回復期リハビリ病棟、第3者評価受審の推進、リハ・栄養・口腔の一体的推進、退院前訪問指導の積極実施など目指せ―入院・外来医療分科会(3)
2023.9.7.(木)
回復期リハビリ病棟では「適切なFIM測定」が重要課題の1つになっており、第3者評価の受審で、適正性が確保されることが分かった。第3者評価受審をどのように促していくべきか—。
回復期リハビリ病棟においては、「リハビリ・栄養・口腔の一体実施」「退院前訪問指導の充実」が重要なことは論を待たず、診療報酬でどのようにサポートしていくべきか—。
また、心身機能の充実を目指す回復期リハビリ病棟でも、相当程度「身体拘束」が行われている。軽減・解消に向けてどのような方策が考えられるか—。
9月6日に開催された診療報酬調査専門組織「入院・外来医療等の調査・評価分科会」(以下、入院・外来医療分科会)では、回復期入院医療に関してこうした議論が行われました(急性期入院医療に関する看護必要度や平均在院日数などの指標、リハビリ・栄養改善に関する記事はこちら、DPC制度改革に関する記事はこちら)。なお、同日には「療養病棟の医療区分精緻化」も議題となっており、別稿で報じます。
目次
回リハ病棟で第3者評価を受けることで、FIM測定などが適正化される
回復期リハビリテーション病棟については、(1)第3者評価の推進(2)より質の高いリハビリの実施(3)身体拘束の解消(4)地域貢献活動の推進—の4つの論点が示されました。
まず(1)の第3者評価について見てみましょう。2016年度の診療報酬改定で、回復期リハビリ病棟にアウトカム評価が導入されています。一部に「効果の上がらないリハビリを漫然と実施している」状況が認められたことを踏まえ、「入棟時の患者のADL状態」(FIMという指標で評価)と「退棟時の患者のADL状態」(同)を比較し、その差(つまりADL改善の度合い、FIM利得という)を指標として、回復期リハビリ病棟の「リハビリの効果」を把握するものです。改善度合いが一定以上でなければ、点数の高い入院料を算定できなくなります。
しかし、▼高い入院料を取得するには「ADL改善度合い」(FIM利得)を大きくしなければならない→▼退棟時のADL状態を向上させるには限界がある→▼入棟時のADL状態を低く見積もる―という不適切な行動をしている可能性が指摘され(関連記事はこちらとこちらとこちら)、2022年度の前回診療報酬改定で「アウトカム評価が導入されている回復期リハビリ病棟1・3において、第3者評価受審の努力義務を課す」こととされました。第3者評価の中では「適切なFIM測定なども評価対象となる」ことから、上述の不適切行動が抑制されると考えられるのです。
この点について厚労省は、次のようなデータを示し「第3者評価を受審している回復期リハビリ病棟では、適正なFIM測定が行われる状況を明らかにしています。
▽2017年以降、入棟時運動FIMは低下傾向であるが、第3者評価の認定を受けた病院では、そうでない病院と比べて入棟時のFIMが高い
▽第3者評価の認定を受けた病院では「FIMの適切な測定に関する取り組み」実施割合が高い
厚労省の調査によれば日本医療機能評価の医療機能評価と同等の第3者評価の認定・受診割合は回復期リハビリ病棟では33.6%となっていますが、上記の状況を踏まえれば「第3者評価のさらなる受診促進」に期待が集まり、例えば「アウトカム評価が導入されている回復期リハビリ病棟1・3では、第3者評価の受診を『努力義務』から『義務』とする」ことなどが考えられそうです。「第3者評価受審等の有無で相当の差がある。なんらかの形で第3者評価の受審を促進していく必要がある」と猪口雄二委員(日本医師会副会長)はコメントしています。
ただし、井川誠一郎委員(日本慢性期医療協会副会長)は「適切なFIM測定の実施という目的に照らせば、第3者評価そのものの義務化ではなく、例えば▼院内でのFIM測定研修会の定期的な開催▼院外のFIM測定講習会への定期的な参加▼FIM測定後の、評価内容の複数人確認▼などのような対応を義務付ければよいのではないか」との考えを示しました。第3者評価受審には費用も時間も労力もかかる点などを勘案した考えと言えそうです。
