妊婦は「出産費用の軽減」とともに、「出産費用内訳の見える化」「丁寧な情報提供」などに期待—出産関連検討会
2024.8.22.(木)
妊婦は「出産費用の保険適用」そのものというよりも、「出産費用の軽減」「出産費用の見える化」「事前の丁寧な情報提供」などを求めている—。
出産以外にも、産前の妊婦健診や産後ケア事業などの各種支援について、「充実」や「費用負担の軽減」にとどまらず、「分かりやすい情報提供」に期待している—。
8月21日に開催された「妊娠・出産・産後における妊産婦等の支援策等に関する検討会」(以下、出産関連検討会)では、妊婦サイドからこうした意見発表が行われました。今後、「医療保険者や行政関係者」などの意見聴取も行われ、来春(2025年春)頃の意見取りまとめに向けて議論を深めていきます。
なお、「正常分娩の保険適用」に関しては、出産関連検討会で「論点を整理する」にとどめ、その後に社会保障審議会・医療保険部会や中央社会保険医療協議会などで具体的な議論が進められる見込みです。
「正常分娩の保険適用」そのものというよりも、「出産費用の軽減」に妊婦は期待
Gem Medでも報じている通り、我が国では少子化が進行しており、昨年(2023年)には、1人の女性が生涯出産する子の数に相当する合計特殊出生率が全国で1.20、東京都では0.99にまで落ち込むという衝撃的なデータが示されました。
少子化の進行は、「社会保障財源の支え手」はもちろん、「医療・介護サービスの担い手」が足らなくなることを意味します。さらに社会保障制度にとどまらず、我が国の存立そのものをも脅かします(国家の3要素である「領土」「国民」「統治機構」の1つが失われ、日本国そのものが消滅しかねない)。
この方針を踏まえて厚生労働省・子ども家庭庁が出産関連検討会を設置。(1)出産に関する支援等の更なる強化策(医療保険制度における支援の在り方(正常分娩の保険適用など)、周産期医療提供体制の在り方)(2)妊娠期・産前産後に関する支援等の更なる強化—について、来春(2025年春)頃を目途に結論を出すべく、議論を続けています(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
8月21日の会合では、妊婦側の意見聴取が行われました。
まず、妊娠・子育て中の女性の率直な意見を酒井祐子参考人・武田彩参考人・冨樫真凛参考人の3氏が披露。そこでは、例えば次のような意見が示されています。
【妊婦支援】
▽産前から産後にかけての流れなど、丁寧な情報提供があることで安心して出産できる(酒井参考人)
▽SNSなどで情報があふれているものの、「正しい情報」がどれなのか判別が難しい。専門職からの丁寧な情報提供に期待したい(武田参考人、富樫参考人)
▽両親学級などは「争奪戦」となるため拡充に期待している(武田参考人)
【施設選択のポイント】
▽費用、無痛分娩実施の有無(3参考人)
【出産費用に関する施設側の情報提供】
▽「●●円から」となっており、実際にどの程度になるのかが分からない(武田参考人)
▽事前に「吸引の費用は●●円」などの説明はあったものの、分娩中に「吸引をする必要があるがよいか」と決断を迫られた。出産育児一時金などで賄えない費用が50万円近くになった(酒井参考人)
▽居住地(住民票の所在地)によって出産費用の助成に非常に大きな差があることを痛感している(富樫参考人)
【出産費用の保険適用への期待と不安】
▽費用負担が減ること(できれば無料)に期待している、一方で、現行サービスが縮小・廃止となることには不安も感じる(3参考人)
また、8月21に出産関連検討会では、▼赤ちゃん本舗社(子育て関連グッズの販売とともに、出産関連の情報提供を行っている)▼たまひよ(雑誌・アプリを中心に妊娠・育児事業を各種展開する)▼子どもと家族のための緊急提言プロジェクト(有識者、保育関係者、ジャーナリストなどで構成され、出産支援などの提言を行っている)▼コネヒト社(子育て支援サービス「ママリ」を展開する—の4団体からも意見聴取。各団体の会員等を対象に行ったアンケート結果や、これまでの事業で得られた知見をベースにした提言などが行われました。次のようなものが目立ちます。
【赤ちゃん本舗社】
▽7500人の会員アンケートから▼妊娠中・産後にかかる費用が不明瞭である▼国や自治体、健康保険からの給付、その他控除についての認知度が低い▼情報収集や各種手続きが困難である—ことなどが判明した(知らなければ各種助成・支援の申請を行えず、その情報も散在しており、入手・収集が困難である)
▽産後の金銭的支援(例えば、おむつや粉ミルクの購入支援、減税(年少扶養控除)、各種手当の増額、保育料の完全無償化、教育費の補助・無償化など)を強く希望する声が多い
