一般病棟用の看護必要度からB項目を廃止すべきか、急性期一般1の平均在院日数を短縮、リハ・栄養管理を推進―入院・外来医療分科会(1)
2023.9.6.(水)
9月6日に開催された診療報酬調査専門組織「入院・外来医療等の調査・評価分科会」(以下、入院・外来医療分科会)では、▼入院医療の評価指標(診療情報・指標等作業グループからの中間報告)▼DPC制度改革(DPC/PDPS等作業グループからの中間報告)▼急性期入院医療におけるリハビリ・栄養改善▼回復期リハビリ病棟での第3者評価、栄養改善、身体拘束抑制▼療養病棟の医療区分精緻化—などが議題となりました。
本稿では「急性期入院医療」に関連する事項を抽出して、議論を眺めてみます(DPC、回復期入院医療、慢性期入院医療については別稿で報じます)。「急性期入院医療の評価指標である看護必要度や平均在院日数などをどう考えるのか」「急性期入院医療でのリハビリ実施・適切な栄養管理をどう推進していくべきか」などが議論されています。
目次
一般病棟用の看護必要度から「B項目」を削除すべきか否かが論点の1つに
入院医療については、さまざまな入院料ごとに「当該病棟・病床での入院が真に必要な患者を受け入れる」ことが求められます。例えば高点数が設定された「高度医療が必要な重症患者」のための病棟に軽症患者が入院しては、「真に高度医療が必要な重症患者」の円滑な入院が阻害され、また限られた医療資源(マンパワー、設備等)の有効活用、医療保険制度の維持などの面でも悪影響が出てしまうためです。
このため入院料ごとに「当該病棟・病床で受け入れるべき患者像」が定められ、そうした患者数を受け入れる基準値(当該患者像にマッチした患者が●%以上入院していること)などが設けられています。
急性期入院医療では「患者像」を「一般病棟用の重症度、医療・看護必要度」(以下、本稿では単に「看護必要度」とする)などで定め、評価指標」「基準値」が設けられ、真に急性期入院医療が必要な患者」を受け入れている病院についてのみ、急性期の診療報酬(例えば【急性期一般入院料1】など)を取得することを認めているのです。
この点、入院・外来医療分科会の下部組織である「診療情報・指標等作業グループ」では、現在の看護必要度について▼高齢の誤嚥性肺炎・尿路感染症患者を救急搬送して入院させることで、看護必要度の「救急搬送後の入院」として5日間、A項目2点を獲得できてしまっている▼B項目は高齢患者では高得点を獲得しやすい—ため、これらが急性期一般1への高齢者救急搬送を促している側面が否定できないなどの問題点があることを再確認しました。同様の議論が8月10日の入院・外来医療分科会でも行われています。
このため、例えば診療情報・指標等作業グループのメンバーからは「急性期医療を必要とする患者に対する医療・看護を適切に評価する観点から、A項目の『救急搬送後の入院/緊急に入院を必要とする状態』について『日数の短縮化』『5日間の中でも入院後日数によって重みづけする』ことなどを考えてはどうか」との指摘がなされています。またB項目については、「7対1病棟(急性期一般1)のような高度・専門的な医療を必要とする患者への対応を評価する観点からは馴染まない」という声と、「手術等の急性期医療に伴いADLが低下した患者等へのケアに対する評価のためにB項目は重要である」との声とが出ています。
9月6日の入院・外来医療分科会では、B項目に関連しては、例えば「高齢の救急・急性期患者が増加している中では、介助の手間が増えており、ADL等を評価するB項目の廃止はすべきでない。仮に廃止する場合には、介助の手間を踏まえた入院基本料そのものの見直しが必要ではないか」(津留英智委員:全日本病院協会常任理事)、「B項目は単純にADL測定を行うものではなく、看護の手間を評価するものだ。急性期を離脱するまでの安全な療養を可能とするために『急性期病棟用のB項目』再構築が必要である。レセプト電算処理システムコードを用いた看護必要度IIへの移行が進み、A項目・C項目評価が看護師の手から離れている状況を踏まえればB項目の充実を検討すべきである」(秋山智弥委員:名古屋大学医学部附属病院卒後臨床研修・キャリア形成支援センター教授)といった「B項目重要論」が出ています。
