「出産費用の保険適用」と「地域の周産期医療提供体制確保」とをセットで議論すべきか、別個に議論すべきか—出産関連検討会
2024.12.16.(月)
「地域の周産期医療提供体制確保」が急務であり、「出産費用の保険適用」(現物給付化)とセットで議論すべきではないか—。
「地域の周産期医療提供体制確保」は国・都道府県の責務であり、「出産費用の保険適用」(現物給付化)とは分けて議論すべきではないか—。
12月11日に開催された「妊娠・出産・産後における妊産婦等の支援策等に関する検討会」(以下、出産関連検討会)で、こうした議論が行われました。今後、論点に沿って議論を深め、来春(2025年春)頃の意見取りまとめを目指します。
なお「正常分娩の保険適用(現物給付化)」に関しては、出産関連検討会で「論点等を整理する」にとどめ、その後に社会保障審議会・医療保険部会や中央社会保険医療協議会などで具体的な議論が進められる見込みです。
出産費用(正常分娩)の保険適用(現物給付化)には依然として賛否両論
Gem Medでも報じている通り、我が国では少子化が進行しており、昨年(2023年)には、1人の女性が生涯出産する子の数に相当する合計特殊出生率が全国で1.20、東京都では0.99にまで落ち込むという衝撃的なデータが示されました。
この方針を踏まえて厚生労働省・子ども家庭庁が出産関連検討会を設置し、様々な角度から議論を重ねています(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちらとこちら)。
12月11日の会合では、これまでの議論を踏まえて、今後、次の4つのテーマに沿って議論を深めていくことを確認しました。
(1)周産期医療提供体制の確保
(2)出産に係る妊婦の経済的負担の軽減
(3)希望に応じた出産を行うための環境整備
(4)妊娠期、産前・産後に関する支援策等
こうした4テーマについて、佐野雅宏構成員(健康保険組合連合会会長代理)や松野奈津子構成員(日本労働組合総連合会生活福祉局次長)らは「(1)の周産期医療提供体制の確保と、(2)に関連する医療保険とは切り離して考えるべきである。周産期医療提供体制の整備は国・都道府県の責任で行うものである」と改めて強調しましたが、前田津紀夫構成員(日本産婦人科医会副会長)や亀井良政構成員(日本産科婦人科学会常務理事)、濵口欣也構成員(日本医師会常任理事)は「地域の周産期医療体制は崩壊の危機にある。別個に考えるという悠長な話をしている場合ではない」と反論しています。医療提供サイドの意見と、費用負担者サイドの意見とが、大きく乖離している点が気になります。
また利用者(妊婦)サイドからは、「妊婦の自己負担はゼロとし、一方で、産科医療機関等の経営が安定する」ような方策を検討すべきとの声が出ています(例えば新居日南恵構成員:manma理事)。仕組みとしては、例えば「正常分娩を保険適用したうえで、点数(診療報酬)を非常に高く設定する(産科医療機関の収益を確保する)。そのうえで患者(妊婦)負担分は公費等で補填を行う」ことなどが考えらますが、▼正常分娩の点数のみを高くすることに理解が得られるか(他診療科も「高い点数」を要望しており、同調性するか)▼自己負担をゼロとするための財源をどう確保するか—という難しい問題があることにも留意が必要です。もっとも「財源」に関連して今村知明委員(奈良県立医科大学教授)は、「少子化のスピードは加速しており、このままでは国家存亡の危機が訪れる(国家として存立するためには、国土・統治機構(政府)・国民の3要素が必要不可欠)。公費等を投入して早急に解決しなければならない。お金がないので少子化を止められないことがあってはいけない」とコメントしています。
他方、(2)に関連する「正常分娩の保険適用(現物給付化)」については、▼医療費は公費・保険料・自己負担しか財源がなく、自己負担を減らせば、その分、公費や保険料の負担が大きくなる。バランスの考慮が重要である。さらに議論の大前提として「施設ごとの詳細なデータの可視化」が必要となる(佐野構成員)▼医療の質向上、サービスの標準化のためにも進めるべき。また産痛緩和ケアの保険適用も行うべき(松野構成員)▼出産における医療は極めて多様であり、標準化・現物給付化は困難である。「療養の給付」(通常の傷病の治療に対する保険)とは別の概念で考えるべき。また出産一時金の引き上げに伴って「出産費用を便乗値上げ」していると指摘されるが、諸物価・人件費高騰でやむにやまれずの引き上げである点を理解してほしい(前田構成員)—など、多様な意見が錯綜している状況です。
このように「議論がなかなか前に進んでいかない」状況を受け、中西和代構成員(たまごクラブ前編集長)や田倉智之構成員(日本大学医学部主任教授)、李輝淳構成員(赤ちゃん本舗コミュニティデザイン統括部長)らは、「4テーマを並列扱いせず、優先順位をつけて議論すべき」と提案しています。非常に重要な指摘で、家保英隆構成員(全国衛生部長会会長/高知県理事(保健医療担当))は「地方では、周産期医療の縮小が急速に進んでいる。緊急に(1)の周産期医療体制確保論議を進めるべき」と進言しています。前田構成員や亀井構成員ら医療提供サイドも上述のように同旨の考えを述べています。
今後、どういった順番・濃度で(1)から(4)の議論が進められるのか注目する必要があるでしょう。
なお「正常分娩の保険適用(現物給付化)」に関しては、出産関連検討会で「論点等を整理する」にとどめ、その後に社会保障審議会・医療保険部会や中央社会保険医療協議会などで具体的な議論が進められる見込みです。
「出産なび」に妊婦健診情報や産後ケア情報なども掲載してはどうか
また12月11日の出産関連検討会では、全国の産科医療機関の情報を一覧化した「出産なび」について、今後、どのように改修・拡充していくべきかという議論も行われています。
出産なびは、本年5月からスタートし、妊婦等が「どの医療機関では、どの程度の出産費用が掛かるのか、どういったサービスがあるのか」などを比較検討するために大きな効果を発揮していますが、さらに「情報の充実」を求める期待の声が出ています。
出産関連検討会でも、▼費用情報充実の声が大きく、それに応えるべき(佐野構成員)▼妊婦健診費用などの情報も掲載すべき(松野構成員)▼健診情報・産後ケア実施情報などの掲載が重要である(新居構成員)▼小規模施設では費用情報等が「-」表示になっており、工夫を期待したい(髙田昌代構成員:日本助産師会会長)▼産後ケア情報を求める声が多く、前向きに検討してほしい(井本寛子構成員:日本看護協会常任理事、李構成員)▼健診を受ける前、つまり「妊娠しているかどうか検査を実施する施設」情報の掲載が重要であろう(中西構成員)▼情報充実は非常に重要であるが、情報提供を行う医療機関等の負担も考慮してほしい(前田構成員)—などの声が出ています。
今後、厚労省で意見を整理し「出産なびの拡充」に向けた方策を探っていきます。もっとも改修には相応の予算も必要なため、要望事項を一度に実現することは困難で、優先度をつけて対応していくことになるでしょう。その際、必要に応じて「再度、出産関連検討会で意見を募る」ことがあるかもしれません。なお、出産なび改修は、上述した(1)-(4)論議とは必ずしも連動しません(別個に改修が図られる)。
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