これに対し中野惠委員(健康保険組合連合会参与)は「第3者評価は、FIM測定だけであく、自施設全体の取り組みや体制を見つめ直すもので、『第3者評価は病院であれば受けて当然』という流れを作っていくべき」との考えを示しています。
回リハ病棟においてリハ・栄養・口腔の一体実施、退院前訪問指導の充実を目指せ
一方、(2)は回復期リハビリ病棟に最も求められる「質の高いリハビリ提供」について、「さらに質を高めていく」に診療報酬上、どのような対応が可能かという論点です。
この点、厚生労働省は2024年度診療報酬改定が介護報酬との同時改定であることも踏まえて「リハビリ・栄養・口腔の一体的推進」に力を入れようと考えていくことが伺えます。リハビリの効果を上げるためには、十分な栄養補給が必要となり(栄養補給がなければ筋肉が増加しない)、十分な栄養補給のためには口腔機能が健康であることが求められます(関連記事はこちら)。
すでに2020年度診療報酬改定で「最も高点数の回復期リハビリ病棟1では管理栄養士の配置を義務化、他の回復期リハビリ病棟では努力義務化」などの対応が図られてますが、回復期リハビリ病棟における栄養管理の状況を見ると、次のような課題も浮上しています。
▽脳血管疾患や廃用症候群に限らず、運動器疾患においても、一定程度「低栄養」「過栄養等」の患者が存在する
▽入院栄養食事指導料(がん患者等に管理栄養士が一定の時間をかけて食事指導を行うことなどを評価)について、約1割の病棟では「ほぼすべての対象患者に算定している」が、約2割の病棟では全く算定していない
また口腔機能管理に関しては、次のような課題も浮上しています。
▽摂食嚥下機能回復体制加算1(H004【摂食機能療法】に上乗せされる加算、「摂食機能または嚥下機能の回復に必要な指導管理を行う」ことを評価する)の施設基準に満たない医療機関が50%存在する
▽嚥下機能検査が行われていない病棟が55.8%存在する
こうした状況について、委員からは「管理栄養士配置が義務化されている回復期リハビリ病棟1でも2割以上の病棟で【入院栄養食事指導料】が全く算定されていない状況はおかしい。厳しい対応をすべき」(井川委員)、「嚥下機能検査の実施推進に向けた対応を強化すべき」(中野委員)などの意見が出ています。今後、より具体的に「リハビリ・栄養・口腔の一体的推進」方策を検討していくことになります。
また、「回復期リハビリ病棟に入院中はしっかりとしたリハビリが行われるが、退院し、自宅に戻った後はリハビリが不十分であったりして、再度状態が悪化して病院に戻ってきてしまう」といった事態が問題視され、2018年度の診療報酬改定で「病棟配置のリハビリ専門職が退院前の訪問指導等を行うことを認める」旨の施設基準見直しが行われています。
しかし、退院前訪問指導の状況を見ると次のような課題も浮上しています。
▽自宅退院予定患者に対する退院前訪問指導実施割合を見ると、43.6%がでまったく実施されていない
この点、より積極的な退院前訪問指導を推進するために「退院前に居住家屋の状況をチェックし、必要な指導を行うことが極めて重要である。加算・減算などで対応を促すべき」(井川委員)、「退院前訪問指導の重要性に疑うところはないが、多職種チームによる半日仕事になってしまうためインセンティブが必要である。また実際の訪問に向けた時間的余裕がない場合に、写真や動画を参照して実質的な指導を行うことも可能とすべき」(津留英智委員:全日本病院協会常任理事、林田賢史委員:産業医科大学病院医療情報部部長)、「遠方に居住する患者宅には訪問が難しいこともあり、他院と連携した退院前訪問指導という形態も考えてはどうか」(猪口委員)などの提案がなされています。
