気管支拡張症に対するマクロライド系抗菌薬、耐性菌出現・副作用の発現・供給不安に対応するために「適正使用」徹底を―感染症学会等
2025.5.30.(金)
気管支拡張の治療・管理、とりわけ急性増悪の頻度を下げるために「少量、長期間のマクロライド系抗菌薬」使用が推奨されているが、現時点では適応外使用であること、耐性菌が出現する可能性があること、副作用の発現にも留意すべきこと、現下の医薬品供給不安の中でマクロライド系抗菌薬であるエリスロマイシン、エリスロシンの確保が難しいケースも出ていることなどを踏まえて、「適正使用」に努めることが必要である—。
具体的には、「急性増悪を認めた既往のある患者に対し、他の治療法(気道クリアランス療法、理学療法など)で十分な管理が困難な場合」に、マクロライド系抗菌薬の使用を考慮し、「定期的な評価を行いながら治療の継続の適否を判断」する必要がある—。
日本感染症学会・日本呼吸器学会・日本化学療法学会は5月19日に「気管支拡張症に対するマクロライド系抗菌薬の適正使用のお願い」として、こうした点への留意を各医療機関に求めました(日本感染症学会のサイトはこちら)。
「少量、長期間のマクロライド系抗菌薬」使用が気管支拡張症の管理に有用だが・・・
気管支拡張症は「気道の不可逆的な拡張」を伴う慢性的な炎症を特徴とする疾患で、主症状は▼慢性の咳嗽▼喀痰▼頻回の急性増悪—などです。最近の調査・研究では、気管支拡張症の有病率は増加傾向にあり、高齢化の進行とともに「さらに患者数が増加する」と予測されています。
気管支拡張症、とくに急性増悪の頻度が上がった場合には、患者の予後に大きく影響を与えるため、その管理が重要となります。
そうした中、抗菌剤として開発された「マクロライド系抗菌薬」に、抗炎症作用や免疫調節作用があることが分かり、気管支拡張症を含む慢性気道疾患の管理にも使用されるようになっています。これまでの研究でも「マクロライド系抗菌薬の少量長期投与が気管支拡張症の急性増悪の頻度を低減する」ことが示され、一定の条件下での投与が推奨されています。
しかし、長期使用に伴って「耐性菌の増加」「副作用(消化器症状、肝機能障害、QT延長による心血管リスク、聴覚障害など)」も生じることから、適応については慎重な検討が必要となります。
この点について、3学会では「気管支拡張症に対するマクロライド系抗菌薬の使用」は、現時点では「適応外使用である」ことを熟慮した「適応の明確化が重要」とし、現在のエビデンスに基づき「急性増悪を認めた既往のある患者に対し、他の治療法(気道クリアランス療法、理学療法など)で十分な管理が困難な場合にマクロライド系抗菌薬の使用を考慮する」べきと指摘しています。
あわせて投与期間についてはは、「6か月以上の継続が有効」との研究結果があるものの、「不必要な長期使用を避けるため、定期的な評価を行いながら治療の継続の適否を判断する」ことが必要とも指摘しています。
さらに▼「耐性菌の出現防止」のため、不適切な投与、とりわけ「Pseudomonas aeruginosa感染例」「明確な適応のない症例」においては他療法の検討が望ましいこと▼副作用として知られる消化器症状、肝機能障害、QT延長による心血管リスク、聴覚障害などのモニタリングも適正使用の観点から不可欠である▼「気管支拡張症あるいは慢性下気道疾患の患者」の中に、非結核性抗酸菌症の患者(診断未確定患者)が潜在している可能性が高く、抗酸菌検査などを含めた精査を十分に行わず、安易にクラリスロマイシン、アジスロマイシンをエリスロマイシン・エリスロシンの代替薬剤として用いる事は、患者の予後を悪化させる可能性がある—ことにも留意するべきと強調しています。
ところで、昨今の医薬品供給不安の中で「エリスロマイシン、エリスロシンの処方が一部医療機関で困難になっている」ことが報告されています。3学会による製薬企業への照会でも「出荷調整」との回答が得られており、「エリスロマイシン、エリスロシンの供給量が今後『増加』する見込みは乏しく、むしろ『減産』の方向に動く可能性もある」と3学会では予測しています。
こうした状況を踏まえて3学会では、次のように対応する必要があると提言しました。
(1)適正使用の啓発
気管支拡張症に対するマクロライド系抗菌薬長期投与の適応を明確にし、適正な投与が行われるよう啓発を行う
(2)AMR(抗菌薬耐性)対策の推進
不適切な抗菌薬投与を抑制してマクロライド系抗菌薬の消費量を減らすため、3学会が協調して「手引き」の見直しを行う
(3)供給安定化に向けた関係機関との連携
行政・製薬企業と連携し、安定供給に向けた働きかけを強化する
。
3学会では「慎重に適応を判断し、耐性菌リスクや副作用管理を考慮した適正使用」の必要性を強調するとともに、今後、さらなる研究により長期的な安全性評価や、新たな治療選択肢の確立に期待を寄せています。
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