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診療報酬改定セミナー2024 看護モニタリング

救急救命士による「救急車内のエコー」実施、特区(岡山県吉備中央町)での研究デザインを精緻化した後に可否判断—救急医療職種ワーキング

2024.3.22.(金)

岡山県吉備中央町において「迅速に腹腔内出血等の診断補助を行い、適切な搬送先病院の選定につなげるために、『救急救命士による、救急車内のエコー検査』実施」(実証研究)の提案がなされているが、研究デザインが不明確な部分がまだある—。

「搬送前・搬送中のエコー手技、搬送先病院選定に係るプロトコルの作成」や「既存のプロトコルとの整合」、さらに実証研究を行う岡山大学病院の体制整備などについて、より精緻な研究デザインを行ったうえで、改めて実証研究の可否を判断する—。

3月21日に開催された「救急医療の現場における医療関係職種の在り方に関する検討会ワーキンググループ」(以下、ワーキング)で、こうした内容の取りまとめが行われました。今後▼岡山大学病院側での研究デザイン精緻化→▼ワーキングでのさらなる検討—を経て、来年度(2024年度)早期に「実証研究の可否」が決定されます。

3月21日に開催された「第4回 救急医療の現場における医療関係職種の在り方に関する検討会 ワーキンググループ」

安全性確保の面で慎重な意見が多数あり、現時点で「実証研究の可否判断」は困難

救急医療現場における「医師の負担軽減」が大きな課題になり、救命率の向上に向けた医療機関外(救急搬送前)の処置充実等が進められてきています。そうした中、ワーキングでは「革新的事業連携型国家戦略特区(岡山県吉備中央町)において、救急救命士が医師の指示の下で病院到着前に超音波検査を行う」ことをどう考えるか、という議論が行われています(関連記事はこちらこちらこちら)。

吉備中央町には2次救急医療機関が町内になく、救急患者は1時間以上をかけて他地域(岡山市など)の医療機関に搬送されますが、その際、「医師の指示を受け、救急救命士が救急車内でエコー検査を行う」ことにより、傷病の状態は事前に把握でき、▼適切な搬送先医療機関の選定▼受け入れ医療機関(搬送先)での十分な準備—などが可能になると期待されているのです。

これに対し、ワーキング構成員からは、患者の安全などを考慮し「エコー検査は難易度が高く、救急救命士の教育等が非常に重要になる」「揺れる救急車の中で適切な検査を行えるのだろうか」「救急搬送時間の短い都市部や、搬送先が決まっている地域ではニーズが低いのではないか」「吉備中央町で考えれば、ドクターヘリにより3次救急である岡山大病院への迅速な搬送を進めるほうが有用ではないか」などの慎重意見が数多く出されていました。

提案者である岡山大学サイドは、こうした意見も踏まえて「実施計画の見直し、明確化」なども行っており、厚生労働省は「現時点では実証研究の内容が必ずしも十分に固められていない。この段階で可否を判断することは難しい」と判断し、次のような対応案を示しました。

【岡山大病院】
▽研究デザインの精緻化を行う(搬送前・搬送中のエコー手技及び搬送先病院選定に係るプロトコルの作成、既存のプロトコルとの整合)とともに、実証する体制の設置を進める

▽「救急救命士による超音波装置操作等に係る研修」について、効果測定を行いながら必要十分なプログラムを作成する

【ワーキング】
▽各段階において、岡山大病院から進捗状況の報告を受け、さらに議論を進める

岡山県吉備中央町における「救急救命士による、病院前でのエコー検査」実証研究については、今後、研究デザインの精緻化を待ってから実施の是非を判断する(救急医療職種ワーキング 240321)



研究デザインが精緻化され、その内容についてワーキングが「良し」と判断すれば、2024年度の早い段階で「救急救命処置への特例追加」(省令改正)が行われ、吉備中央町で実証研究が始まります(その後、逐次進捗状況がワーキングに報告される)。一方、研究デザインについて「まだ不十分」とワーキングが判断すれば、岡山大病院で「さらなる研究デザインの精緻化」が求められます(実証研究実施が遅れることになる)。また議論の結果、「実証研究とはいえ、救急救命士によるエコー実施は時期尚早である」と判断され、実証研究が認められない可能性もあります。