一方で、「決して看護の労力を軽んじるわけでないがB項目は将来に向けて廃止すべきと考える。高齢の救急搬送・急性期患者が増加し看護・介助の手間は確実に増えているが、そこはB項目ではなく、より手間のかからない評価指標を探っていくべきである」(牧野憲一委員:日本病院会常任理事)、「急性期一般1をはじめとする急性期病棟では高度専門的な医療提供がなされており、B項目以外を重視した評価体系に移行いていくべきである」(中野惠委員:健康保険組合連合会参与)といった「B項目以外を重視すべき論」も出ています。
また、山本修一分科会長代理(地域医療機能推進機構理事長)は「高齢患者について『入院によりADLが低下してしまう』ことが明らかになってきており、近くJCHO病院データを用いた論文を提示する。高齢の救急患者・急性期患者においてADLを維持・向上する対策が喫緊の課題であり、そうした対策がないままにB項目を廃止することは患者の不利益になる。急性期病棟について『介護をどう実施するのか』『リハビリをどう充実するのか』『栄養管理をどう進めるのか』などをパッケージで検討しなければならない」と進言しています。
今後、さらに「一般病棟用の看護必要度において、B項目の在り方をどう考えるか」という議論が続けられるでしょう。
なお、関連して津留委員は「急性期一般1(7対1)が高度専門的な医療を提供する場であるとはいつ決まったのか?高齢の救急患者・急性期患者を急性期一般1(7対1)から切り離し、急性期一般1を削減しようと考えているのかもしれないが、高齢の救急・急性期患者は増加を続け、両者を切り離すことはできない」と指摘しましたが、中野委員は「急性期一般1(7対1)は高度専門的な医療を提供する病棟であるという点は明確化しておくべきである。もちろん、だからといって『高齢患者は受け入れない』ことなどがあってはいけない」と反論しています。これまでの診療報酬改定の経緯を振り返ってみても、中野委員の指摘どおり「急性期一般1(7対1)は高度専門的な医療を提供する病棟である」との点は論を待たないでしょう。そうした中で前述した「急性期入院医療の評価軸をどう精緻化していくか」を議論していく必要があります。
また、高齢の救急患者・急性期患者への対応に関して、「高齢の救急・急性期患者については、すぐに診断がつかず、経過を見てから正確な診断・治療に移るケースも少なくないため、やはり急性期病棟(7対1など)への入院の必要性は否定できない。しかし、状態を踏まえて可能な限り早期に地域包括ケア病棟などへの転院を円滑に進めるべきである。この下り搬送の加算での評価等と、地域包括ケア病棟等での患者受け入れ評価をセットで検討すべき」(猪口雄二委員:日本医師会常任理事)、「地域包括ケア病棟の議論は『救急患者や在宅患者などのsub acute受け入れ促進』に偏っているが、急性期を脱した患者の円滑な転院を可能するために『post acute』対応が重要な点も忘れてはならない」(牧野委員)などの意見が出ています。すでに報じた「看護必要度の見直し」と合わせて、さらに「高齢者への救急医療・急性期医療の在り方」が議論されていきます。
急性期病棟でのリハビリ等実施・栄養管理を強力に推進する
ところで、山本分科会長代理の指摘する「高齢患者が入院することでADLが低下してしまう」との問題は、すでに3月15日の「中医協・介護給付費分科会の意見交換」でも議題に上がっているように、かなり以前から「重要な検討テーマである」との指摘がなされています。
厚生労働省や中医協でも放置はしておらず、例えば▼2014年度診療報酬改定で、急性期病棟でのリハビリ専門職配置・ADL維持成果などを評価する【ADL維持向上等体制加算】の創設▼2012年度診療報酬改定で、急性期病棟での多職種による栄養サポートを評価する【栄養サポートチーム加算】の創設—などが行われてます。しかし、9月6日の入院・外来医療分科会に示されたデータからは「急性期病棟においてリハビリ実施・適切な栄養管理が必ずしも十分に実施されていない」状況が伺えます。
▽【ADL維持向上等体制加算】の届け出病院、算定回数は低調である
▽急性期において土曜日・日曜日・祝日でのリハビリは極めて有益であるが、実施する急性期病棟は少数派である
▽【栄養サポートチーム加算】の算定は伸び悩んでいる(他の加算に移行している可能性もある点に留意)
▽病棟配置の管理栄養士の業務内容を見ると、「栄養情報提供書の作成」や「ミールラウンド」は低調である(入院料の施設基準に「適切な栄養管理」実施が明示されているが、形骸化している可能性がある)
