレセプト分析結果に基づく提言
主に大企業のサラリーマンとその家族が加入する健康保険組合の連合組織である健保連では、レセプトを分析した結果を診療報酬改定に向けた提言として公表しています。
今回、2024年度の次期診療報酬改定に向けて、(1)コロナ禍の経験を踏まえた効率的な医療の推進(2)かかりつけ医を起点とする安全・安心で効率的・効果的な医療の推進(3)糖尿病治療薬の不適切な使用の是正—の3つの提言を行いました。
まず(1)では、疾患ごとに「コロナ感染症を経て患者の受療動向がどう変化したのか」を分析。その結果、多くの次の3パターンに疾患を分類できるとしています。
【パターンA】大きく減少し、あまり戻らなかったもの
▽第1波で行動自粛の影響を大きく受けたものの、その後徐々にコロナの影響が弱まったカンジダ症、詳細不明の慢性気管支炎、その他の原因による熱及び不明熱など(該当疾患分類:3/133、延べ患者数割合2.3%)
▽第1波で感染症対策が奏功し、その後も効果が持続した急性上気道感染症、インフルエンザ、アレルギー性鼻炎、気管支炎、喘息、中耳炎、摂取物質による皮膚炎など(該当疾患分類:24/133、延べ患者数割合28.5%)
【パターンB】大きく減少し、ある程度戻ったもの
▽第1波では受診を控えたがすぐに戻り、それ以降はコロナ影響を受けつつも概ねコロナ前の水準を回復したアトピー性皮膚炎、膝関節症、脊椎症、椎間板障害、眼瞼その他の炎症、涙器の障害、角膜炎、視覚障害など(該当疾患分類:71/133、延べ患者数割合55.8%)
▽第1波で受診を控え、すぐに一定程度は戻ったものの、コロナ前水準までには回復していない外耳炎、結膜炎、ウイルス性いぼ、屈折及び調節の障害、胃炎及び十二指腸炎など(該当疾患分類:9/133、延べ患者数割合27.7%)
【パターンC】大きく減少しなかった、または増加したもの
▽本態性高血圧、2型糖尿病、リポ蛋白代謝障害及びその他の脂血症等、統合失調症、うつ病エピソード、睡眠障害など(該当疾患分類26/133、延べ患者数割合29.1%)
このうち【パターンA】の疾患では、国民サイドの努力(感染予防、セルフメディケーションなど)により傷病罹患を相当程度防ぐことができ、これは医療費増加の抑制・国民負担の軽減に直結します。健保連では「個人による感染予防行動やセルフメディケーションは引き続き重要である」と提言、あわせて「精神科領域等の患者数動向を注視する」「生活習慣病などの場合は、かかりつけ医を活用して自らの状態に対応した治療を選択する」ことも提唱しています。
さらに、セルフメディケーションに関して「65歳未満の患者では、OTC医薬品(一般用医薬品)で対応が可能だったと考えられる医薬品の見込み額が919億円に上る」(つまり医療費適正化が可能である)と推計し、▼OTC医薬品の使用促進に必要となる環境を整備する▼OTC類似薬の「保険給付範囲からの除外」「保険給付率の見直し」について、想定される影響も踏まえた上で検討を進める—ことを提案しています。医療保険給付の重点化(医療機関等にかかるまでもないケース、一般用医薬品でも対応可能なケースは医療保険を使用せず、自費で対応する)を求める提案です。
また(2)の「かかりつけ医機能の発揮」に関しては、次のような診療報酬上の対応を行うよう提言しています。施設ごとに体制や診療実績が大きくバラつく中で「同じ診療報酬での評価」することは好ましくないと健保連が強く考えていくことが伺えます。
▽プライマリケアに関連する基本的な診療行為等を包括化し、体制や診療実績に応じて包括点数にメリハリを付ける
▽【機能強化加算】(かかりつけ医機能を持つクリニック・200床未満の中小病院において初診時に80点を加算するもの、2022年度の前回診療報酬改定で要件を一部厳格化)を存続させる場合には、体制・診療実績を適切に反映した評価に見直し、実態の検証が可能な指標を設ける
▽かかりつけ医に対する診療報酬に「アウトカム指標」(成果・結果を評価する)を活用する際には、診療実績等のプロセス指標を組み合わせた総合的な評価を検討するとともに、患者の「かかりつけ医、かかりつけ医療機関」選択に資するようアウトカム評価の「見える化」を行う
▽かかりつけ医に対する診療報酬において「医療費の予測値と実績値の差」を評価指標の1つとして検討する
「かかりつけ医機能の推進」に向け、改正医療法では「かかりつけ機能報告制度」(2024年度スタート)を創設するなどの対応を図っています(関連記事はこちらとこちら)。2024年度診療報酬改定でも、こうした動きを見ながら「かかりつけ医機能の推進」に向けた診療報酬上の対応を検討していくこととなり、上述の提案も検討素材の1つとなるでしょう(関連記事はこちら)
ところで、糖尿病治療薬を「簡単にやせられる薬」などと称して処方する不適切な診療が散見され、健康被害も発生していることが大きな問題となっており、国や学会が「適正使用」を強く要望しています(関連記事はこちらとこちら)。
こうした不適切な糖尿病治療薬の処方・交付は、医療費の不適切な増加にも直結するため、健保連も、(3)で次のように提案しています。
▽「糖尿病治療薬を糖尿病等の治療『以外』の目的で処方する」ことは、薬事承認および保険給付の対象外であることを改めて医療機関に周知徹底する
▽レセプトデータと健診データを突合させる等、「糖尿病治療薬の糖尿病治療目的外の使用」実態をより正確に把握できるような対策を行い、悪質と考えられる事例を迅速に捉える
▽安全性・医療資源の有効活用等の観点から「適応外の使用を控える」よう国民全体に改めて注意喚起する
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