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2023年度の臓器移植状況はコロナ禍前水準を回復、小腸移植の成績低下が気になる―厚労省

2024.6.12.(水)

今年(2024年)3月31日時点で臓器移植を待っている人は、心臓855名、肺603名、肝臓369名、腎臓1万4350名、膵臓23名などとなっている一方、2023年度における脳死者からの臓器提供は116名にとどまっている―。

移植後患者の生存率と臓器の生着率は、多くの臓器で向上傾向にあるが、小腸で低下している点が気になる―。

武見敬三厚生労働大臣が6月11日に、こういった「臓器移植の実施状況等に関する報告」を参議院厚生労働委員会に行いました(厚労省のサイトはこちらこちら)。

臓器移植の水準は「コロナ禍前」水準に回復していますが、今後の状況を詳しく見ていく必要があります。

臓器移植件数の推移(2024年臓器移植実施状況報告1 240611)

脳死者からの臓器提供件数は、コロナ感染症の落ち着きとともに増加傾向に

1997年に臓器移植法が制定された際、国会(参議院)は「厚生労働大臣は、参議院厚生労働委員会で臓器移植等の実施状況を報告する」旨の附帯決議を行いました(附帯決議とは国会が政府に与えた、いわば「宿題」で、政府には決議の内容を実行するよう「努力する」ことが求められます)。

これに基づき、厚労相は毎年、臓器移植の実施状況を国会に報告しています。

まず今年(2024年)3月31時点の臓器移植「希望」登録者数を見ると、日本全国で次のような状況となっています。
▼心臓:855名(前年(2023年)3月末に比べて36名減少)
▼肺:603名(同73名増加)
▼心肺同時[心臓と肺を同時に移植]:4名(同増減なし)
▼肝臓:369名(同71名増加)
▼腎臓:1万4350名(同376名増加)
▼肝腎同時[肝臓と腎臓を同時に移植]:31名(同2名減少)
▼膵臓:23名(同3名減少)
▼膵腎同時[膵臓と腎臓を同時に移植]:138名(同10名減少)
▼小腸:8名(同1名減少)
▼肝小腸同時[肝臓と小腸を同時に移植]:1名(同1名増加)
▼眼球(角膜):2015名(同93名増加)

「臓器移植を待つ方」が増加している部位と、減少している部位とがありますが。



これに対し、臓器「提供」の状況を見てみると、2023年度には116名の脳死者から臓器提供が行われました。前値度から11名増加しています。新型コロナウイルス感染症下では臓器移植提供が大きく減少しましたが、
コロナ感染症が落ち着き、「臓器移植の状況がコロナ禍前の水準を超える」状況になってきていますが。今後の動向を見守る必要があります。

▽心臓:提供は104名(前年度に比べて16名増加)、移植実施は104件(前年度に比べて16名増加)[すべてが脳死者からの提供・移植実施]

▽肺:提供は92名(同9名増加)、移植実施は108件(同4件増加)[同じくすべてが脳死者からの提供・移植実施](1つの肺を複数の肺葉に分けて複数人に移植することが可能なケースがあるため、提供者数よりも移植実施件数が多くなることがある)

▽肝臓:提供は105名(同14名増加)、移植実施は107件(同10件増加)[同じくすべてが脳死者からの提供・移植実施](1つの肝臓を切り分けて複数人に移植できるケースもあるため、提供者数よりも移植実施件数が多くなることがある)

▽腎臓:提供は119名(同8名増加)、移植実施は227件(同12件増加)[うち脳死者からの提供は104名(同8名増加)、脳死者からの移植実施は202件(同16件増加)](死者からの提供であれば、1人から2つの腎臓を摘出し、2名の患者に提供できるケースもあるため、提供者数よりも移植実施件数が多くなることがある)

▽膵臓:提供は32名(同3名増加)、移植実施は32(同3件減少)[すべてが脳死者からの提供・移植実施]

▽小腸:提供は2名(同2名減少)、移植実施は2件(同2件減少)[すべてが脳死者からの提供・移植実施]



また、臓器移植法施行(1997年10月16日)から今年(2024年)3末までに実施された臓器別の提供件数・移植実施件数(累計数)は次のようになりました。

▽心臓:提供は841名、移植実施は840件[すべてが脳死者からの提供・移植実施]

▽肺:提供は731名、移植実施は896件[すべてが脳死者からの提供・移植実施]

▽肝臓:提供は883名、移植実施は940件[すべてが脳死者からの提供・移植実施]

▽腎臓:提供は2463名、移植実施は4622件[うち脳死者からの提供が951名、脳死者からの移植実施が1861件)

▽膵臓:提供は537名、移植実施は533件[うち脳死者からの提供が533名、脳死者からの移植実施が530件]

▽小腸:提供は32名、移植実施は32件[すべてが脳死者からの提供・移植実施]



なお、眼球(角膜)については、2023年度に611名から提供がなされ(前年度に比べて36名増加)、移植実施は854件(同21件増加)となりました。臓器移植法施行からの累計で見ると、提供者は2万2852名で、移植実施は3万6894件となっています。

移植実施数等(2024年臓器移植実施状況報告2 240611)

2010年から始まった「15歳未満の小児」からの臓器提供、累計で79名に

ところで、改正臓器移植法が2010年に全面施行され、▼「家族による書面での承諾」に基づく臓器提供▼「15歳未満の小児」からの臓器提供―などが可能となりました。改正法施行(2010年7月17日)から今年(2024年)3月末までに臓器提供が行われた脳死者は956名(前年(2023年)3月末から116名増加)で、このうち、本人の書面による意思表示がなく「家族の書面での承諾」に基づく臓器提供は755名(同96名増加)となっています。

