救急救命士による「救急車内でのエコー実施」で腹腔内出血等の診断補助が可能、適切な搬送先病院選定が可能に—救急医療職種ワーキング
2024.2.8.(木)
救急救命士による「救急車内のエコー実施」が可能となれば、迅速に腹腔内出血等の診断補助が実現でき、適切な搬送先病院の選定につながると期待される。特区において、この点の実証事業を行うこと認めるべきか—。
2月7日に開催された「救急医療の現場における医療関係職種の在り方に関する検討会ワーキンググループ」(以下、ワーキング)で、こうした議論が行われました。さらに議論を継続します。
揺れる救急車内でのエコー実施は難易度が高く、十分な研修が必要との声
救急医療現場における「医師の負担軽減」が大きな課題になっています。また救命率の向上に向けた医療機関外(救急搬送前)の処置充実等も大きな課題です。
さらに、ワーキングでは(3)の「救急救命士処置の拡大に向けた、国家戦略特別区域での先行的な実証実施」を集中的に検討するために設置されました。
これまで、救急救命士の業務範囲拡大にあたっては、▼専門家の参画する検討会(救急救命処置検討委員会)での検討→▼専門研究班での安全性・有効性に関する研究→▼一部地域での実証研究→▼専門家による最終検討→▼全国展開—という慎重な手続きを経て行われてきています。この「救急救命処置検討委員会」の後を引き継ぐ形で、ワーキングにおいて「救急救命士の業務範囲拡大」を専門家の見地で議論していくことになります。
今年度(2023年度)には、(a)革新的事業連携型国家戦略特区要望において「超音波検査」を先行的に実証することをどう考えるか(b)「アナフィラキシーに対するアドレナリンの筋肉内注射」についてどう考えるか—を議題としており(関連記事はこちら)、2月7日のワーキングでは、前者の(a)の行為「救急車内での超音波検査」を議題とし、提案者である岡山県吉備中央町・岡山大学からのプレゼンテーションをベースに議論を行いました。
吉備中央町の山本雅則町長は「2次救急医療機関が町内になく、救急患者は1時間以上をかけて他地域の医療機関に搬送される。その際、医師の指示を受け、救急救命士が救急車内でエコー検査を行うことで、傷病の状態を把握し『適切な搬送先医療機関の選定』『受け入れ医療機関(搬送先)での十分な準備』などが可能になる」旨を述べ、特区での実証を認めるよう要望。
また岡山大学の那須保友学長、牧尉太講師(産科・婦人科学)らも、▼「病院の救急医」と「救急車内の救急救命士」とをオンラインで結び、リアルタイム画像を介しながら、エコーに関する指示を行うことで、「適切な搬送先医療機関の選定」「受け入れ医療機関(搬送先)での十分な準備」などが可能となる▼対象疾患として、まずは「腹腔内出血(肝破裂、腎破裂、脾破裂)、「腹部大動脈瘤の破裂」、「子宮外妊娠、卵巣出血、卵巣腫瘍茎捻転」などが想定される▼エコーは侵襲性のない手技であり、適切な研修・訓練により十分な画像描出が可能となると考えられる▼救急救命士によるエコー検査実施が、患者の救命にとって有用であるとの研究成果も少なからずある—などの点を強調し、特区での実証を認めてほしいと要望しています。関連して「ドクターカー内でのエコー検査実施により大動脈解離を診断でき、適切な病院に搬送し、救命できた」事例も報告されています。
こうした要望に対し、ワーキングの構成員からは「エコーは難易度の高い手技であり、救急車は揺れもある。短時間の講習で適切な画像描出が可能なのか疑問がある」(井本寛子構成員:日本看護協会常任理事、深澤恵治構成員:チーム医療推進協議会理事、)、「救急救命士は現場・救急車内でさまざまな救命処置を行う。それに加えてエコー検査実施を行うことは難しくないか」(淺香えみ子構成員:日本救急看護学会理事)、「救急救命士の最大の心理的ストレスは『医療機関・医師との連携』にあり、そうした点も考慮すべき」(植田広樹構成員:日本臨床救急医学会評議員)、「有用な取り組みであるが、救急搬送時間の短い都市部や、搬送先が決まっている地域ではニーズが低いのではないか。特区実証の後に、全国展開を検討する際には、そうした点も考える必要がある」(佐々木隆広構成員:仙台市消防局救急課長)などの意見が出されています。
また、こうした声に対し、岡山大学サイドは「救急救命士の研修・訓練について、どの程度が妥当であるのかはまだ不明であり、実証事業に向けてさらに研究・検討していく。揺れる救急車内での研修も重要と考える」、「救急救命士の心理負担が増さないよう、医師が責任をもって、エコー実施をすべきか否かの判断・指示、エコー実施の遠隔支援、画像読影などを行う」、「実証事業の中でニーズや有用性などを検証していく」などの考えを述べ、実証事業実施に理解を求めました。
このテーマについては今後も議論が継続されます(本年度内(2023年3月まで)に一定の取りまとめを行う)が、「医師が『救急救命士にエコー実施をしてもらうか否か』を検討・判断して、指示する」(医師起点でスタートする)、「救急救命士には相当程度の研修等が行われ、知識・スキルを身に着けたうえでエコー実施を行う」、「特区という限定された地域で安全性・有用性などを検証し、そのデータを踏まえて『全国展開すべきか否か』などを改めて検討する」といった点を十分に踏まえた検討が必要でしょう。救急医療体制が不十分な地域において「患者の生命を救う」には何が必要かを最優先に考える必要があります。
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