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診療報酬改定セミナー2024 看護モニタリング

2022年度の1か月医療費上位1―9位は脊髄性筋萎縮症患者で各々1億7000万円程度、1000万円超レセは1792件で過去最高―健保連

2023.9.8.(金)

昨年度(2022年度)において、1か月当たり医療費が1000万円以上となった高額レセプトは1792件あり、前年度に比べて275件・18.1%の増加で、「過去最高」を更新した—。

超高額レセプト増加の背景には、脊髄性筋萎縮症治療薬「ゾルゲンスマ」、白血病等治療薬「キムリア」などの保険適用が大きく関係していると見られ、上位9位までは脊髄性筋萎縮症、血液がん患者が数多く含まれている。また1か月当たり医療費の最高額は、脊髄性筋萎縮症患者の1億7784万6430円であった—。

健康保険組合連合会が9月7日に公表した昨年度(2022年度)の「高額レセプト上位の概要」から、こういった状況が明らかになりました(健保連のサイトはこちら)(2021年度に関する記事はこちら、2020年度に関する記事はこちら、2019年度に関する記事はこちら、2018年度に関する記事はこちら、2017年度に関する記事はこちら、2016年度に関する記事はこちら)。

がん患者の高額レセが急増、2022年度には上位100件中「79件」に

健康保険組合(健保組合)は、主に大企業の従業員とその家族が加入する公的医療保険です。健保組合の連合組織である健康保険組合連合会(健保連)では、毎年度のレセプトから「1000万円以上の高額レセプト」を抽出し、分析しています。

1000万円以上の高額レセプトは昨年度(2022年度)には1792件発生し、過去最高を更新しました。最近の状況を見ると、次のようにハイペースで増加していることが分かります。

▼2014年度:300件

(61件・20.3%増)

▼2015年度:361件

(123件・34.1%増)

▼2016年度:484件

(48件・9.9%増)

▼2017年度:532件

(196件・36.8%増)

▼2018年度:728件

(123件・16.9%増)

▼2019年度:851件

(514件・60.4%増)

▼2020年度:1365件

(152件・11.1%増)

▼2021年度:1517件

(275件・18.1%増)

▼2022年度:1792件



また金額階級別に高額レセプトの対前年増加率(2021年度→22年度)を見ると、次のように「2000万円以上」「1000万円以上2000万円未満」の超高額レセプトが大きく増加している状況が伺えます。
▽2000万円以上:40.74%増
▽1000万円以上2000万円未満:15.42%増
▽500万円以上1000万円未満:5.64%増
▽400万円以上500万円未満:1.23%増
▽300万円以上400万円未満:5.29%増
▽200万円以上300万円未満:1.72%増
▽40万円以上200万円未満:64.12%減

金額別の高額レセプト件数の推移(2022年度高額レセプト1 230907)



健保連では、例えば▼2015年11月には、造血幹細胞移植後の急性GVHD(移植片対宿主病)治療薬「テムセルHS注」(収載時の薬価(以下、同)は1バッグ当たり86万8680円)が▼2016年5月にはライソゾーム酸性リパーゼ欠損症(コレステロールエステル蓄積症、ウォルマン病)治療薬「カヌマ点滴静注液20㎎」(同10ml1瓶当たり127万7853円)が▼2017年8月には脊髄性筋萎縮症治療薬「スピンラザ髄注」(12mg5mL1瓶当たり932万424円)が▼2018年5月には先天性血液凝固第VIII因子欠乏患者における出血抑制に用いる「ヘムライブラ皮下注」(150mg1瓶当たり134万4343円)が▼2019年5月には白血病等の血液がん治療薬の「キムリア点滴静注」(1患者当たり3349万3407円)が▼2020年5月には脊髄性筋萎縮症の治療薬「ゾルゲンスマ点滴静注」(1患者当たり1億6707万円7222円)が▼2021年4月にはキムリアの類似薬である「イエスカルタ点常駐」(1患者当たり3411万3655円)が▼2021年5月にはキムリアの類似薬である「ブレヤンジ静注」(1患者当たり3411万3655円)が—保険適用載されていることなどを紹介しており、「高額な医薬品の保険適用が、高額レセプト増加の大きな要因になっている」と考えていることが伺えます。

1000万円以上の高額レセプト件数の推移(2022年度高額レセプト2 230907)



また、昨年度(2022年度)における上位100疾患のリストに目を移すと、最高額のレセプトは脊髄性筋萎縮症の患者で1か月当たり1億7784万6430円でした。また、2020年度、21年度と同様に第1位から第9位まで「脊髄性筋萎縮症」患者が占めており、第2位以下の最高月額医療費は▼第2位:1億7739万4730円▼第3位:1億7737万820円▼第4位:1億6963万4610円▼第5位:1億6838万800円▼第6位:1億6817万9300円▼第7位:1億6784万2660円▼第8位:1億6778万130円▼第9位:1億6771万4210円—となっています。ここには、上述した「ゾルゲンスマ点滴静注」の保険適用が大きく関係しています。

また第10位は血友病A患者で4228万3770円です。

さらに上位には、「びまん性大細胞型B細胞リンパ腫」患者や「B細胞性急性リンパ芽球性白血病」など、「キムリア点滴静注」が適応となる疾患の患者が多く含まれています。

2022年度の高額レセプト上位100疾患(2022年度高額レセプト3 230907)



長期的に見ていく必要がありますが、上位100件の高額レセプトの「疾病構成」について、「悪性腫瘍」が大幅に増加する(2019年度はゼロ件→2020年度は24件→2021年度は49件→2022年度は79件)など、その顔ぶれに大きな変化が生じていることが分かります。

悪性腫瘍、つまりがん患者は今後も増加すると見込まれ、同時に「優れた、しかし超高額な治療薬」も相次いで出現すると予想されます。「優れた医薬品」の相次ぐ開発・保険適用は、患者・家族にとっては何よりの朗報ですが、こうした医薬品は「超高額であり、医療費を膨張させてしまう」という事実からも目をそらすことはできません。もちろん「薬価」ばかりに目が行き、製薬メーカーの開発意欲を削ぐことは本末転倒であることは述べるまでもありません。「薬価算定ルールの在り方」や「対象患者の明確化」(最適使用推進ガイドラインなど)などをめぐる議論も厳しさを増していく可能性があります(中央社会保険医療協議会・薬価専門部会における2024年度薬価制度改革論議に関する記事はこちらこちらこちらこちらこちらこちら)。





ところで、こうした高額レセプトが発生した場合、健保組合の財政が一時的に苦しくなることがあります。とりわけ小規模な健保組合では、1件でも高額レセプトが発生した場合、財政に大きな影響が出がちです。そこで健保連では、いわば「再保険」とも言える仕組みを用意しています。具体的には保険料の一部をプールし、高額レセプト(2020年度は一般疾病では150万円超、血友病などの特殊疾病では100万円超)が発生した健保組合に対して、基準額(同)を超過した分が交付されます(高額医療交付金交付事業)。

いわば「再保険」である高額医療交付金の概要(2022年度高額レセプト4 230907)



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