厚労省は別に「病棟のリハビリ専門職配置数が多いほどリハビリ実施率が高く、ADLスコアの改善効果も大きい」、「入院時の栄養スクリーニングや個別的な栄養管理を行うことで全死亡率が低下するなどの効果がある」「管理栄養士が病棟に配置されると、入院期間の体重減少量や体重減少率が抑制される」などデータを示しており、2024年度の診療報酬改定では「急性期病棟におけるリハビリや栄養管理の推進」も重要論点の1つになりそうです。
この点については、「リハビリについて『必要な状態に陥る前に介入する』という形に現場の意識が変わってきているが、それは疾患別リハビリの算定対象にはならない(点数算定不可)。この点を踏まえてADL維持向上等体制加算が設けられたが、非常に使いにくく、点数も低い。ADL維持向上等体制加算の充実(点数引き上げや疾患別リハビリ料との併算定を認めるなど)や、廃用予防などの新たな評価を検討すべき」との声が牧野委員や山本分科会長代理、井川誠一郎委員(日本慢性期医療協会副会長)ら数多くの委員から出されました。
ADL維持向上等体制加算は、リハビリ専門職等が「定期的なADL評価」や「ADLの維持、向上等を目的とした指導」などを行う場合に、患者1人につき入院日から14日まで、1日につき80点を算定できます(つまり患者1人について最大1万1200円)が、山本分科会長代理は「インセンティブとして弱すぎる」と指摘しています(山本分科会長代理は上述のよりリハビリ実施といった部分対応でなく、各種施策をパッケージとして実施せよとも強調している)。
また、「加算取得で必要となるリハビリスタッフの研修受講機会をしっかり確保すべき」(津留委員)、「入院期間の短い急性期病棟では、休日のリハビリ実施が極めて重要となる。診療報酬での評価を検討すべき」(田宮菜奈子委員:筑波大学医学医療系教授、秋山委員)などの提案もなされています。
あわせて栄養管理に関しては、「急性期病棟での管理栄養士配置が極めて重要であることが再確認された。2022年度の前回改定で新設された【入院栄養管理体制加算】(特定機能病院での管理栄養士による栄養管理を評価)について、一般病院にも拡大を図るべき」(牧野委員)、「【入院栄養食事指導料】(がん患者等に管理栄養士が一定の時間をかけて食事指導を行うことなどを評価)などについて対象患者の拡大を検討すべき」(津留委員)、「管理栄養士は毎年1万人ほど誕生するが、病院には全体で2万人ほどしか勤務していないようだ。病院での管理栄養士配置が進むような加算評価を行うべき」(井川委員)などの提案がなされました。
2024年度の診療報酬改定は、介護報酬との同時改定でもあり「リハビリ・栄養・口腔の一体的推進」が最重要テーマの1つとなります。リハビリの効果を上げるためには、十分な栄養補給が必要となり(栄養補給がなければ筋肉が増加しない)、十分な栄養補給のためには口腔機能が健康であることが求められます(関連記事はこちら)。【ADL維持向上等体制加算】や【栄養サポートチーム加算】などがどのように見直されれるのか、今後の議論に注目が集まります。
一般1(7対1)の平均在院日数、2012年度改定から12年ぶりに「短縮」へ
また急性期一般1(7対1)の施設基準では「平均在院日数が18日以内」との基準も定められています。
この点について、入院・外来医療分科会の下部組織である「診療情報・指標等作業グループ」の分析では次のような状況が明らかとなりました。
▽90%以上の施設で施設基準(18日)よりも2日以上短かったが、届出病床数が小さい場合にばらつきが大きい
▽平均在院日数の長い病院には「ICU併設などが少なく、地域包括ケア病棟・回復期リハビリ病棟等とのケアミクスが多い」「全身麻酔手術の実施件数などが少ない」「救急搬送件数が少ない」「75歳以上割合や認知症を併存する割合、要介護度が高い」「看護必要度の基準該当患者割合が低い」などの特徴がある
ここからは、平均在院日数の長い急性期一般1は「小規模で、急性期度が低い患者を多く受けている」状況が伺えそうです。逆に考えると、平均在院日数の基準を厳しくすれば「より高度専門的な医療提供を行っている急性期病棟を選別・抽出できる」と言えるでしょう。
このため診療情報・指標等作業グループからは「急性期一般入院料1における平均在院日数の短縮化が考えられるのではないか」との提案がなされ、入院・外来医療分科会では反論が出ていません。具体的に何日に短縮するのかなどは今後の検討に委ねられますが、2012年度診療報酬改定(以前の19日から18日に短縮された)以来、12年ぶりの「平均在院日数基準の短縮」となりそうです。
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