医師働き方改革により「救急はじめとする診療縮小」「医師派遣の中止、削減」「病院経営の悪化」などの悪影響が出る可能性大—四病協
2024.3.28.(木)
この4月(2024年)からついに医師働き方改革がスタートする。これに伴う地域医療提供体制への悪影響を半数近く病院が「ある、今後出てくる」と見ており、例えば「救急を含めた診療縮小」「経営の悪化」「地域医療の質の低下」などがあがっている—。
また、医師働き方改革に伴い「医師派遣の中止・削減」も一定程度生じる可能性があり、とりわけ「宿日直許可を得ていない医療機関への派遣ストップ」が心配される—。
日本病院会・全日本病院協会・日本医療法人協会・日本精神科病院協会の4団体で構成される四病院団体協議会が3月25日に、こうした調査結果を発表しました(日病サイトはこちら)。今後も状況を逐次、注視する必要があります。
また、3月27日の四病協・総合部会では「看護職員の確保が難しくなる中で、紹介会社への手数料負担が増している」点が強く問題視され、「実態把握を行う」方針が固められました。
医師働き方改革により、診療縮小、医師派遣の停止、経営の悪化などの悪影響が出る
ついに、この4月(2024年4月)から、【医師の働き方改革】がスタートします。すべての勤務医に対して新たな時間外労働の上限規制(原則:年間960時間以下(A水準)、救急医療など地域医療に欠かせない医療機関(B水準)や、研修医など集中的に多くの症例を経験する必要がある医師(C水準)など:年間1860時間以下)を適用するとともに、追加的健康確保措置(▼28時間までの連続勤務時間制限▼9時間以上の勤務間インターバル▼代償休息▼面接指導と必要に応じた就業上の措置(勤務停止など)―など)を講じる義務が医療機関の管理者に課されるものです。
新たな時間外労働規制のスタートまで「数週間」に迫る中、医療現場には様々な不安があります。例えば「自院はB水準などの申請をしていないが、本当にすべての医師が時間外労働960時間以内に収まるのだろうか」、「大学病院が自院の医療体制を確保するために、医師派遣を引き揚げてしまわないか」など、さまざまです。
そこで四病協では、状況を正確に把握するために四病協の加盟病院と全国医学部長病院長会議傘下病院を対象に緊急アンケートを行うことを決定(関連記事はこちら)。
今般、その結果が報告されました。1306施設が回答しています。
まず、時間外労働が960時間を超える見込みの医師(こうした医師がいる場合、上述のB水準などの指定を受けなければ違法となる)、同じく1860時間を超える見込みの医師(この場合は明らかに違法となる)の状況を見ると、▼960時間超医師がいる施設:23.1%(平均21.2名)▼1860時間超医師がいる施設:3.3%(平均4.4名)—となりました。後者の施設では「直ちにタスクシフトなどを行う」必要があります。
また、労働時間短縮の中で極めて重要な「宿日直許可」については、▼病院全体で取得:70.1%▼一部診療科、一部時間帯等で取得:19.4%▼取得していない:10.6%—という状況です。取得していない理由としては、「申請準備中」「申請中で結果待ち」が多いものの、一部に「申請が必要だが準備していない」という施設もあり、早急な対応が求められます。
また、回答病院全体でみるとA水準が92.2%と圧倒的多数を占めていますが、病院の機能によって状況は異なり、特定機能病院や基幹型臨床研修病院、救命救急センター、周産期母子医療センターなどではB・連携B・C水準が多くなっています。なお「当初は全医師が960時間以内に収まると思ったが、実際には960時間超の医師が出現してしまった」というケースも出てくるでしょう。この場合、速やかに評価センターの評価受審・B水準等の指定申請を行う必要があります(関連記事はこちら)。
さらに、最も気になる「地域医療提供体制への影響」については、次のような状況が見えてきています。
▽「診療体制の縮小」など何らかの影響が生じている、または生じる可能性
→「なし」が51.3%で最も多いが、「自院で生じている」7.0%、「自院で生じる可能性あり」35.0%、「地域で生じる可能性あり」6.7%という声も小さくない
影響の具体例としては、「大学病院派遣の中止・縮小(当直時間の制限や派遣日数の減少)」、「日当直業務を行う医師不足による確保困難および診療体制の縮小」、「救急医療の逼迫」、「医師の人手不足による救急」、「小児周産期医療体制の縮小」、「人件費の高騰・医師不足」、「入院患者数の減少に伴う病院経営の悪化、地域医療の質の低下」などの声が出ています。
▽派遣医師の引き揚げ、削減など
→「中止等の連絡なし」が84.7%と大多数だが、「中止(引き揚げ)」3.6%、「削減」5.7%というケースもある
また、「医師派遣を行っている」施設(29.4%)サイドの声を聞くと、「中止削減予定なし」が64.3%と多数を占めているものの、「宿日直許可を得ていない病院等には、場合によって中止削減の可能性もある」26.0%、「中止削減を検討する」0.5%、「中止削減した」0.3%という声があるほか、「状況を把握できていない」施設も8.6%あります。中止削減の最大の理由は「医師働き方改革」となっています(自院の診療体制を確保するために、例えば宿日直許可を得ていない病院での勤務をストップする)。
診療科別には、内科、整形外科、外科、脳神経外科、小児科、循環器内科などで「医師派遣の中止、削減」が進められています。
医師働き方改革がスタートした後には、さらに状況が変化する可能性も高く、今後も「実態把握」がなされることに期待が集まります(関連記事はこちら)。
病院での看護職員確保に向けた「紹介会社への手数料」負担について、実態把握へ
なお、四病協は3月27日に総合部会(各団体の会長、副会長クラスの幹部が出席し、意見効果を行う部会)を開催し、そこでは次のような議論が行われたことが、総合部会後の記者会見で加納繁照・医法協会長から報告されています。
▽この4月(2024年4月)から、全国の医療機関の機能等を検索できる医療情報ネット「ナビイ」を厚生労働省が運用開始するが、「どこまでの情報が掲載されるのか、例えば院長名なども掲載されるの、内容などが不明瞭である」、「病院はほとんどが掲載されるが、クリニックはどこまで掲載されるか不明瞭である」、「『ナビイ』では検索結果上位に出ず、『医療情報ネットナビイ』で検索しなければならない、使い勝手に問題がある」などの点が問題視された(関連記事はこちら)
▽日本看護協会が文部科学省に宛てて「准看護師の養成廃止」を提言しているが、病院団体としては強く反対する(日看協サイトはこちら)
▽新設される、高齢の救急搬送患者に包括対応する【地域包括医療病棟】について、四病協の中に勉強会を設け、対応等を検討していく(関連記事はこちら)
▽看護職員確保が非常に難しくなる中で「紹介会社への手数料」負担などが非常に重くなっており、実態を把握していく(関連記事はこちら)
▽2026年度の医学部入学定員について「2024年度水準を維持する」方針が固まり、安堵している。地域で医師が本当に足りているのか?不足しているのか?について実態を正確に調査し、精緻に議論していく必要がある(関連記事はこちら)
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