今後、専門家の支援も受けながら岡山大病院で「研究デザインの精緻化」を進めていくことになります。

また、全国展開を認めるか否かは、「実証研究を認める」→「実証研究において、優れた効果が認められる」→「全国展開で必要な要件などの整理・議論・研究を進める」などの数段階を経て決定されるもので、「何段階も先のお話」である点に留意が必要です。



ワーキング構成員からは、上記の厚労省提案に異論・反論は出ていませんが、研究デザインの精緻化に向けて、▼実証研究の必要性がまだ不明確である。実際に「救急車内や現場において、救急救命士によるエコー実施が認められれば、転院を防げたケース(最初から高次救急搬送できたケース)」が存在するのか、などを明確にすべきである。必要性のない事項は検討するまでもない(井本寛子構成員:日本看護協会常任理事)▼対象症例などをより明確にすべきと思う。また対象を臓器破裂に限定した場合、昼間は「ドクターヘリによる3次救急搬送」を優先し、夜間のみ「救急救命士によるエコー実施」を行うことになってくるのではないか(加納繁照構成員:日本医療法人協会会長)▼そもそも「吉備中央町に2次救急がなく搬送時間がかかりすぎており、搬送時間を短縮したい」との発想でスタートしたはずだが、それと「救急救命士によるエコー実施」との関係が不明確であり、明確にすべき(深澤恵治構成員:チーム医療推進協議会理事)▼まず「エコー検査が認められている職種による病院前でのエコー検査実施」の有用性を判断し、その後に「救急救命士によるエコー検査」実施の有用性を判断するという2段階の検証も考えられる(喜熨斗智也構成員:民間救命士統括体制認定機構理事)▼「処置」と「救急救命処置」との文言を明確に使い分けないところが議論の混乱を招いている部分もあり、明確化をすべき(本多英喜構成員:日本救急医学会評議員)—などの提案・注文の声が出ています。こうした声も踏まえて、岡山大病院で研究デザインの精緻化が進められます。

また、より広範な視点に立ち、▼仮に「全国展開」となった場合には、ドクターヘリよりも「救急車で搬送し、その中でエコー検査を実施し、病態を把握する」ことが有用な地域・ケースも出てくるであろうし、3次救急・2次救急のいずれの医療機関に搬送すべきかを「救急救命士によるエコー検査」結果で判断することが有用な地域・ケースも出てくるであろう。そうした点も視野に入れて検討すべき(佐々木隆広構成員:仙台市消防局救急課長)▼救急隊目線では、「症状不明確、ショックなし」で2次救急搬送をしているが、「気になる状況」ゆえにエコーを車内で実施する、というケースが考えられそうだ、地域で重要なツールになる可能性がある(植田広樹構成員:日本臨床救急医学会評議員)▼研修については「病院内での毎年度実施する24時間研修の機会」や「医師と同行する機会」などを活用すべき(佐々木構成員、喜熨斗智也構成員:民間救命士統括体制認定機構理事)▼ドクターヘリを活用した、迅速な救急搬送体制の構築なども十分に検討すべき(淺香えみ子構成員:日本救急看護学会理事)—といった意見も出ています。将来に向けて参考になるものです。

なお、加納構成員の指摘する「岡山県吉備中央町に限定すれば、ドクターヘリを活用し、3次救急に一刻も早く搬送することのほうが優先されるべき」との点を踏まえると、岡山県吉備中央町では「救急救命士によるエコー検査の有用性」が実証できない可能性もあります。その場合、佐々木構成員の指摘する「『ドクターヘリによる3次救急搬送』よりも『エコー検査を救急車内で実施し、搬送先を選別する』ことのほうが有用である」地域やケースでの展開(全国展開)が難しくなってきそうです。こうした難しい点も踏まえて、研究デザイン精緻化を進めることに期待が集まります。



なお、ワーキングでは、(1)心肺停止に対するアドレナリンの投与等の包括指示化(2)アナフィラキシーに対するアドレナリンの筋肉内投与(3)気管切開チューブの事故抜去時のチューブの再挿入(4)自動式人工呼吸器による人工呼吸—の4行為について、救急救命士による実施を認めるべきか否かの議論も来年度(2024年度)に実施します(関連記事はこちらこちら)。



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