心身機能向上を目指す回リハ病棟でも身体拘束実施、まず認知症ケア加算を取得しては
他方、(3)は2024年度診療報酬改定に向けた最重要ポイントの1つである「身体拘束の廃止」に関する論点です。
厚労省の調べによれば、回復期リハビリ病棟でも一定程度「身体拘束」がなされている状況が明らかになっています。なお、この身体拘束状況について「離床センサーなども含まれているのではないか、肌感覚よりも多い」との委員からの指摘がありましたが、厚労省で精査したところ「身体に直接触れないようなセンサー設置などは含まれていない」ことが確認されました。「医療機関における身体拘束の実態を相当程度反映している」データと言えそうです(関連記事はこちら)。
この点、「リハビリをしっかり行い、心身の機能向上を目指す」べき回復期リハビリ病棟で、その趣旨と異なる「身体拘束」が少なからずなされている点を多くの委員が問題視し、「身体拘束の解消に向けた取り組みを進めていく必要がある」との点では一致しています。
ただし、「点滴などの抜去を防がなければならない」「転倒・転落等を防がなければならない」などの安全確保の要請が強く求められる点も否めません。厚労省の調査では▼身体的拘束を実施している患者の主傷病は、脳梗塞や心原性脳塞栓症が多い▼身体的拘束を実施している患者では、脳血管疾患等リハビリテーションの実施割合が高い—ことなどが分かっています。
委員からは「夜間はスタッフ数も少なくなり、安全確保のためにやむを得ず拘束を選択してしまうケースもあると思う。しかし、回復期リハビリ病棟の趣旨に照らし、まず【認知症ケア加算】で求められる体制の確保・強化などを通じて拘束の軽減・廃止に取り組むべき」(武井純子委員:社会医療法人財団慈泉会相澤健康センター総合管理部長)との提案がなされました。医療現場の状況に鑑みれば、「すぐに身体拘束をゼロにする」ことは難しいでしょう。武井委員の指摘どおり「まずできる部分からやってみる」ことが非常に重要と言え、今後、より具体的な対策論議が深められます。
また(4)は、回復期リハビリ病棟のリハビリ専門職が、例えば「市町村の実施する介護予防事業に協力する」「要介護者等のケアプランを検討する地域ケア会議へ出席する」といった地域貢献活動に関与することをどう促していくか、という論点です。リハビリ専門職の知識・技術を、介護予防や介護サービスなどの面により活かしていくことが非常に重要かつ有益なためで、すでに一定の回復期リハビリ病棟が地域貢献活動に協力している実態もあります。
この点、中野委員からは「地域貢献活動への参加を100%に近づけていくべき」との提案がなされましたが、「相応のインセンティブがなければリハビリ専門職も動きようがない」(井川委員)との声も出ています。診療報酬・介護報酬の「同時改定」を見据えて、今後、どういった議論が行われるのか注目したいところです。
なお、入院・外来医療分科会の下部組織「診療情報・指標等作業グループ」から、▼地域包括ケア病棟について、「救急搬送後、直接入棟の患者は医療資源の投入がより多く必要である点を考慮する」「緊急入院患者も、相応の医療資源の投入が必要な点を考慮する」「短期滞在手術等基本料の患者は、地域包括ケア病棟の指標計算から除外する」べき(関連記事はこちら)▼回復期リハビリ病棟について「FIM測定データは、入退棟時のみでなく、入院期間中の定期的な提出を求める」「体制強化加算(3年以上のリハ経験を持ち、適切なリハ研修を受けた専従常勤医師の配置、3年以上の退院調整経験を持つ専従の常勤社会福祉士配置等を評価)取得の有無によるFIMの変化、在院日数の差は小さい点を考慮して検討する」べき—との提案がなされている点にも注目が集まります。
関連して中野委員は「1日6単位を超える疾患別リハビリは運動FIM改善の効果が明確でない。リハビリ実施単位数上限の在り方も考えるべき」と提案しています。
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