【たまひよ】
▽母親の75.0%、父親の59.1%が「日本は子どもを産み育てやすい社会だと思わない」と回答しており、その理由のトップは「経済的・金銭的な負担の大きさ」である
【子どもと家族のための緊急提言プロジェクト】
▽出産育児一時金の範囲内で出産費用を賄えたケースは7%に過ぎず、その多くは「帝王切開」、つまり保険診療に移行したケースである(正常分娩ではない)
▽安心して妊娠・出産、育児にのぞめる環境を確立するために、▼妊娠から産後ケアまでを保険適用とし、自己負担をゼロにする▼すべての人に「妊娠からの伴走型支援」(かかりつけ助産師など)を行う—などを提案
【コネヒト社】
▽9割の妊婦で「妊婦健診に関連する自己負担」が発生している(移動コスト、妊婦健診以外の各種検査費など)
▽出産時に自己負担が発生した(出産育児一時金<出産費)ケースは78%で、「10万円未満」が多いが、「50万円以上」とのケースもある
▽退院日に出産費用が明らかになったケースが24%、施設側から費用の説明が十分でなかったケースが32%ある
▽産後ケアを受けなかった者の59%は、「近くに施設がない」「費用が高すぎる」「上の子を預けられない」などの理由で、「受けたかったが受けられなかった」と回答している
これらの意見(妊婦3参考人、妊婦支援4団体)からは、まず「出産にかかる費用が明瞭でなく、妊婦等にとって非常に分かりにくい」状況であることが伺えます。こうした事態は放置できず、厚生労働省は、この5月(2024年5月)からウェブサイト【出産なび】を稼働させ、「全国の産科医療機関等のサービス内容、費用など」の情報提供を開始しています。
●厚労省の分娩医療機関検索サイト【出産なび】
しかし、妊婦の状況などは様々であり、実際に「どの程度の費用がかかるのか」という情報提供は十分とは言えません(「●●円から」では、どの程度に収まるのかが全く分からない)。この点、産科医療機関等を代表して参画する前田津紀夫構成員(日本産婦人科医会副会長)や亀井良政構成員(日本産科婦人科学会常務理事)は「産科医療機関サイドも反省すべき点が大きい。行政と連携しながら、丁寧で分かりやすい情報提供に努めていく」とコメントしています。今後、産科医療機関から行政へより詳細な情報提供が行われ、上述「出産なび」の掲載内容が充実していくことや、産科医療機関から妊婦・家族に対し、より丁寧な費用説明が行われることなどに期待が集まります。
また、注目論点である「出産費用の保険適用」に関しては、「保険適用そのものを求める」という声よりも、「妊婦や家族の費用負担軽減を期待する」声が多いことが示されました。この点、「保険適用=出産費用の軽減と考えている人も多く、少し懸念をしている」(中西和代構成員:ベネッセクリエイティブワークス社たまごクラブ前編集長)、「保険適用による出産に関する診療行為の標準化が進むことにも期待している」(佐藤拓代参考人:医師、全国妊娠SOSネットワーク代表理事、子どもと家族のための緊急提言プロジェクト共同代表)といった声も出ている点に注目が集まります。
2022年度の診療報酬改定では「不妊治療の保険適用」が行われました。そこでは、「費用負担の軽減」とともに「治療内容の標準化」が重要視点の1つとなっており、「正常分娩の保険適用」論議でも、重要な論点・視点の1つとなってきそうです。
他方、妊婦等を支援する仕組みとして様々なものが準備・用意されていますが、その情報が妊婦サイドに十分に伝わっていない(知らないがために利用されない・できないケースが少なくない)こともより明確となりました。濵口欣也構成員(日本医師会常任理事)は「各種支援制度を分かりやすく、積極的に、適切なタイミングで広報していくことが重要である」と強調しています。もっとも「情報量が膨大過ぎ、情報の沼にはまってしまう」との声もあることから、単に「情報発信すればよい」とはならない点にも留意が必要でしょう。
検討会では今後、「医療保険者や行政」の意見聴取も行い、来春(2025年春)頃の意見取りまとめに向けて議論をさらに深めていきます。
【関連記事】
「正常分娩を保険適用」により産科医療機関が減少し、妊産婦が「身近な場所でお産できる」環境が悪化しないか?—出産関連検討会
「正常分娩を保険適用すべきか」との議論スタート、「産科医療機関の維持確保」や「保険適用の効果」などが重要論点に—出産関連検討会
高齢者にも「出産育児一時金」への応分負担求める!「全国医療機関の出産費用・室料差額」を公表し妊婦の選択支援—社保審・医療保険部会
「マイナンバーカードによる医療機関受診」促進策を更に進めよ、正常分娩の保険適用も見据えた検討会設置—社保審・医療保険部会