また、今年(2024年)3月末時点で、18歳未満の人からの脳死下での臓器提供は99名(前年(2023年)3月末から26名増加)で、このうち15歳未満の小児からの臓器提供は79名(同23名増加)となっています。

移植した臓器の生着率や患者の生存率、多くの臓器で成績が向上するが、小腸で低下

さらに、1997年の臓器移植法施行後からの▼移植後の生存率▼臓器の生着率(体内で機能している)―に目を移してみましょう。昨年(2023年)末までに移植が実施され、今年(2024年)3月末までに生存している人・臓器が生着している人の状況です。

まず5年生存率を臓器別に見ると、次のようになっています。
▼心臓:92.9%(前年度調査に比べて増減なし)
▼肺:72.6%(同1.6ポイント低下)
▼肝臓:84.5%(同0.4ポイント上昇)
▼腎臓:91.2%(同増減なし)
▼膵臓:92.0%(同増減なし)
▼小腸:62.3%(同13.4ポイント低下)

小腸移植患者で生存率が大きく低下している点が気になります。今後の状況を注視する必要があります。



また5年生着率(移植した臓器が機能している割合)を臓器別に見ると、次のような状況です。
▼心臓:92.9%(前年度から増減なし)
▼肺:71.9%(同1.2ポイント低下)
▼肝臓:83.5%(同0.3ポイント上昇)
▼腎臓:79.6%(同0.2ポイント上昇)
▼膵臓:75.9%(同0.5ポイント低下)
▼小腸:53.8%(同12.8ポイント低下)

やはり小腸で成績が低下している点が気になります。

もちろん、臓器も移植患者も一律ではないため(状態の芳しくない患者ではどうしても成績が悪くなってしまう)、中長期的に見ていくことが必要となります。

移植結果(2024年臓器移植実施状況報告3 240611)



なお、2015年末以降の5年生存率・5年生着率は次のように推移しています。多くの臓器で「成績が向上傾向にある」と見ることができそうです。今後も、長期的な視点で見ていくことが重要でしょう。

【5年生存率】
▽心臓

2015年末:91.0% → 2016年末:91.6% → 2017年末:91.9% → 2018年末:92.5% → 2019年末:93.0% → 2020年末:92.8% → 2021年末:93.1% → 2022年末:92.9% → 2023年末:92.9%

▽肺
2015年末:71.2% → 2016年末:73.0% → 2017年末:72.0% → 2018年末:73.4% → 2019年末:72.1% → 2020年末:73.5% → 2021年末:74.4% → 2022年末:74.2% → 2023年末:72.6%

▽肝臓
2015年末:81.1% → 2016年末:82.6% → 2017年末:83.0% → 2018年末:82.0% → 2019年末:83.1% → 2020年末:83.7% → 2021年末:83.4% → 2022年末:84.1% → 2023年末:84.5%

▽腎臓
2015年末:90.5% → 2016年末:90.9% → 2017年末:91.8% → 2018年末:91.1% → 2019年末:91.2% → 2020年末:91.3% → 2021年末:91.2% → 2022年末:91.2% → 2023年末:91.2%

▽膵臓
2015年末:94.6% → 2016年末:94.9% → 2017年末:95.3% → 2018年末:94.9% → 2019年末:93.6% → 2020年末:93.0% → 2021年末:92.3% → 2022年末:92.0% → 2023年末:92.0%

▽小腸
2015年末:69.2% → 2016年末:70.1% → 2017年末:70.7% → 2018年末:73.2% → 2019年末:70.3% → 2020年末:74.6% → 2021年末:77.6% → 2022年末:75.7% → 2023年末:62.3%

【5年生着率】
▽心臓

2015年末:91.0% → 2016年末:91.6% → 2017年末:91.9% → 2018年末:92.5% → 2019年末:93.0% → 2020年末:92.8% → 2021年末:93.1% → 2022年末:92.9% → 2023年末:92.9%

▽肺
2015年末:69.6% → 2016年末:71.2% → 2017年末:70.6% → 2018年末:72.2% → 2019年末:70.8% → 2020年末:72.4% → 2021年末:73.1% → 2022年末:73.1% → 2023年末:71.9%

▽肝臓
2015年末:80.5% → 2016年末:81.6% → 2017年末:82.8% → 2018年末:81.3% → 2019年末:82.4% → 2020年末:83.2% → 2021年末:82.6% → 2022年末:83.2% → 2023年末:83.5%

▽腎臓
2015年末:76.3% → 2016年末:77.4% → 2017年末:77.7% → 2018年末:78.1% → 2019年末:78.4% → 2020年末:78.9% → 2021年末:79.1% → 2022年末:79.4% → 2023年末:79.6%

▽膵臓
2015年末:75.3% → 2016年末:76.8% → 2017年末:75.2% → 2018年末:76.0% → 2019年末:76.9% → 2020年末:77.0% → 2021年末:77.0% → 2022年末:76.4% → 2023年末:75.9%

▽小腸
2015年末:69.2% → 2016年末:62.3% → 2017年末:62.9% → 2018年末:65.1% → 2019年末:62.4% → 2020年末:67.2% → 2021年末:70.6% → 2022年末:66.6% → 2023年末:53.8%



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