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GemMed塾 2024年度版ぽんすけリリース

救急救命士による「救急車内のエコー実施」を特区(岡山県吉備中央町)で認めるか、安全性確保の面等で賛否両論—救急医療職種ワーキング

2024.3.8.(金)

救急救命士による「救急車内のエコー実施」が可能となれば、迅速に腹腔内出血等の診断補助が実現でき、適切な搬送先病院の選定につながると期待される。特区において、この点の実証事業を行うこと認めるべきか—。

3月7日に開催された「救急医療の現場における医療関係職種の在り方に関する検討会ワーキンググループ」(以下、ワーキング)で、引き続き、こうした議論が行われました。さらに議論が継続されます。

安全性確保の面で慎重な意見もあるが、「検証のための実施」に肯定的意見も

救急医療現場における「医師の負担軽減」が大きな課題になり、救命率の向上に向けた医療機関外(救急搬送前)の処置充実等も大きな課題となっています。そうした中、ワーキングでは「革新的事業連携型国家戦略特区(岡山県吉備中央町)において、救急救命士が医師の指示の下で病院到着前に超音波検査を行う」ことをどう考えるか、という議論が行われています(関連記事はこちらこちら)。

吉備中央町には2次救急医療機関が町内になく、救急患者は1時間以上をかけて他地域(岡山市など)の医療機関に搬送されますが、その際、「医師の指示を受け、救急救命士が救急車内でエコー検査を行う」ことにより、傷病の状態は事前に把握でき、▼適切な搬送先医療機関の選定▼受け入れ医療機関(搬送先)での十分な準備—などが可能になると期待されているのです。

これに対し、ワーキング構成員からは、患者の安全などを考慮し「エコー検査は難易度が高く、救急救命士の教育等が非常に重要になる」「揺れる救急車の中で適切な検査を行えるのだろうか」「救急搬送時間の短い都市部や、搬送先が決まっている地域ではニーズが低いのではないか」などの意見が出されていました。

提案者である岡山大学では、こうした意見を踏まえて、次のような実施計画(見直し、明確化)を再度提案しました。

▽「路面の状況等により揺れが大きい」「患者を静止することが困難」など、エコー実施が困難、または実施しても十分に患者状態を確認できないと医師が判断した場合には、救急救命士による救急車内でのエコー検査を実施することなく通常のプロトコルに従って対応する

▽エコー検査の対象症例等を限定する
▼対象箇所:骨盤腔(膀胱上窩/ダグラス窩)、肝腎境界面、脾腎境界面
▼対象とする状態:腹腔内液貯留(肝破裂、脾破裂等)(これまでは腹部大動脈瘤の破裂、子宮外妊娠、卵巣出血、卵巣腫瘍茎捻転なども含めていたが、前記に限定された)
▼関連する診療科:救急科、消化器外科、産婦人科、泌尿器科

▽搬送先病院においては、確認結果(エコー検査結果)に基づき関連する診療科を特定し、事前準備(CTや透視装置の整ったHybrid ER、手術室の準備、輸血や止血デバイスの準備、スタッフ招集等)を開始する
→一定以上の規模の病院であればオーバートリアージにより事前準備が可能であるが、救急体制が脆弱な地方では「事前に人員や資材をどの程度集めるべきか」の判断が難しく、エコー検査映像の事前共有が有効

▽病院到着後の検査は、必ずしも省略しないが、様々なケースを実証を通じて確認していく

救急救命士によるエコー実施の方法、対象症例など(救急医療職種ワーキング1 240307)

救急救命士によるエコー実施のフロー案(救急医療職種ワーキング2 240307)

医師による判断→救急救命士によるエコー実施→医師による確認を「2分間」を目標にする(救急医療職種ワーキング3 240307)



こうした提案に対し、構成員からは「エコー検査は難易度が高い。迅速の病院に搬送し、病院到着後の検査を行うべきである」(深澤恵治構成員:チーム医療推進協議会理事)、「現場到着から病院到着までのフローをより精緻化する必要がある」(植田広樹構成員:日本臨床救急医学会評議員)、「構成員や現場の救急救命士からの不安の声もあり、実施は認めるべきではない」(井本寛子構成員:日本看護協会常任理事)といった慎重な意見が改めて多数出されました。

一方、「救急搬送前(事故現場など)においてエコー検査を実施するフローも検討すべき。特区で安全性・有効性を検証することは重要である」(本多英喜構成員:日本救急医学会評議員)、「エコー検査を実施するか否かは医師が判断する計画だが、将来の全国展開に向けて『救急救命士がエコー適用か否か』を判断し、医師に指示を要請するようなフローも検討してはどうか」(佐々木隆広構成員:仙台市消防局救急課長)、「医師働き方改革を進める中で、多くの医師に待機を要請することが難しくなる。対象症例も限定されており、安全性・有効性検証の価値がある」(田邉晴山構成員:救急振興財団救急救命東京研修所教授)と前向きな意見も出ています。また本田構成員は「救急医療体制の在り方全体に関する議論も進めてほしい」と厚生労働省に要望しています。

ワーキングでさらに議論を詰め、年度内に「特区での救急救命士によるエコー実施」の可否について結論を出すことになります。なお、繰り返しになりますが、提案内容は「特区での実施の可否」(特区で安全性や有効性などを実証研究するイメージ)であり、「全国展開するか否か」は、特区での結果を踏まえて、別途、さらに慎重に検討される点に留意が必要です。



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